第22話:クープランの墓とみちしるべ

「わぁぁあ!!」

「ここは……星空??」


奥の扉を開けて進んだ先は、星空の世界。思いがけないプラネタリウム演出に、木葉はかなり興奮気味だ。


そしてその部屋に鎮座する大きな石の宝箱


「で、文字通り魔女の宝箱ね。最早罠なんじゃないかと疑うくらいには文字通りよ」

「開けてみる?」

「開けるしかないでしょうね。限りなく罠っぽいけど」

「えいっ!おーぷん!」



パパパーン!!


「!?」

「!?」


突然鳴り響くトランペットのけたたましい響き。プラネタリウム台無しである。


まぁそれは兎も角、その音とともにホログラムが起動する。出てきたのは、、骸骨?


「きゃぁ!?む、無理無理無理!!ガイコツ無理ぃ!!」

「落ち着きなさいコノハ!映像よ!!」


「攻略おめでとう、勇者よ」

「ま、魔王です…」

「そこは素直に答えなくていいのよ?」


骸骨の男がカタカタとしゃべる。歯並びが悪かったため、正直見栄えが悪い。


「我が名はクープランの墓。初代魔王である」

「わぁ!先輩だー!」

「だから答えなくても…」

「ふむ、お主魔王か」

「へ?」


「なんだ少女よ。映像か何かだとでも思っておったか?」


骸骨が笑う。悪役感パナイ


「……え、でも。初代魔王って死んだはずじゃ…」

「我は概念体だ。魔王としての力はないが、魔王としての記憶はある。だからこうして魔女の宝箱を攻略した勇者を出迎え、そのものと話しておるのだ、カラカラカラ」

「な、なんのために?」

「楽しいからだ。我の作った魔女を打ち破る勇者などそうそう居ないからな。それが今回はこんなに美しい女子と来たものだ。我が生きていたら真っ先に告ってそうな可愛らしい女子ではないか。我の嫁になってください!」

