第24話:1-5の勇者パーティー

さて木葉がレスピーガ地下迷宮にいる間、クラスメイトたちがどうなっていたかについてを見て行こう。



バチバチバチッ!


「っと!すご、、やっぱ参考書って大事なんだよな〜」


自室で何やらバチバチ怪しい実験を行なっているのは、金髪不良ガール:真室 柊(まむろ ひいらぎ)。役職は錬金術師だ。机の上にはチョークで書かれた魔法陣とよく分からない材料、、そして一枚の画用紙。


「スキル:想像力補助」


画用紙に描かれているのは、手榴弾だ。グレネードなどではなく、ハンドタイプの旧式。まずはイメージしやすいところから練習して行こうと、第二次大戦中の爆弾から試している。


「特殊スキル:錬成」


謎の液体を魔法陣の中心に垂らし、スキルを発動させる。液体が魔法陣の線に沿って伝っていき、やがて魔法陣は赤く光り始めた。


机の上の黒い物体がチリチリと消えていき、代わって魔法陣の中心には段々とあるものが形作られていく。それは、画用紙に描かれた手榴弾と全く同じものだった。柊はその手榴弾を手にとって不思議そうに眺める。


「うーん。戦車潰すのにはこれくらいでいいかもだけど…。てかどっかで実験できねぇかな」


特殊スキル:錬成は錬金術師特有のスキルだ。錬金術師というのは非戦闘系に見えて実質かなり戦闘系である。実際帝国や南方連合との戦争でも彼らの尽力は大きいし、その人材はかなり重宝されている。本来なら柊もこの時間はゴダール山攻略に駆り出されているはずなのだが……


「サボり癖って一度ついたらなかなか治んないんだよな。やー参った参った」


と、言うわけだ。白鷹ガタリが船形荒野を抑えてなんとか攻略を進めていると聞いているが、最近は街に出かけて遊んでそれから錬金術の練習という生活が板について来た。時々実践のためにゴダール山の方にもいくが…


「さて、じゃあそろそろ進めますかね」


……


…………


…………………


王都:パリスパレスの2番街、【アルケミー〜錬金術師のための用具店】にて


「およよ!今日も来なすってでヤンスか、ヒイラギっち!」


頭にバンダナを巻き、その上からゴーグルをつけた短髪の少年は名をミョンスという。王都の錬金術師協会では最年少で店を切り盛りしており、若くして才能溢れる男だ。高身長でハンサムな顔立ちなのだが、性格が子供っぽいのが若干傷である。


「おうミョンス!今日も紫炭(したん)×10、青銅×5、偽鉄×20、火薬×30、炎尾薬×10で頼む」

「何時ものでヤンスな!合点承知!」


昼間、攻略組がゴダール山に向かう中でおサボり中の柊はこうして王都の錬金術師たちと親交を深めている。中でもミョンスは同年代ということもあり、かなり仲良くなったという自負がある。


「今日もウチでやってくとよいでヤンス!工房は貸しますでヤンスよ」

「悪りぃな本当。いつも助かるわ。やっぱ自室だと限度あるんだわ」

「王宮で爆発なんてしたら一大事でヤンス。真っ先にヒイラギっちを疑うでヤンス」

「いつか絶対やらかすから好きなだけ疑っててくれよな!」


奥に入ると、そこは流石本職と言うべきか、錬金術師の工房が広がっている。必要な魔法陣はその材料の特性ごとに設置され、要らなくなった材料なんかも置かれているため実験にはもってこいだ。


「よし、、じゃあ次は機関銃いってみるか!」


そう、ここ最近柊が作り出そうと苦心しているのは現代の銃火器だ。それは当然、異世界において使用すれば最早チートとなり得る。とは言え魔獣に対してのそれは限度があり、表面の硬い装甲を崩すには魔法が最適。よってこれは対人用兵器である。


