第19話:間違いなく○郎系ラーメン

「斬鬼ッ!!」


ズパッ!


鈍い音がして、獣の肉が削ぎ落とされる。残った魔獣はメイロの魔法によってその体を凍結させ、次第に生命活動を停止させていった。


「ふぅ、びっくりしたぁ。まさかあんないっぱい魔獣が出てくると思わなかったよ〜」

「魔獣を斬るのも慣れたわね。血とか……大丈夫かしら?」

「……うん。可哀想だけどやらないと私がモグモグされちゃうし、なんか色々吹っ切れたかな」

「そう………」


(多分、あまりいい傾向じゃないのでしょうね。この世界に来なかったら、コノハはきっと生き物を直接殺すことさえしなかったのだから)



先ほど木葉たちは、次の使い魔:チルチェンセスと交戦し勝利を収めていた。その際ドロップしたスキルは


「念話……ねぇ」

「でもこれでいつでも何処でも電話が出来るよ!やったね!」

「まあ貴方が迷子にならなくなっただけでも良い貰い物ね。貴方すぐフラフラ変な道を行こうとするんだもの。せっかく熱探知のスキルも手に入れてるのになんで何もない所に行こうとするのかしら?阿保なのかしら?」

「うぅ、酷いよメイロちゃん。でも弁解のしようもございません、、しゅん…」


チルチェンセスは三つの顔を持つ人型の使い魔で、隠れていてもその目に備わった熱探知のスキルがあり、すぐに発見されてしまう。お陰でメイロがフィールド全体を凍らせて熱を調整し、目眩しをするというかなりの無駄魔力を喰ってしまった。


「……それにしても、お腹すいたよぉ」

「同感ね。せめて何か食べるものでもあれば……」

「魔族の人たちってなにを食べ物にしてたんだろう。ここで生活してたんだよね?」

「基本は人間と同じよ。まぁ敢えて違うところをあげるとしたら、彼らは人間も食べるわ」

「う、うそ!?」

「だから魔族は人間の天敵なの。最近、南方の方では魔族の王国も出来てきて神聖王国はそれを潰すのに必死なのよ。このままだと、南方大陸の貴重な食料が入って来ないからね」

「……仲良く、出来ないのかな?」

「無理とまでは言わないわ。でも、魔族にその気がないのは貴方が一番よくわかっているでしょう?あの少女たちがいい例ね。魔王復活のために人里から娘をさらって生贄に捧げる…………屑のやることよ」

「…うん、そだね。それに、先ずは脱出が先だもの。あの人たちも、地上に帰してあげなきゃ」

「ええ、そうね。それで、かなり脱線したけど、、」


グゥゥゥ


木葉のお腹から音がなる。1-5のテストの時間、特に3時間目のテストでぐぅぐう音が鳴るのは、大抵の場合木葉の腹である。本人のその時の赤面顔があんまりにも可愛いと評判で、一目見ようと振り返った木葉の前の席の男子はカンニングとなり見事に職員室に直行だった。席って大事。


「何か、ないかな…」

「そう、ね。早く探さないとコノハのお腹が持たなそうだわ。でも、迷宮内の生物は瘴気に侵されて食べられないような…」

「うーん、何かあったかな」


木葉が、ステータスプレートのアイテム欄からモノを探す。そこには……


「おぉ!!意外と食料詰め込んである!………あ、これ厨房から勝手に持ち出したやつ。師匠怒ってるかな……」

「貴方、料理作れるの?」

「異世界に来て凄い人から習ったんだ〜。師匠の腕は凄いんだよ?」

「で、その師匠から食料を勝手に奪って来たと」

「うぅ、後で返すもん…」

「王都には当分近寄らないつもりだから、かなり後になりそうね。ともかく、後は鍋とかがあれば…」

「お料理キットがあるから、それを使うね。美味しいのご馳走しちゃうよ〜!」



……


…………


……………………


「木葉特製スペシャルラーメンの出来上がりぃ!!へぃお待ちっ!!」

「ナニ……コレ……」


木葉が作ったラーメンは、基本味噌ベースのラーメンだ。出汁は当然煮干し。麺はこちらの小麦から作ってストックしておいた一品を使用している。元の世界と比べるとそのコシはやはり落ちるが、こちらも十分食べ応えのある麺となっている。野菜は人参、キャベツ、もやしなどなど。で、メイロが驚愕していたのは、ニンニクの量である。