「えぇ!?お、お断りします」

「ふうむ。若い頃なら一発で落ちていたのになぁ」

「骸骨は…ちょっと…」

「そうか……そちらの女子はどうだ?」

「無論NOよ。それより、聞きたいことがあるのだけど」


メイロがクールに拒否って尋ねる。


「貴方、作られたのはいつなの?」

「初代勇者に打ち破られる直前だな。だから初代だけは会ったことがない。この魔法が発動した時、ようやくあった人間が2代目勇者だからな。暇だったぞ、ほんと」

「……そう。じゃあ次に…」

「ねぇねぇ、クープランの墓さんのお墓ってクープランの墓の墓なの?」

「コノハ、アホな質問はやめなさい」

「てへへ」


「それで、本当にお話しするためだけに貴方は設置されているのかしら?」

「我のクイズに答えられたら、魔女の宝石が…」

「………」

「ごめんなさい。なぁ後輩よ…この女子怖いぞ」

「本当は優しい子なんだよ?とっても可愛いし!」

「やめなさい、………恥ずかしいから」

「おぉ、今のは我もドキッときたわ」


「まぁ冗談はさておき、この宝箱のなかに魔女の宝石がある。これで魔王を討伐しろ…と勇者には言っているのだが、魔王にそれを言うのもなぁ」

「大丈夫!アクセサリーにしてコレクションするだけだから!」

「いや、それもそれでどうかと思うが………おぉ、そういえば後輩。お主この世界の人間ではないな?」

「おぉ、さすが先輩なんでもお見通し!」

「やめなさいこの変なノリ」


魔王部は部員3人なものでして




「では魔女の宝石を全て集めた時、元の世界に帰れる……と言ったらどうする?」




「へ!?ほんと!?」

「あぁ、嘘はつかんよ。我はお主の先輩だからな」


喜びをあらわにする木葉を前に、メイロがストップをかける。


「待ちなさい。この骸骨が何か企んでない保証がない。騙されている可能性の方がよっぽど高いわ」

「うん、まぁたしかに虫がいい話だなぁって思いながら便乗してた」

「貴方がアホなのか頭いいのか分からなくなってきたわ」


木葉は、アホだが成績はよく頭の回転は速いという最も厄介で、最もみんなが憧れるタイプの人間だ。本人に自覚はないが。


「どうせ我は死んでいるのだから何もできぬよ」

「信用できない。そもそもどうするのよ」

「…宝石は莫大な魔力を持っておる。昔我が人間たちから奪った魔力の結晶だ」

「なめ腐りきってるわね」

「で、集めると?」

「その魔力を使って、【大魔法創造の魔法】を発動するが良い。それで時空転移の魔法を作れ。さすればお主は元の世界に帰れるだろうよ」

「大魔法創造の魔法?」

「宝石を全て収集した結果解放される魔術コードだ。我は愚か古今東西使ったものはいないだろうがな」


唐突に示された道しるべ:時空転移の魔法の存在に戸惑う木葉。正直怪しいことこの上ないのだが、今は他に方法がないのも事実だ。


「つまり、魔女の宝石を全て集めると魔術コードが解放されて……」

「大魔法創造の魔法が取得できる。あとは宝石に内在する莫大な魔力を使用して時空転移の魔法を作る。と、いうことでいいのかしら?」

「あぁ、そうだな」

「私は一応、貴方が復活するとか、世界に災いが降りかかるといった可能性について疑っているのだけど」

「無い……といっても信じられぬだろうな。もうそればっかりは信じてくれとしか言いようがない。でもまぁ、【大魔法創造の魔法】でどんな魔法を創造するかは使用者の勝手だ。そこに我の手の入りようがないだろう?」

「使用者が破滅する可能性は?」

「ないない。我は流石にそこまで性格悪くないぞ?」


メイロとクープランの墓がズバズバ話を進めていく。木葉にはさっぱりだった。


「ふぅ。全く信用できないけど、収集すること自体に害はないのかもしれないわね」

「えっと、、大丈夫なのかな?」

「私は正直この魔王が大魔法創造の魔法を使ったことがないというのが気になるわ。貴方の設置した宝箱でしょう?」

「我の死とともに世界に散らばったというのが正しいな。加えて言えば初代勇者の持つ莫大な魔力が込められているのが魔女の宝石だ。我の魂のカケラが『魔女』を生み出し、勇者たちに試練を与える。それを乗り越えた勇者が初代勇者の魂のカケラである『宝石』を使って次の魔王を倒す。そういうサイクルなのだよ」

「……宝石が、初代勇者の魂のカケラ?」

「そうだ。だから我が設置したものではない。ある種これはゲームといった方がよいかもしれんな」

「………」


(何を言ってるのかな…)

木葉が置いてきぼりなので、シンキングタイム!!