「よっし!」


工房に赤い光が満ちていく。


……


…………


……………………


〜ゴダール山第78層にて〜


「船形っ!!今だ斬れ!」

「命令、すんなっ!!」ザシュッ


船形荒野の大剣が目の前の怪物:オークの体躯をそぎ落とす。勇者パーティーは今、オークの群れに囲まれていた。


「お、オークとはあれだよね?あの、女性を犯しに掛かるお約束の化け物だよね?む、無理無理無理!」

「千鳥ちゃん冗談言ってる場合じゃないから!りゃぁぁあ!!」


花蓮の弓から閃光が走り、オークの心臓を突いた。力なく倒れこむオークだったが、またその後ろから二体向かってくる。


「うりゃぁぁぁあ!!」


鮭川樹咲の鉄拳がオークの顔面にめり込む。その跳躍力は、日頃の訓練の賜物であるといえよう。


「ボスオーク来るぞッ!」


白鷹ガタリの大声で皆に緊張が走る。進軍してくるその巨体は、間違いなく群のボスだろう。醜悪なフェイスがクラスの女子たちの不興を買っている。


「き、きも!」

「うわぁ」

「アレに犯されるとかなったら舌噛み切るわ」

「アレにやられるくらいなら零児の方がマシ」

「あ!?今なんつった!!」


不憫な男、天童零児。武闘家の彼は、真っ先にみんなの前に出てボスオークと交戦する。


「援護する、零児!」


槍使いのガタリがその赤い槍を振るってボスオークのアーマーを崩しに掛かる。…しかし


「くっ!止められた!?」

「タァァア!」


零児の鉤爪がオークの腹にめり込むが、その程度ではビクともしないオーク。ニタァと醜悪な笑みを浮かべて、2人の頭を潰しにかかる。


「【ボルトアロー】!!」


花蓮が弓を引いて攻撃魔法を使う。麻痺効果を付与したボルトアローがオークの肩に刺さり、オークの動きがかなり鈍った。


「ちんたらしてんじゃねぇぞゴミがぁ!!」


船形荒野が大剣を薙ぐ。オークのアーマーは粉々に壊れ、緑色の血が吹き出す。そこにすかさずガタリが槍で心臓を突き、零児が頭に鉤爪を当てる。トドメは…


「おらぁ、バーニングぅぅう!!」


妖術師:戸沢菅都(とざわかんと)の一撃。オークの体は炎に包まれ、アイテムがドロップされた。


「やった!!俺たちの勝ちだ!」

「あっぶねぇだろ!菅都!俺まで燃えるとこだったじゃんかよ〜!マジでヤバスだわ〜」


零児は自分が丸焦げになりそうだったことさえネタにして場を盛り上げた。なんかもう流石である。


「これで78層も突破か。まだまだ先は長いが、俺たちのペースも上がってきている。みんな、頑張ろう!」

「おうよ!」

「分かってるわ!」


ガタリの一声でクラスが団結………しなかった


「何でテメェが仕切ってんだよ、勇者は俺だぞ槍使い」


船形荒野だ。そして、荒野の彼女である金髪ケバメイクの女子:高畠 三草(たかはた みくさ)も花蓮たちに突っかかる。


「あんたらの援護雑魚くね?wwwアタシに泥とか付いてたらどんな風に責任とってくれるわけ?ww」

「…私はやることをやっただけよ。高畠さんだって何もしないで突っ立って…」

「あ?アタシになんかあったら荒野が黙ってないからね?また痛めつけられたいの?」

「______ッ!!」


花蓮は異世界に来て、何度も船形荒野に暴力を振るわれている。それも、ほぼレイプ寸前だ。幸いそういう行為には至っていないが、荒野が本気を出せばそうもいかなくなるだろう。そして1-5のクラスの女子の中でも、異世界に来て無理やり荒野に犯されたものも数名いる。


それだけではない。最近は荒野の取り巻きも増えて来ていた。女子は高畠三草を筆頭に無理やりグループを作り、男子も戸沢菅都を筆頭にしてスクールカーストの低かった男子を引き摺り込んでグループをつくる。


