第171話 アメリカの進む道

 一方アメリカは、順調に食料エリアを開発していた。アメリカも食料エリアに『フロンティア』という名前を付けていた。


 フロンティアの首都アダムズには、新しいホワイトハウスが建設された。そのホワイトハウスの執務室で仕事をしているのが、サリンジャー大統領である。


「ディルク長官、原発の建設が遅れているようだが、原因は?」

「収穫期で労働者が集まらなかったのです」

 アメリカでも農業労働者が増え、時期によって建設現場に労働者が集まらなくなっていた。


「原発は、エネルギー政策の要だというのに、困ったものだ」

「ヨーロッパよりは、マシです。あそこは原発を諦めた国がほとんどです」

「日本はどうなのだ?」


「日本は特殊ですね。ファダラグの飼育を限界まで増やし、紅雷石発電をベース電源にするようです」

「しかし、ファダラグの病気もあると言っていたのは、日本人だぞ」

「だから、紅雷石の備蓄をするそうです」


「なるほど、紅雷石は備蓄しやすいか」

 それを聞いたサリンジャー大統領は、日本に興味を持ったようだ。ディルク長官が執務室を出ると、入れ違いに国務省のシュルツ長官が入ってきた。


「大統領、ようやくロシアの様子が判明しました」

 ロシアとは音信不通になっており、その様子が全く分からなかったのだが、調査部隊を派遣してようやく様子が分かったらしい。


「ロシアはどうなっている?」

「それが人口のほとんどが死んだようなのです」

 大統領が腑に落ちないという顔をする。

「なぜ、そんなことに?」

「ガスのパイプラインが異獣により破壊されたのです。それにより暖房のエネルギー源を失ったロシア人の多くが、凍死したそうです」


「そういう時は、ヨーロッパに難民が押し寄せるはずだ」

「その頃のヨーロッパも混乱しており、戦争が始まる一歩手前だったのです」

 それに異獣たちを倒しながら、ヨーロッパへ向かうというのは難しかったのだろう。


 大統領は頷きながら、その詳細を聞いた。

「そうなると、ロシアで生き残っているのは、本当に少人数なのだな。それならロシアを除外して考えることができる」


 それを聞いたシュルツ長官が同意するように頷いた。

「但し、同時に世界が小さくなった事を意味します」

 大統領が鋭い視線を向ける。

「どういうことだね?」


「中国は一部の者だけが、食料エリアに避難して時代錯誤の封建社会を築き、ヨーロッパは長閑のどかな農村社会となったようです。貿易できる相手が居ません」


 それを聞いた大統領が苦笑いする。

「仕方ないだろう。生き延びるだけで精一杯なのだから」

「しかし、アメリカ内部だけで経済を回すとなると、それほど成長が見込めません」

「そうだ、日本はどうなのだ?」

「日本はアガルタに引き籠もっています」


「日本人は何を考えているのだろう?」

「たぶん食料エリアを十分に開発してから、外に目を向けようと考えているのでしょう。ある意味正しい方法だと思います」


「だが、日本やアガルタだけでは、開発に必要な資源を揃えられないのではないか。我が国でもレアメタルの入手には苦労しているのだ」


「日本は、レアメタルなどを使わないで生産する技術に、目を向けているようです」

 イギリスが日本から技術を導入し、高性能な電気モーターの生産を開始した。イギリスは日本から技術を導入したことを秘密にしている、というような事までアメリカは突き止めていた。


「日本が技術を提供したことを秘密にしているのは、技術を独占したいからでしょう」

 シャングリラで優位な立場になりたいイギリスは、日本の技術を広めたくないのだろうと、シュルツ長官は推測した。


「日本が開発した電気モーターの技術を手に入れますか?」

 シュルツ長官の言葉に、大統領が眉をひそめる。

「我が国にも、それくらいの技術はある。必要ないだろう」

「ですが、その技術を我々は使っていません。我々が開発した技術は、コストが高いのです」


「それは日本の技術も同じではないのかね?」

「いえ、日本の技術はコスト面も考慮しているようです」

 それを聞いて大統領は不満そうな顔をする。

「日本は無償で、その技術を公開しているのだな。なぜだと思う?」


「人道的な立場から、無償で公開しているようです。立派なものです」

 大統領は納得していなかったが、反論はしなかった。


 その後アメリカは日本からの技術を導入し、様々な農業機械や重機を開発した。それをテコに食料エリアの開発を進め、目標であった最盛期の技術水準を保つことに成功した。


 ただ世界は食料エリアに区切られたブロック経済が進み、アメリカと他の食料エリアにある各国は、連絡が疎になって孤立した。


 アメリカは、その状態でも科学技術の研究開発を進めた。そして、インターネットやSNSが復活し、フロンティア内でのネット社会を確立させる。


 フロンティアで開発した科学技術は、外に出す事はなかった。そのためには外国との付き合いを減らす必要があったので、アメリカは諸外国との連絡を自ら減らす。


 その結果、日本が何をしているのか分からなくなったようだ。その事はアメリカ自身が、あまり気にしなくなった。


 アメリカは新たな孤立主義に陥ったらしい。日本はアメリカの態度に不審を持ったが、段々と疎遠になるに従い、日本もアメリカを代表とする諸外国に関心を失った。


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