……


…………


…………………


「それじゃ、初代勇者様の魂のカケラである『宝石』がすっごい魔力を持ってて、それを集めて魔法を作って日本に帰るっていうことでいいのかな?」

「まぁ、噛み砕いて言えばそうなるわね」

「じゃあなんであんな難しい話してたの〜!わっかんないよぅ」

「今後の安全のためよ。兎に角初代勇者の魂なら、特に集めたから悪いことが起きるみたいなことはないとは思うわ。根拠ないけど」


それを聞いたクープランの墓が少しムッとした顔をした。いや、骸骨なので本当にそうなのかは分からないが


「我は義理を尽くすぞ?そして強者には敬意を払う。当然全ての宝箱にたどり着いた者には、それ相応のご褒美があるべきだと考えておる」

「なんかかっこいい!!」

「完全に信用したわけではないけど、嘘を言ってるようにも見えないし。一先ずはそれを今後の方針としましょう」

「うん!!なんか、ありがとね」

「えぇ」


木葉の理解がようやく追いついた。これで当分の方針は決まったようだ。


「ふむ。それでは宝石を与えようか後輩。ついでに言えばアイテムドロップもこちらからだな。秘宝級のアイテムはお主らのものだ、持っていけ」



アイテム:《ローマの光玉》を入手しました


宝石箱から出てきたのは、光り輝く黄金の宝石がはめ込まれた指輪。不思議な輝きを放つ黄色の宝玉……非常にお高そうな逸品である。


「……これは肌身離さず持っていた方がいいかもしれないわね」

「じゃぁ、メイロちゃん持ってて!!」

「いいの?」

「うん!!きっと似合うと思うんだ!」


恐る恐るメイロはその指輪をはめる。その細い指にスルスルと指輪は入って行き、そして…


「ぴったり!とっても綺麗だね〜」

「えぇ…びっくりするくらい……!?」


特殊スキル:《魔笛(まてき)》を獲得しました


「指輪の所有者はそなたじゃ、青髪の女よ。

そこの後輩にもそのスキルを譲ってやると良い。資格があり、尚且つ所有者が認めた者なら獲得できる」


ただしスキルのコピーは、魔女の宝箱の内部のみという制限事項が掛かる。外に出てホイホイいろんな人に渡されたらたまったものではないからだ。クープランの墓意外としっかりしているっぽい。


「………勇者しか使えないみたいな、王国の書物の記述はあながち間違っていなかったというわけね。資格の基準は分からないけど」


メイロは指輪を木葉に向け、そのスキルのコピーアンドペーストを開始する。これにより、木葉も《魔笛》のスキルが使用可能となった。


「で、2代目勇者はこれで魔王を倒したわけね」

「……何か勘違いしておるなお主ら」

「?」

「別にこのスキルは魔王討伐を補佐するためのものだ。実際はその勇者の力の使い方が2代目魔王を打ち破った。……その驚愕の表情から察するに、、王国が勘違いしているのだな?道理で各地の迷宮攻略が進まないわけだ」

「……ハァ。じゃあ3代目の勇者様御一行が必ず魔王を倒せる保証なんて元々無かったわけね」



【魔女の宝石】を使って魔王を倒す。それがレガート団長が説明していた魔王討伐の方法だった。よく考えたら具体的なことは何一つ言っていない。きっと、王国上層部もわかっていないのだろう。だから、勇者を召喚しただけで魔王を倒せる気になっている。でも実際の【魔女の宝石】という名の特殊スキルは、魔王討伐の補助アイテムでしかなかった。かなり滑稽な話である。


「ふむ、大体話したな。それでは我はまた一眠りするとしよう。後輩よ、、お主の活躍期待しているぞ」

「……骸骨眠るんだ。う、うん、分かってるよ!ありがとうね、クープランの墓さん!」


そういうと、映像…のような魔法が解除されクープランの墓の姿が消える。後に残ったのは星空の部屋にポツンと置かれた宝箱だった。


「わ〜!!結構色んなの入ってる!」


アイテム:《火衣のローブ×2》《古代の甲冑》《金貨×20》《火衣の布×10》《黄銅のラッパ》


「服あるじゃないっ!!あの骸骨、なんで先にそれを言わないのよ!」

「メイロちゃんの身体が綺麗で見惚れてたとかじゃないかな〜?あぅぅ、怒んないで怒んないで!」

「コノハ、貴方裁縫スキルはあるかしら?」

「無いんだよね、それが…」

「……なら覚えてから出発しましょう。服は必要よ」

「うん、私もさっきのでびちゃびちゃだから。でも先においてきた女の子たちを脱出させてあげよ?」

「くっ!そんな自己犠牲精神は私には無いわ、、早く、早く服を!」

「お、落ち着いてメイロちゃん!」




星空の間というロマンチックな部屋で、まったくロマンチックじゃないじゃれ合いが始まったが、、誰も止めるものは居なかった。

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