第6話 星助け

 ある日の午後。


「全員いるか?」


「課長っ! 野田坂口組がいませんっ!」


 赤田がビシッと立ち上がって言った。


「まあ、これだけいればいいか.......」


 部屋には、全部で3組、6人の警官がいた。


「星の大規模飼育が発見された。今日乗り込むぞ」


「あ、すいませーん。星野ツキ組パスでー!」


「.......理由を言え」


「一課の押収物に、謎の卵がありまして! 温めてないと!」


「押収物ーー!! 返してこいー!!」


「.......卵、温める」


「だいたいなんの卵だ! 返してこい!」


 星野が非難がましく課長を睨む。


「卵、死んじゃう」


「なああああ!!」


 課長が卵をひったくって部屋を出てしばらく。

 息を切らせた課長が入ってきて、堂々と言った。


「ごほん。全員現場で集合!」


「.......卵」


「星野ちゃん、後でもう1回取ってきてあげるから」


「押収物ー! 勝手に取るなー!」


 車に乗って、現場へと向かう。

 着いた現場は、古びたアパート。


「このアパートは先月に丸々買い取られた。

 ここで星の大量飼育が確認された」


「課長っ! その星はどこからやって来たのですかっ!」


「おそらく、去年の星降りの時に捕獲したんだろう」


「.......1年も」


 星野がぎゅっと拳を握る。


「突入するぞ!」


「「了解!」」


 全員がアパートの入り口に待機し、青木のカウントを待つ。


「あ、星野ちゃん。僕ちょっと車に戻るね」


「.......水」


「ああ、そこの自販機で買ってくるよ!」


 ツキが待機場所から離れたのに気づいた人はいなかった。


「3、2、1、突入!!」


 全員がばっとアパートに入っていく。


「警察庁星追い課だ!! 全員大人しくしろ!」


「げっ、サツだ!」


「パクられる前に逃げろ!」


 アパートには5人の男達。

 逃げようと立ち上がる前に、取り押さえられる。


「許可のない星の飼育で現行犯逮捕! さらに捕獲の容疑もかかっている! 同行願おうか!」


「くそっ.......! 割っちまえ!!」


「あっ! ダメ!」


 星野が止めるより早く、男がうつ伏せのまま棚を蹴り倒した。


 がしゃんっという音と共にガラスの瓶が割れる。

 りーーんっと音がなって光が零れる。


「ダメっ! 今出たら消えちゃうっ!」


 星野が手を伸ばしても、小さな光は空へ向かう。

 アパートの壁にぶつかっても、無理やり空へ向かう。

 そして、弱い光は壁をすり抜ける。


「ああっ!!」


 星野が外へ走り出て、男を殴って気絶させた青木も後に続く。


「はい! ゲットー! 僕ったらまた網捌きに磨きがかかったみたいだね!」


 アパートの外では、虫取り網を持ったツキが胡散臭い笑みを浮かべて、長い指でペットボトルを摘んでいた。


「星野ちゃん、瓶は?」


「ツキっ!」


 ぎゅっとツキに抱きついた星野が、ぐりぐりと頭をツキのシャツに擦り付ける。


「おお、熱いですねぇ! たった5分の別れも、僕達にとっては永遠だ!」


「ツキっ、ツキ! 大好きっ!」


「素敵ですねぇ、星野ちゃん! このままデートに行こうか」


「おいツキ! 勝手に持ち場を離れてんじゃねえっ!

 だけど今回だけは許す! よくやった!」


「おや? 青木くん、こんなところでどうしたんだい?」


「仕事だ馬鹿野郎ーー!」


「はは。元気ですねぇ、ほら、早く瓶を開けて!」


 青木がポケットから出した瓶に、星を入れる。


「だいぶ弱ってるね、星野ちゃん、大丈夫?」


「.......大丈夫。戻れる」


 瓶をぎゅっとだいた星野は、トコトコと車に向かった。


「星野ちゃん、待っててねー!」


「ん」


「おらっ、お前ら勝手なことしてんじゃねえ!」


「まあまあ青木くん! 事務の原さんは身長は気にしないってさ!」


「お前を殺すーー!!」


 ツキは胡散臭く笑いながらアパートに入って、瓶を集めていた課長に聞く。


「全部でいくつですか?」


「お前、どこいってたんだ? .......8個だ」


「これまた大犯罪ですねぇ! この方達が犯人さんですか?」


 5人のうち2人が頬を青く腫らして気絶していた。


「青木先輩っ! 私も殴って気絶させましたっ!」


「赤田、俺は外に出るから殴ったんだ。お前のはただの暴力」


「すいませんっ!!」


 赤田がビシッと頭を下げる。


「次から気をつければいい。今日は頑張ったな」


「ありがとうございますっ!!」


「素晴らしい愛だね!」


「ツキ! 黙れこの詐欺師!」


「はは。元気だねぇ」


 ツキは長い足で部屋の奥へ進む。

 そして、床に散らばったガラスの破片を、長い指で摘みあげた。


「随分杜撰な育て方ですねぇ。皆さん、本当に星のことご存知で?」


「.......」


 犯人達は何も話さない。


「もしかして、だんまりってやつですか? いいですねぇ、実に犯人らしい!」


 ツキがゆっくりと犯人の前に屈んで、その長い指を犯人の額に突きつける。


「なんで星を育てていたんですか? まあ、星の使い道なんてたかが知れてますけどねぇ!」


 ぐりっと、指を押し付ける。


「お答えください。課長や青木くんの尋問は怖いですよー?」


「.......っ!」


 さらにぐりぐりと指を押し付ける。

 胡散臭い笑みを浮かべて、ツキが犯人の目をのぞき込む。


「電池ですか? 薬ですか?」


「ひっ」


「はは。怖がらないでください! 僕は優しいお巡りさんですからねぇ!」


「.......っ!」


 犯人がガタガタと震え出す。

 ツキは耳元に口を寄せて、呟く。


「治したい病気、あるんでしょう?」


「ああっ! あああ!!」


 犯人が目に涙を溜めて震える。


「娘さん、楽にしてあげたいですねぇ?」


 ぐりっと、指が額を押す。


「でもね。犯人さん」


 犯人の耳元で、ツキの胡散臭い声がゆっくりと響く。


「もう終わりです」


 ガクンっと犯人の体から力が抜ける。

 そして、ツキは胡散臭い動作で立ち上がった。


「人助けより、星助け! なんせ僕達は星追い課ですから!」


 他の犯人達は、いつの間にか気絶していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る