第168話 桃源郷の劉総書記
中国人たちが移住した食料エリアは、『
その桃源郷の首都は長安と命名した。その長安の共産党本部である
「将軍、日本に派遣した調査隊はどうなったのだ?」
「期限になっても戻ってきません。日本で異獣に全滅させられたのかもしれません」
劉総書記が不満そうな顔をする。
「まさか、日本人の捕虜になったのではないだろうな?」
『捕虜』という言葉を使ったということは、劉総書記は日本人を敵だと思っているのだ。
「いえ、日本列島にはほとんど人の姿がない、という一次報告が届きましたので、日本人ではなく異獣だと思われます」
調査隊は日本に到着してすぐに報告を纏め、一次報告として中国に送っていたのだ。その連絡方法は軍事ドローンを使ったものだ。
「日本人は、食料エリアに移住したと思うか?」
「移住したとしても、少数でしょう」
「それで日本に資源はありそうだったのか?」
「残念ながら、町が異獣により破壊され、回収できるものがほとんどない状態です」
「ふん、先進国だというから、日本に期待しておったのに」
「日本人は軟弱になっていたのです。日本よりベトナムやタイに期待した方が、いいかもしれません」
「分かった。ベトナムやタイを中心に資源回収を進めろ」
「承知いたしました。日本はどうしますか?」
「当分は放置だ。資源が回収できない土地などに用はない」
劉総書記たちが勘違いした御蔭で、日本は厄介な敵から解放されることになった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
台湾から戻った俺たちは、中国の調査隊の件を聞いた。それといい加減な報告書を出すな、という説教を食らう。
「あの報告書には、『(仮)』と書いてあったはずですよ」
竜崎が荷電粒子砲を撃った時の衝撃波で怪我をしたと聞いて、ちょっとだけ反省する。但し、あの荷電粒子砲は完成品でないことは報告していたのだ。
「荷電粒子砲のことは、それくらいにして、向こうの食料エリアで何か収穫はあったの?」
美咲が尋ねた。
「ああ、先住民の工場跡で、海水から必要な成分を取り出す紋章構造体を手に入れた」
「それは食料エリアの海水から、ということなの?」
「そういうこと。食料エリアの海水を調べてもらって分かったんだけど、海水には有益な成分が含まれているようなんだ」
「具体的には、どんな成分が有益なの?」
「第一に塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、そして、プラチナだ」
美咲はプラチナと聞いて、目を大きく見開く。
「本当にプラチナが?」
「地球の海に比べれば、桁違いの量がアガルタの海水には含まれている」
「なるほど、その紋章構造体を使えば、マグネシウムやプラチナが資源化できるのね?」
美咲が嬉しそうに確認した。
「できると考えている。こいつの研究を始めたいんだけど、予算を頼むよ」
それを聞いて美咲が溜息を吐いた。
「分かった。何とかするわ」
俺は研究所へ行って、手に入れた紋章構造体を誰に任すか考えた。そこで若い研究者である
真島研究員は精力的に研究を進め、二ヶ月ほどで目的の成分を指定する方法を突き止めた。
俺と河井は会議室で、真島研究員から説明を受けた。
「なるほど、原子核の陽子の数が、重要な要素になっていたんだな。次は実際に海水から成分を抽出する装置を開発してくれ」
「その成分というのは、何になるのです?」
「そうだな……マグネシウム、カルシウム、カリウム、プラチナかな。特にプラチナは重要だ」
それを聞いた真島研究員が頷いた。
「最初にプラチナを抽出する紋章構造体を作製し、プラチナ抽出装置を開発します」
「そうしてくれ」
アガルタ政府はプラチナの産出国である南アフリカに外交官を送って、交渉しようとしたのだが、上手くいかなかった。こちらが考えていた以上にアフリカは混乱していたのだ。
最悪なのはあちこちに独裁者が現れ、内戦が始まったことだ。外交官はほとんど交渉ができずに、日本へ帰ってきたという。帰れただけで幸運だという状況だった。
ということで、プラチナをどこで手に入れるかが重要になっていたのである。真島研究員とそのチームは、プラチナ抽出装置を完成させ、海水からプラチナを回収することに成功した。
「よくやった。これでプラチナの心配をしなくて済む。ところで、大規模にプラチナを抽出すると、海水からプラチナが枯渇しないだろうか?」
「その心配は必要ないと思われます。アガルタで必要なプラチナを、一万年ほど回収しても、僅かに濃度が変化するだけです」
それだけ海水が膨大だということだろう。俺たちは回収したプラチナを使って立体紋章の研究を進めることにした。
ちなみに、抽出用の立体紋章は『成分抽出』と名付けられた。そして、大規模なプラチナ抽出装置を設置する場所をどこにするかという調査が開始された。
速い潮流がある場所で、ヤシロ市に近い場所を探し始めた。
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