今1-5は、暴君:船形荒野と比較的常識的な白鷹語李の2つに分かれかけていた。


「やめないか。船形、俺が指揮を振るうのが嫌ならちゃんと指揮してくれ。俺は最初から君にそう言っている」

「あ?俺の指揮に何か問題でも?」

「大アリだよ。レガート団長に教わった通りにやってくれないか?」

「あのジジイに従えってか?はっ!老害の言うことなんか聞いてられるかっての。道は俺たち未来ある若者が作ってくって言うだろ?テメェらは俺に従ってりゃいいんだよっ!」

「………そうか」


と、そこにレガートが戻ってくる。79層の索敵を行なっていたようだ。


「よし、今日は撤収だ。ん?何かあったのか?」

「いえ、特に何も」






道中、先頭を歩く船形グループは下卑た笑い声を上げて進んでいく。


「すまない零児。また、何も言えなかった」

「やー、ガタリは頑張ってると思うぜ?ありゃダメだわ、、いつか絶対王国に消されるって」

「……女子たちも怯えている。これではマトモに連携も取れない。こんなのでは、、木葉を救いに行くこともできない…」

「…ガタリ」


それを聞いて、花蓮たちも暗い顔をする。クラスのムードメーカーたる木葉が安否不明で、ガタリや零児が暗いムードなため1-5は船形グループを除いて沈んでいた。


「はぁ、木葉ちゃん……」

「レガート団長には付きっ切りで荒野についててもらうしかねえかもな。これじゃいつまで経っても…」

「まぁ実際僕たちのレベルは上がってるわけだし、直ぐにでも魔王を倒しに行けるさ」

「千鳥ちゃん…」


暗いムードの女子3人に対してガタリが申し訳なさそうな顔をする。


「すまない、俺たちが場を悪くしていたな。みんなよくやってくれているさ。本当にありがとう」

「ガタリくんが背負いこむことないわよ!ガタリくんも大変なのに」


花蓮が声のトーンを落とす。


「花蓮、元気出せっての!俺らが沈んでたら木葉ちゃんにも悪いべ?なっ!」


零児が花蓮の背中をバシバシと叩く。それを花蓮が腕を回して背中を取り、関節技を決めようとする。いつもの光景だ。


「いや、痛い痛いっての、ギブギブギブ!」

「不用意に私の背後を取らないことね、零児」

「カッコいいっぽいけど今は痛えから離せっての、やっべぇ、やっべぇから!」

「あはははっ!ったく2人はこうでなくちゃな」


零児の体を張ったネタに1-5の生徒たちにも少しずつ笑顔が見えてくる。これでも、木葉が連れ去られた時よりは遥かにマシになった方だ。あの頃は王宮の専属カウンセラーが出張って来てみんなのカウンセリングをするなど、色々大変だった。


「……俺たちは、俺たちにできることをしよう。な、みんな」

「「勿論!」」


……


…………


…………………


「あ〜ったくよぉ!どいつもこいつも俺に盾突きやがって」


船形荒野が大声で騒ぐ。道中で酒を飲んでいるようだ。未成年の飲酒ダメ絶対。


「や〜でもさ〜、楯突いた女は大体手綱握ってんじゃん?アタシその子ら今調教してんだけどさ、泣き叫ぶのなんのマジうざいんだよね〜、ね、アンタラ」

「は、はい……」

「うわ三草ひど〜。ウチもパシリ欲しいわ〜」


高畠三草の隣で取り巻きの女子が騒ぐ。この前木葉に対して嫌味を言った遊佐 密流(ゆさ みつる)と言う女子だった。


今彼女たちは6人の女子を取り巻きにしている。かつて荒野に反発して、荒野に暴行された少女たちだった。今ではかつての勝気な態度は見る影もない。


「あ〜本当に櫛引木葉は勿体なかったわ。あれくらい美人を奴隷にしときゃ箔もついたってのによぉ」

「えー、アタシあの子嫌い。なんか可愛がられたい感がまじキモかったわ。あ、でも奴隷としては欲しかったな〜ほんと、死んじゃって残念だわ〜」

「死んでなくても今頃魔族のオモチャでしょー?次会ったら廃人になってたりして。そしたらウチらで買い取ろーよ」

「そりゃいいな。壊れるまで使い潰してやりてぇわ」


ギャハハという不快な声が響く。と、そこで王宮に着いたようだ。


「あ?あれは………真室 柊?」


金髪不良ガール柊が反対側から王宮に戻ろうと歩いてきていた。荒野は真室柊によって怪我を負わされたということになっているため、彼女に対しては慎重になっている。


「おい真室、テメェまたサボりかよ」

「ん?あー、アタシに潰された雑魚勇者じゃねぇか。ウケる」

「あ?」


2人の衝突の危機を察してか、ガタリが前に出てきた。


「ストップ。喧嘩はやめろ。真室さん、あまりサボりは感心しないな。なるべく攻略の方にも顔を出して欲しいんだが」

「あー、明日は行く。ちょっち忙しくってさ」

「忙しいってテメェ……何して…」


荒野が次の言葉を紡ぐ前に、突然爆発音が起こる


パンパンパンッ!!


「うわぁあ!!」


足元で動き回るのはネズミ花火だった


「ただの花火だし、、ビビりすぎウケる」


柊はステータスのアイテムボックスに花火を収納すると、王宮に向かって歩き出した。呆然としたままのみんなを置いて。



「さてと、、じゃあそろそろかな」

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