間違いなく○郎ラーメン系。


「なんでこんな増し増しされてるのよ…」

「部活の帰りとかに行くと美味しいんだよ!先輩たちは残しちゃうんだけどね…なんでだろ」

「ふ、2人で食べましょう。私には荷が重すぎる」

「取り敢えず食べてみて!そしたらこの美味しさに気づくから」

「………い、頂きます」


ズルズル、と麺を啜る音。メイロにとっては初めてのラーメンだ。


「どう?」


木葉が心配そうにメイロを見る。メイロは、箸を置いて木葉を見た。


「おい、しい…」


その目は驚愕で満ちている。え、これ美味しいじゃん!?みたいな。


「やったー!!ふふん、私、ラーメンなら昔から作れたんだよね〜!あとうどんも」

「なんていうか、ちゃんとバランスはとっているのね。見た目より胃に配慮されているわ。んぐ、んぐ、、スープも、割と嫌いじゃない」

「やったよ!!あれ、ていうか、メイロちゃんお箸使えるんだね………」

「?あぁこれ?そうね……何故か使えるみたい。この世界にはないものだと思うのだけど…」

「きっと才能だよ!!お箸の才能!」

「何よその才能…」

「だって私小4までお箸の正しい持た方知らなかったもん。メイロちゃんは初めから完璧だね!」


たしかにメイロの箸の持ち方は、教えていないにもかかわらず完璧だった。まぁ、才能なのかもしれない。



「ほんとはもっと色んなの作ってあげたいけど、、やっぱり食材が足りないなぁ。卵とかあったらアイスクリームも食べたいんだけど」

「あいす?」

「とっても甘いんだよ!冷たくて、甘くて、口に入れると頭がきーん!ってなるの」

「なにそれ薬?」

「薬じゃないもん!デザート!」

「デザートという言葉に馴染みがない私にはそれを薬かなにかと捉えられても文句はないはずよ」

「うわぁぁぁん!!メイロちゃんの意地悪!」

「ふふ、なんとでもいいなさい」


楽しい食事の時間。こんな薄暗い迷宮でも、食事というのはそれだけで人を明るくする。1人で食べていても、みんなで食べていてもそう。まるで魔法だ。



「そういえばさっき整備してて見つけたんだけど、、メイロちゃんこれに見覚えある?」


木葉が飛び出したのは、紫陽花色の宝石が埋め込まれた髪飾り。夢の中の女の子が木葉にくれたお守り。今の今まですっかり忘れていた大切なお守り。


メイロは暫くそれを珍しそうに眺めていたが、やがてその首を横に振った。


「なんとなく見覚えがありそうだけど、やっぱり無理ね。これが何か?」

「ううん。ごめんね。なんでもない。これ、夢の中の女の子に貰ったお守りなんだ」

「夢の中の、女の子?」


そうして、木葉はずっと前から会い続けている名前も顔も知らない親友の話をした。話していても不思議なものだと思う。だって、木葉はその子のことをなにも知らないのだから。



