第18話 マナの巫女
「巫女について説明する前に,――昨日マナの聖地については説明したわよね。」
「はい、確か世界中のマナを補う重要な場所で、世界各地に存在している場所でしたよね。」
「そう、正確に言うと、マナの聖地は世界に4か所しかないのだけれどね。」
楓は世界中を覆う程のマナを放出する聖地は、少なくとも数十か所はあるのだろうと予想していたのだが、実際は聖地の予想よりもはるかに少ないことを知り驚愕する。
「たった4か所しかないんですか!?」
「そうよ、たった4か所の聖地が世界中のマナを補っているの。それでその聖地なんだけど、一か所につき1種類のマナをそれぞれ放出しているの。」
「マナに種類があるんですか?」
「ええ、マナの種類には火、水、地、風の4種類があって、これを魔術師は
紅葉が「え……、私?」と茫然とした様子で自らの顔を指差し、楓は目を見開き、驚いた様子で紅葉を見る。
「な……なんで紅葉が。そのマナの巫女というのは一体何なのですか?」
楓が雫に向き直り、紅葉が次代のマナの巫女である理由を尋ねると、雫は
「マナの巫女に選ばれる人達にはある特徴があってね、その特徴っていうのが女性であることと、対応属性の魔力の変換率が100%であること、そしてこれが一番の特徴で重要なことなんだけど、マナの目覚めの時に精霊の祝福を受けること、紅葉ちゃんはこの特徴に合致しているのよ。」
「……魔力の変換効率って、マナの知覚を覚えたばかりの紅葉じゃ魔力の変換効率なんて分からないじゃないですか。」
楓の指摘に雫は一度「うん」と頷く
「確かにその通りよ、だけど精霊の祝福を受ける、という点以外はただの特徴でしかないの、精霊の祝福を受けた人間であることがマナの巫女であるという証拠になるのよ。」
「マナの祝福って、紅葉がマナの知覚を最初に覚えた時に何があったんですか?」
楓は紅葉がマナの知覚を覚えた時にはまだマナを知覚することを覚えておらず、紅葉の身に何が起こっていたのかが分かっていなかったため、雫に質問をぶつける。
すると雫は紅葉を見つめ
「紅葉ちゃん、マナが知覚できるようになった時、貴方の周りにたくさんの精霊がいたわよね。」
と紅葉がマナの知覚を覚えた時のことを確認すると、紅葉は「はい」と短く頷いた。
「それが精霊の祝福よ、通常ただの人間がマナを知覚できるようになったからといって、精霊が現われることはないのよ。」
雫からの突然、貴方は次代のマナの巫女よ、と言われたにより、これから自分は一体どうなるのか、という不安が紅葉の頭の中を埋め尽くす。
「あの……、マナの巫女って突然言われても良く分からないんですけど、……私、これからどうなるんですか?」
そう片手を挙げながら質問する紅葉の表情には、不安の色が濃く出ていた。
紅葉の不安を察した雫は、申し訳なさそうなを顔で
「ごめんなさいね、突然こんな話をしちゃって、紅葉ちゃんの不安も良く分かるわ。今は当代の巫女様がいらっしゃるから、紅葉ちゃんが今直ぐどうこうなるってことわないわ。だけどマナの巫女は、聖地のマナの管理を精霊を通して行える唯一の存在で、この世界に必要不可欠な存在なの。だから紅葉ちゃんは将来的にマナの巫女の役目を引き継がなければならないのよ。」
紅葉は必ずマナの巫女にならなければならない、そう断言した雫に、楓は思わずカッとなり喰ってかかる。
「紅葉の意思はどうなるんですか!、いくら世界のためって言ったってそんなの紅葉があんまりじゃないですか!」
「個人の意思と世界の安寧、天秤にかけるとしたらどちらに傾くのかなんて自明の理でしょう。」
雫の突き放すような言葉に楓は増々感情的になる。
「そんなの雫先輩は関係ないからって……。」
「「楓!(ワン!)」」(主!)
紅葉とコウが楓の言葉を遮り、紅葉が楓に笑顔を向ける。
しかし、その笑顔は明らかに無理をしていることが見て取れた。
「私は大丈夫、ちょっと驚いただけだから。」
絶対に嘘だ、お前がそんな笑い方するかよ、なんでこんな話をされてそんなに無理が出来るんだよ、楓は紅葉が何を考えているのかが分からなかった。
今までずっと一緒に過ごしてきた双子の姉の気持ち分からない、これは楓にとって初めての経験で、戸惑いながら紅葉の顔を見つめることしかできなかった。
「それにね、多分だけど雫先輩だって関係ないことないと思うんだ。」
紅葉の言葉に賛同するようにコウが口を開く
ワン(その通りです、雫様こそ次代の水の巫女なのですから。)
コウの言葉を聞き楓はハッと雫の方を向くと、雫は眉を八の字に曲げ、困ったような表情になる。
「……本当…なんですか?」
「あんまり大っぴらには言えないんだけどね。……その通りよ、だから私には今の紅葉ちゃんの気持ちも良く分かるのよ。」
その告白に、楓は感情のままに雫のことを関係ないと言ってしまったことを後悔した。
「……すいません、雫先輩のことを関係ないなんて言ってしまって。俺こそまったく関係ない人間なのに。」
楓の謝罪に、雫は表情はそのまま、返答する。
「気にしなくていいのよ、楓君は知らなかったんですもの。それにね、楓君だってこのことに関係ないなんてことはないのよ。」
「どういうことですか?」
「マナの巫女にはね、その役目の重大性から、霊獣に選ばれた護衛役が付くことになっているのよ。」
霊獣に選ばれた、その言葉に反応し、楓は自身の霊獣であるコウに視線を向ける。
「それが俺ってことですか。」
ワン!(その通りです。私めは水の巫女の騎士の選定を司っている霊獣であるが故、その私めに選ばれた主こそ、姫……雫様の騎士となるのです。)
「俺が雫先輩の……。」
楓は困惑していた。
自身が望んだこととはいえ、ここ数日の未知の体験により頭の容量がいっぱいであったところに、畳み掛けるように追い打ちをかけられたのだ、その困惑も無理のないことであった。
困惑する楓達を見て、雫は優しく声をかける。
「今は無理に考える必要はないわ、ゆっくりでいいから自分の役目というものに向き合ってもらえればいいわ。私もそうやって自分の役目に向き合っている途中だから、一緒に進んで行きましょう。」
「「はい」」
神樹姉弟には未だに納得の行かないことは多くある。
しかし、同じ役目を背負っている雫の言葉に安心したことも事実で、神樹姉弟の瞳には先程まであった困惑の色が少し薄くなっていた。
神樹姉弟の瞳を見て安心したのか、雫は「ふう」と安堵のため息を吐く
「今日二人に話たかったことは終わりよ、……なにか質問はあるかしら。」
「まだ納得はできませんけど、俺や紅葉に重要な役割があることは分かりました。――であれば魔力を使えるようになることは将来的に必要なことですよね。」
「そうね、役目のことは置いておくとしても、マナの知覚が出来る様になった以上、魔力の使用方法は覚えてもらわなければならないわ。」
「だったら、まだ時間もありますし、今から俺達に魔力の使い方を教えてもらえませんか?」
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