第21話:祭りはおしまい
「【特殊スキル:凍れるメロディー】!!」
メイロがそう杖を振り上げた瞬間だった。
「……え?」
巻き起こる凄まじい吹雪と突風。そして、一気に凍りついていくローマ風建築物。その吹雪の奏でるメロディーが、対抗したローマの音楽を消し去っていく。
「ギィィィィィィイィィィィィィィィィィ!!」
水も柱も何もかもが雪と氷に覆われて、そこはまるで銀世界。その中心でただ一人平然と立ち続ける少女は……
「ま、じょ……へっぷしっ!!」
木葉には吹雪のダメージがいくのであまり格好はつかなかったが。
「はっ!だからどうした。吹雪ごときで何が」
メイロが杖を構えて、指揮をとるようにその杖を振るう。その指揮のもとに建築物へと向かっていった猛吹雪は…
ピシ、ピシ、ピシピシ…
ガラガラガラッ!
「な!?」
「砕けなさい」
凍りついていった建物が、次々と砕けて氷の結晶と化していく。降り注ぐのはクリスタルのような美しい破片。
「馬鹿な!?魔女よ!奴を殺せ!!」
「ギィィィィィィイ!!」
爆音を放とうとするも、吹き荒れる吹雪が空気の振動を許さない。その間に宙に浮かぶ煉瓦は次々と砕けて行き、五つの建物は跡形もなく消え去っていた。
「コノハッ!!」
「わかった!」
吹雪の力で木葉の跳躍をアシストする。風の力で柱の上へと一気にたどり着いた木葉は、メノウを構えて魔女を睨む。
「祭りはおしまいだよ………ハァァァァ」
吹雪さえ凍らせることのできないほどの業火が巻き起こる。その熱はゾーン全体の氷を溶かして行き、煌々とした輝きを放つ。
「ギィィィィィィイッ!!!」
木葉を潰そうと、その手を伸ばす魔女。木葉に真っ白な巨手が目前に迫った瞬間
「鬼火ッ!!!りゃぁぁあっ!!」
メノウが振り下ろされ、火の柱が上がる。灼熱の業火が煉瓦さえ消し炭へと変えて行き、高熱の爆風がその体を吹き飛ばす。
ゴォオォォォォォォォォォオオォオオ!!
あたりの水さえ蒸発させるほどの灼熱が、ローマの祭りを飲み込んでいく。壮大な金管楽器のメロディーは、その巨体が消し炭に変わるまで流れ続けていた。
……
…………
…………………
「ハァ、ハァ、ハァ………やった……ぁう」
「コノハ!!」
柱から地面に向かって落ちていく木葉。それをメイロがばっちりキャッチした。
「ぐっ、流石にこの距離をキャッチは辛いわね。生きてるかしら?」
「いきてるよ〜。うぅ、熱い。あれ、メイロちゃんなんですっぽんぽんなの?」
メイロは今、服も何も来ていない真っ裸の状態だった。ふっくらとした胸が木葉の顔に当たる。
そんな姿に気づいたのか、メイロは徐々にしの顔を真っ赤に染めていった。
「な、な、なななな、な、これ………なんでよ!!」
「もしかして火力が強すぎて燃えちゃったとかかな?あははは、ごめん」
「ごめんじゃないわよ!!み、みたら殺すわ……」
「女の子同士だから隠さなくていいのに…」
「…………コノハのバカ」
「うぅ、ゴメンってば〜」
なぜ服だけ焼けたかというのは最早御都合主義だ。いや正確に言えば吹雪がメイロを囲むようにして吹き荒れていたため、炎の勢いを相殺していたのだが、こればっかりは仕方ない。ご都合主義なのだ。見栄えの問題である。
「あ、スキルがドロップした」
「ちょっと…」
櫛引木葉
通常技能:防護技能:《結界》・攻撃魔法:《剣舞》・強化技能:《五感補助》幻影魔法:《ローマの祭り》
メイロ
【通常技能】・防護技能:《結界》・攻撃技能:《雪牙》・強化技能:《五感補助》
「おぉ〜ボス戦はいっぱいドロップするんだね……え、ローマの祭り?」
「貴方かなり運がいいわね」
「?」
「最上位個体を倒した際にその名前のついた魔法を取得できることは稀よ」
「え、そなの!?」
「ま、私はどうせなら服が欲しかったわね」
「えっと、メイロちゃんの着るものを探す前に………」
「先に探しなさい」
