第159話 三眼巨人

 俺は神雷棍を握り締め、『機動装甲』のスキルで防御を固めてから転移ドームの外へ出る。すると、サイクロプスが襲い掛かってきた。身長が三メートルもあるサイクロプスが、棍棒を手にして襲い掛かるとかなり怖い。


 恐怖を抑えて神気を流し込んだ神雷棍でサイクロプスの足を殴る。命中した瞬間、神雷棍の先端にある五センチほどの円錐形をした棘の雷撃棘らいげききょくから稲妻が放射され、サイクロプスの体内を駆け巡る。


 ビクンと痙攣したサイクロプスが倒れた。そいつの頭にもう一撃入れてトドメを刺してから、周りを見回す。大勢のサイクロプスが俺を目掛けて走り出していた。


 俺は囲まれる前に、神気をどんどん神雷棍に注ぎ込む。すると、その先端から神気を帯びた稲妻が帯のように伸び始める。それは八メートルほどまで伸びて、稲妻で形成された鞭のようになった。


 稲妻なら流れ出て消えるのだが、神気を帯びた稲妻は固体化したように見える。俺は『雷鞭らいべん』と名付けたものを襲って来るサイクロプスたちに叩き付けた。


 雷鞭を叩き付けられたサイクロプスは、その命中部分が炭化して大きなダメージとなった。しかも、その巨体は麻痺して地面に倒れる。


 八匹のサイクロプスが次々に襲い掛かるのを、雷鞭で撃退する。雷鞭は凄まじい威力を持っていた。頭や首、心臓付近に命中すれば致命傷になり、それ以外でも麻痺して倒れた。


 致命傷にならずに倒れているサイクロプスは、河井がトドメを刺した。瞬く間にサイクロプスを倒した俺は、大きく息を吐き出した。サイクロプスを倒した場合に取得する部位は放棄した。その場合は心臓石が僅かだが大きくなるようだ。


「コジロー、その神雷棍は凄い威力だな」

「素材に使った巨大カブトムシの角が、良かったんだよ」

 その角は神気の伝導率が高く、神気を帯びた電気に変換する能力が凄まじかったのだ。その時、凄まじい咆哮が聞こえてきた。


 ビリビリと全身が震え、心が冷たくなるような感じを覚える。

「守護者だ。確か双頭トロールじゃなかったか?」

「見えた。違う、違うぞ」

 俺は河井が見ている方向に目を向ける。守護者と思われる化け物が居た。身長五メートルほどの巨人で、三つの眼を持っていた。


 三眼巨人が剣を持って近付いてくる。そして、俺たちに向かって振り下ろした。俺は横に跳んで、雷鞭を三眼巨人の胸に叩き込む。


 命中した部分で火花が散って、その部分が焼け焦げた。だが、それくらいで死ぬような守護者ではなかった。


 河井が『縮地術』を使って、足元に飛び込み『五雷掌』の【爆雷掌】を巨大な足に叩き込んだ。雷撃の火花が飛び散り、衝撃波が三眼巨人の体内を走り抜ける。


 三眼巨人が後ろによろめいた。だが、血を吐き出した後に立ち直る。

「嘘だろ……【爆雷掌】の攻撃に耐えられるのかよ」

 河井が驚きの声を上げながら後退する。


 俺は『操闇術』の【闇位相砲】を三眼巨人に向けて放った。それに気付いた巨人が地面に身を投げ出すようにして避ける。


 それを見た河井が『操地術』の【地竜牙】を発動する。地面から竜の牙のような突起が突き出され、三眼巨人の腹を貫いた。


 ダメージを負った三眼巨人に向けて、俺はもう一度『操闇術』の【闇位相砲】を発動する。巨人に向けて突き出された手の先に、漆黒のエネルギーが生まれ放たれる。


 その攻撃が巨人の左腕に命中して、片腕を消し飛ばした。左肩から噴き出す血を撒き散らしながら、三眼巨人が剣を振り回す。


 その時、剣から不思議な力が放たれ、近くの木に命中する。その木の幹がスパンと切断された。

「あの剣には気を付けろ!」

 俺が叫ぶと、河井が青い顔をして頷いた。


 三眼巨人が冷静に剣の力を駆使していれば、俺たちは負けたかもしれない。だが、怒りで我を忘れた巨人は狙いも定めず剣を振り回すだけだった。しかも、剣を振り回したことで血が噴き出す勢いが強まり、三眼巨人は弱り始めた。


「あの馬鹿に、トドメを刺すぞ」

 俺は河井に声を掛けた。

「分かった。『操炎術』の【プラズマ砲】で攻撃するから、コジローも同時に攻撃しよう」


「もう一度『操闇術』の【闇位相砲】を使う」

 俺たちは呼吸を合わせて、【プラズマ砲】と【闇位相砲】を同時に放った。両方の攻撃が弱っている三眼巨人に命中し、【プラズマ砲】が巨人の顔を焼き、【闇位相砲】が巨人の胸に風穴を開けた。


 巨人が倒れると頭の中に、どの部位を残すか確認してきた。俺は剣を指定する。人間には大きすぎる武器だが、俺が持つ『特殊武器製作』で加工できるのではないかと思ったのだ。


 頭の中に声が響く。

【守護者バルタゴスを倒しました。あなたの所有するスキルから任意の一つをレベルマックスまでアップさせます。どれを選びますか?】


 俺は『超速思考』のスキルをマックスまで上げた。それから心臓石を拾い上げ、転移ドームに戻る。

「お疲れ様、怪我はしてない?」

 美咲が心配そうな顔で尋ねた。

「自分は大丈夫だけど、コジローは?」

「全く問題ない。これから巨人区に行ってみるよ」


 美咲はヤシロ市に戻ったので、俺と河井で巨人区へ行った。耶蘇市の西側の奥にある巨人区は、荒野となっていた。


 分裂の泉を探してみたが、失くなっていた。分裂の泉があった場所には、どれくらいの深さか分からない穴が開いていた。


「どういうことだろう?」

「コジローにも分からないことなら、自分にも分からないよ。ただ失くなったのなら、役目が終わったということじゃないか?」


「役目? 分裂の泉に、どんな役目があったと言うんだ?」

 河井は肩を竦めて、首を振る。


 この深い穴は何だろう? レビウス調整官のモファバル種族には、人類滅亡派と人類存続派があり、人類滅亡派が『プラーナ』という特殊なエネルギーを地球から奪っていると聞いている。


 その『プラーナ』を奪うシステムが分裂の泉に設置されており、必要量を回収したので分裂の泉を消したということだろうか?


 地球の環境異変は、『プラーナ』を奪ったことによる影響だとすると、これ以上悪化することはなくなったということだ。


 だが、これが元の状態に戻るには何万年という歳月が必要だということなので、俺たち日本人はアガルタで生活することになるだろう。


「そうすると、スキルを手に入れられなくなるのか?」

 河井は分裂の泉がなくなったということは、異獣も増えないということだと気づいた。


「スキルが必要ない時代になるんだろう。但し、異獣が繁殖を始めなければの話だ」

 異獣が普通に繁殖を始めれば、増えることになる。特にゴブリンとか普通に繁殖して増えそうだ。


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