第14話 精霊の祝福

 楓達が武闘館の中に入ると、それまで楓達を先導して歩いていた雫がクルリと回り、楓達の方を向く、

 

「さて、これから魔法使いへの第一歩、マナの知覚ができるようになりましょう。」


 待ってましたと言わんばかりに紅葉が「オォー!」と言いながら大げさな拍手をする。

 ノリの良い紅葉の反応が気に入ったのか、雫はエヘン!と胸を張っていると、楓が挙手をしながら雫の前に出る。


「ジフタリア先ぱ」


 そう楓が言いかけたところで、雫は「待った!」と手の平を楓に向ける。


「雫!、これから私は楓君達の魔法の師匠になるんだから、他人行儀に名字で呼ばない!、紅葉ちゃんみたいに雫先輩♡って呼んで!」


 雫はグイグイと楓に迫りながら、自身のことを名前で呼ぶようにと要求する。


「しっ……、雫先輩。」


 雫のあまりの勢いに押され、戸惑いながらも要求通りに名前で呼ぶ楓。


「はい、なあに?」


「マナの知覚って、一体どうすれば出来る様になるんですか?」


 雫はご満悦な様子で、楓に返答する。


「それはね、索敵の時に使用するマナの知覚範囲を広げる魔法があるのだけれど、それを楓君達に使用して無理やり知覚範囲を広げてマナを知覚出来るようにするの。そうすれば索敵魔法なしでもマナの知覚が出来る様になるわ。ただマナの知覚範囲には生まれつきの個人差があって、生まれつきマナの知覚範囲が知覚できる範囲のギリギリ下にあるような人に、最初から索敵魔法を強い出力でかけてしまったら、情報量が多すぎて脳に強い負荷がかかってしまって最悪の場合死んでしまうの。だから魔力のコントロールが上手な人が索敵魔法をかけてあげないとダメなのよ。」


 雫の説明に楓は納得したように、ジンと話した時のことを振り返る。


「だからジンは魔力を使えるようにすることは出来ない、って言ってたんですね。」


「そういうこと。今回はこの中で一番魔力のコントロールが上手な栞が、二人に索敵魔法をかける係をするわ。」


そう雫が言うと、不満げな様子で栞が雫のことをジト目で睨む。


「雫…、それって別に貴方でも良いんじゃないの?魔力のコントロールなら貴方と私、そんなに大差無いじゃない。」


「栞の疑問も分かるけど、今回はもしもの時のために、備えておかないといけないわ。」


 真剣な様子で返答する雫に、栞は納得のいかない様子で「でも」と続ける。


「マナの知覚なんて初歩中の初歩よ、何をそんなに心配しているの?」


「ごめん栞、その事については言えないの。お願い、今回は何も聞かないで協力して。」


 そう懇願する雫の表情には、親友に何も言えない申し訳なさと、自責の思いが詰まっていた。

 しばらくの間見つめ合う二人、やがて根負けしたように栞が口を開く。


「分かったからそんな顔しないで、……だけど、今回だけだからね。」


「ありがとう栞。」


「それじゃあ早速始めましょう。雫、まずは誰からにする?」


「紅葉ちゃん、いいかしら?」


「はい!」


 先程までの緊張した空気に飲まれていたのか、紅葉は飛び跳ねるように返事をし、緊張した面持ちで栞の前に立つ。


「よろしくおねがいしましゅ」


 ガッチガチに緊張していた。

 紅葉のあまりの緊張ぶりに、緊張を解してあげようと栞は微笑みながら紅葉の手を握る。


「そんなに緊張しないで、落ち着いて目を閉じて。」


「はい」


 紅葉は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせると、目を閉じる。

 栞は紅葉が落ち着いたところを確認すると、


「……はい、わかる?これから徐々に出力を上げていくからね。」


と優しく声をかける。

 栞の発言を聞き、楓が困惑した様子で雫に質問する。


「え……、もしかしてもう魔法かけたんですか?」


 と質問する。

 楓は魔法をかけた瞬間は、ジンの時のようにオーラみたいなものが出ると予想していたが、栞の魔法にはそのようなものは一切なかったため、本当に紅葉に魔法がかけられたのか分からなかったのだ。

 楓の戸惑いようがおかしかったのか、雫は「フフフッ」と笑う


「ごめんなさい、そうよね、普通はそんな反応になっちゃうわよね。でも考えてみて、栞がかけたのは索敵用の魔法よ、もし絵本や物語のように、ビビビッて光線が出たりしたら敵に見つかっちゃうおそれがあるでしょ、だから、基本的にああいった魔法は発動が分からないようになってるの。」


 楓は雫の説明には納得するが、気持ち的には期待はずれの感が強く「はあ」と気の抜けた返事をした。

 その時だった。突然紅葉が「わわっ!」と驚いたような声を出す。

 しかし、驚いたのは紅葉だけではなく、栞も紅葉の様子を見て驚いていた。


「嘘でしょ!?、出力はまだ極少よ。こんなことありえない!」


 端から二人の様子を見守っていた楓の目には何も写っておらず、一体今何が起こっているのか分からなかった。


「栞!紅葉ちゃんの手を離して!。紅葉ちゃん、今感じているのがマナよ!大丈夫だから落ち着いて目を開けて!。」


 雫はこれを予見していたのか、二人に指示を出しながら魔法の発動準備をし、体の周りには青色の魔力が纏われていた。

 紅葉は今感じている経験のない感覚に、戸惑いながらも雫の指示どおりに目を開けた。

 その瞬間、紅葉の目に妖精のような小人達が見え、紅葉の目に見えている小人達は、首をかしげながら紅葉の様子を伺ってていた。


「雫先輩!この子達一体何なんですか!?」


 怯えた様子で雫の名前を叫ぶ紅葉。

 紅葉の叫びを聞き、ジンと栞は驚愕する。


「なっ!まじかよ!」


「雫!あの子も貴方と同じなの!」


 栞の問いに、雫は今はそれどころではないと、敢えて無視をする。


「紅葉ちゃん!その子達なら大丈夫。貴方の味方よ、優しく声をかけてあげて。」


 雫の指示を聞き、紅葉は震えた声で小人達に語りかける。 


「え…え〜っと……、こんにちは、わ…私紅葉っていうの貴方達は?」


 紅葉に語りかけられていることに気付いた小人達は、両手を上げ喜び、紅葉の周囲をクルクルと回りながら踊り出した。

 その様子を見て雫は、「もう大丈夫」と体に纏っていた魔力を解き、笑顔で紅葉に近づく、


「紅葉ちゃん、その子達は精霊っていうマナの化身よ。見ての通り、紅葉ちゃんに危害を加える気はないわ。むしろ紅葉ちゃんに気付いてもらえて嬉しいみたい。」


「精霊…ですか。よくわからないけど可愛いですね。」


 そう言って、紅葉は微笑みながら精霊達を見る。


「雫の過剰とも思える心配の理由が分かったわ。彼女、貴方と同じなのね。」


 栞の言葉に雫は答えない、いや、答えられないのだろう。そのことが分かっているのか、栞もそれ以上は何も言わなかった。

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