「怖い…怖いよメイロちゃん。今はローブしかストックがないからこれで勘弁してほしいかな。それより先に……」
木葉の視線がある方向へと向かう。
「ゴハッ!……アガ……」
灰まみれの男が床で苦しそうにのたうちまわっている。その顔は炎で焼けただれ、ローブはボロボロ。呼吸器官が焼かれたのか、ひゅうひゅうと嫌な音を立てて息を吸っている。
「ジャニコロ……生きていたのね」
「これでもちゃんと加減はしたんだよ。でも全然無傷じゃなかったね。練習が必要かも。あ、メイロちゃんごめん、、私回復魔法使えないから……」
「分かってるわ……【回復魔法:冬の唄】」
ジャニコロの火傷が消えていく。回復魔法:冬の唄はかなり上位の魔法だ。こんな魔法を覚えている自分に疑問を抱くメイロだったが、それは後に調べようと決心する。
「はぁはぁ……けほっけほっ!……なんの、真似だ?」
「聞かなきゃいけないことが三つあるの」
「……なんだ」
「一つは……出口。あの子達を外に出さなきゃいけないんだけど、どうすればいいかジャニコロさん知ってる?」
「………これだ」
ジャニコロが差し出して来たのは石板だった。先ほど使っていた杖だった。レスピーガ地下迷宮自体を操作できるのだろうか?
「これで入り口の扉が開く。無論こちら側の扉もな」
「こちら側って……あそこのこと?」
木葉が指差す先、それは王の間の木葉たちと反対側にある扉だった。
「あれは、魔女の宝石を祀る部屋だ。魔女を打ち破ったものが開けることができる。その向こうには別の出口もある」
「そっか、ありがと。じゃあ二つ目。どうやって魔女を操ってたの?」
「…それもこの杖だ。それは我々魔族が開発した魔女をある程度まで制御するアイテムだ。生憎、レイドに対応した魔女本来の動きは制御できないがな。だから水かさを上げることは命令できないし、建物を落とすことを何度も繰り返すことは出来ない。そこのお嬢ちゃんは気づいて居たんだろう?」
メイロに目配せする。メイロは何も答えなかった。
「じゃあもう一つ。三つ目はこれからどうするか。ジャニコロさんのこれから」
「……殺すがいい。敗者に情けなどかけるな、魔王。それが命取りとなるのだぞ?」
「うん。でも、私はやっぱり人を殺せない。きっと後で酷いことしたなぁっていう気持ちでいっぱいになっちゃうから。だからね、、眠ってて欲しいんだ」
「……は?」
ピキン
「はい、氷漬けの完成。これ確定事項だったのだから質問は実質二つよ」
「あはは、ごめん」
目の前に出来たのはジャニコロの氷漬け。所謂仮死状態というやつになっている。おそらく目覚めるのは10年のとかそれくらいだろう。
「封印とかって出来ないかな?」
「大丈夫だと思うわ。当分は目覚めないのだから。それより、次はこんな簡単にうまくいかないかも知らないわ。覚悟を決めなさい」
「………うん、分かってる」
これは、あらかじめ決まっていたことだ。ジャニコロを殺そうと提案したメイロに対し、なるべく命を奪いたくはないという木葉の主張があり、メイロが譲歩する結果となった。
「じゃあ先ずは魔女の宝石を取りに行こっか」
「そうね」
朗らかに進む木葉。だが彼女はとあることを見逃していた。魔女は数年したらまたこの部屋に蘇る。その時もし氷漬けのジャニコロが居たら、魔女は一体どうするのだろうか。石板を失ったジャニコロがゾーン内に残ったら、どうなるのか。
答えは決まっている。魔女はゾーン内に侵入する異物を排除するモノ。それは初代魔王:クープランの墓の置き土産。
(コノハには悪いけど、、こいつは悪よ。でも、スクナの意見には同意。私は、コノハに人を殺させたくないから、、私が代わりにその手を汚す。
だから、サヨナラね。ジャニコロ)
メイロは、少し後ろめたそうに振り返ってその髪をたなびかせて木葉について行った。
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