「そう、毎日…」

「うん。でもね、こっちの世界に来て、その子になんだか近づいた気がするの。それだけじゃない。こっちに来るときに、その子の声が聞こえたの。『助けて』っていう声」

「助けて?」

「だから、私はその子を助けにここに来たと思うんだ。本当なら勇者になって、お姫様を助けに来ました!!って助け出したかったんだけどね…あはは」

「……だったら、魔王らしくすればいいのよ」


メイロがつぶやく。


「魔王らしく?」

「そう。貴方をさらいに来た魔王だ、大人しく私に攫われてろ!みたいな」

「わぁ、悪役だ〜」

「ダークヒーローはいつの世も存外需要があるものよ。2代目勇者はそんな感じだったらしいわね。最後は2代目魔王と相打ちになって死ぬという悲劇的な物語を残してまで…」

「………勇者ってやっぱり危ない役職なのかな?」


思い出されるのはクラスメイトたち。彼らは今もゴダール山に挑み、魔王を討伐せんと意気込んでいる。ひどいことを言われたとは言え、クラスメイトなのだ。心配はしている。


「そればかりは何とも言えないわね。異世界から勇者を召喚するのは今回が初めての筈だから」

「……そっか。よし、じゃあ片付けよう!多分、そろそろ最後の部屋だよね?」

「えぇ、おそらく。次かその次くらいには魔女がいる筈。誰も攻略したことない魔宮だから、詳しくはわからないけど」


木葉は立ち上がって食器類を片付け始めた。基礎魔法:洗浄は非常に便利でした。






進めば進むほど、瘴気は濃くなっていく。足場は次第に悪くなり、潜む魔獣もなかなかしぶといものになっていった。


「やァァァアァア!!」


「氷結!!」


足を止めたにもかかわらず、魔獣は馬鹿力で氷を抜け出しメイロに突進して来る。


「スキル:居合!!」


そこを木葉が側面から斬りつける。メノウの刃は鈍らないが、魔獣の肉がだんだんと固いものになっているのを実感した。


ザシュッ



「ふぅ………強くなって来たね……」

「まぁ、本来なら26人のレイド戦で挑むような魔宮だもの。2人でこれだけやってるだけでもあり得ないことよ」

「レイド戦?」


木葉が刀を鞘に収めながら尋ねる。馴染みのない言葉だ。


「【魔女の宝箱】以外にも、大型の化け物が潜むゾーンがメルカトル大陸には数多く存在するわ。例えば【ドラゴン】【ミノタウロス】【クラーケン】。この魔宮で中級クラスの怪物が、他ではその魔宮の最上位の生物として君臨していることもある。それを討伐するのが冒険者たちの役目。そしてその冒険者たちが、それらの個体を討伐する際に組むパーティーメンバーのことを【レイド】というわ」


「あー、ゲームとかで聞いたことあるかも」


「レイドはゾーンによって多少の誤差はあるけれど、基本は26人が限界。それ以上がステージ内に入るとなんらかの魔法が働いて人数以上のメンバーの侵入を阻害する。この世界のルールなのでしょうね」


「なんか本当にゲームみたい!じゃあ2人でここまで来たのって結構すごいんだ〜」


「そうね、、正直あり得ないくらい。さて、ここよ」



目の前にあるのは、禍々しい空気を纏った大きな扉。ゲームで言えば、いかにもボスが潜んでいそうなラスボスステージ。


「す、すごい雰囲気だね」

「ここまで来たら、魔女を倒して特殊スキルを分捕ってきましょう。魔女の宝石ともいうんだったかしら?」

「あ、でもあれって勇者しか使えないんでしょ?」

「何を言っているの?あぁ、王国の知識ね。呆れたわ」

「王国の知識?」

「王国の書物は虚言まみれのゴミよ。情報統制令は随分と機能してるのね」

「……嘘言ってるってこと?」

「魔女の宝箱をみつけても、冒険者たちが入らないのはそういう理由よ。自分たちが使えないものを持ってる敵なんて、倒したって無意味だものね」

「じゃぁ、私たちも使えるんだね」

「そうよ。さぁ、無駄話はここまでにしましょう。魔女だって、きっと待ちくたびれているだろうし」



メイロが扉に手をかける。



「いくわよ」

「オッケー」



いざ、魔女とご対面だ

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