遊撃担当 ルークス
「そうだな、相棒、お前は前線に出て戦うんじゃなくて遊撃の様な感じの立ち回りを任せたいんだが、いいか?」
城を出てすぐ、バレスがそう聞いてきた。
「遊撃...別に構いませんが、その前に私はどの方角に攻めればいいのでしょう?」
遊撃は元々得意ではあった。
だが、それは動きをよく知る仲間がいて、しっかりと目標が定まっている時に最も力を発揮する。
突然今回はここ、今回はここというように変えられては上手くいかないかもしれない。
「ん?何言ってんだ、お前は全部隊の遊撃担当だよ」
「は...?」
その答えは狂気そのものだった。
「無理です!人がどう動いたとしても、王都周辺を一人で回るのに30分以上はかかります!そして遠征ともなればさらに広い範囲を動きます。伝令も上手く伝わらなくなり、逆に隊が混乱する可能性もあります!それでもやれというのであれば私は私のやり方でこの世界に立ち向かいます」
しまった...。あまりにも無茶な話に少しばかり熱くなりすぎた。
「ほー。今の一瞬でそこまで頭が回るか...」
バレスがそう言って笑いかけてくる。
いつもの豪快な笑顔では無く、おもちゃを見つけた子供のような無邪気な笑顔だ。
「お前、旅人なんかじゃねえだろ?」
直後、バレスから放たれた言葉に言葉を失った。
気づかれた...!?いや、気づかれていたのか...。
「出自については触れない、という話では?」
が、顔には出さない。至って冷静を保つ。
「ふん、それは王とお前の間での話だろ?」
へへーんとバレスが威張る。
「...時が来たら、教えると約束しましょう」
私は曖昧に答えるしかなかった。
「今すぐ...とはいかないか。それと、口調、変えた方がいいぜ」
「口調か...」
「ああ、それじゃあお前の戦いを見てねえ他の騎士からなめられるぞ」
目は真剣。それもそうか。自分の隊の尊厳も下手したら失墜しかねないのだから。
「わかった。これでいいか?」
私は...いや、俺はもう立場に合わせて人格を創る必要はないんだったな。
「ああ、そうだ、敬語使ってると弱々しく感じるからな」
この漢は、俺に必要な物事を気づかせてくれるな。
元からそういった力でもあるのか?
「よし、騎士団の宿舎に行くぞ。あ、言い忘れてたけどお前は俺の隊に入れ。お前は戦力的に見てかなり使えるが、まだ俺らと会って一日も経ってない。そんな男は野放しにできないから監視役が必要だろう、現段階で最強の男を監視にしよう。ってことでお前は俺の隊だ。文句があったら言え。何も変わらないがな」
ガッハッハッハ。
バレスはそう言って歩いていく。
「はぁ...」
まあ確かにそれが当然の選択であり、最良の選択だ。
拳を握り締める。
ロールマンは言っていた。四方に戦力を割かないといけないと。
つまり、だいたい同じ速度でジワジワと広げていくことがこの国の方針だ。
自惚れている訳では無いが、この世界の魔物は、俺より数段下のレベルにいる。
下手をすれば俺のいる方角だけ異様に突出してしまうかもしれない。
ああ、それを防ぐ為の遊撃というポジションか。
一人熟考し、一人納得する。
「ふふっ」
思わず声が漏れる。
バカに見えて実は頭が回る、話さなければ気が付かないものだな。
意外と、すんなりヒルベリア王国に戻れそうだ。
あの、最愛の人の元へ。
氷の貴公子〜職と国を追い出されたけど貴女を護る為に戦います〜 希望の花 @teru2015
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。氷の貴公子〜職と国を追い出されたけど貴女を護る為に戦います〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます