第149話 アメリカのブラフ
ローランドと国防長官のコリンソンが、アガルタへ真相を調査するために行くことになった。当初はローランドだけだったのだが、コリンソン国防長官がどうしても一緒に行きたいと言い出したのだ。
移動手段として使ったのが、新型の飛行艇である。紅雷石発電装置を動力源にして、五個のプロペラで進む中型飛行艇だ。
「一つ教えて欲しいのだが、日本がアガルタと呼んでいる食料エリアには、先住民の遺跡が残っていたと聞いたが、それはトゥリー人の遺跡と同じようなものだったのかね?」
コリンソン国防長官の質問に、ローランドが少し考えてから答える。
「科学者たちは、トゥリー人の文明を、地球の文明に似た科学文明だと推測しています。ですが、クゥエル支族は違うようです」
「どう違うのかね?」
「日本人たちは、魔法のようなものを基礎とした文明だったのではないか、と考えているようです」
「魔法? 探索者たちが使うスキルのようなものかな?」
「そうです。スキルに近いと思います」
「ん? 日本人はどうやって、それを突き止めたのだ?」
「さあ、アガルタには巨大船や都市の遺跡も残っていましたから、調査して判明したのでしょう」
「そんな報告は読んでいないぞ」
「我々も確認した訳ではないので、報告はしていません」
アメリカの飛行艇が日本の大島に到着した。大島には宿泊施設が完成しており、ローランドたちはホテルのような宿泊施設に泊まって疲れを癒やしてから、アガルタに転移した。
転移したコリンソン国防長官は、ストーンサークルの周囲に防壁が築かれており、侵入者が勝手にアガルタへ出入りできないことに気付いた。
「日本はアガルタへの侵入を、警戒しているようだね?」
「ええ、大陸からの侵入者を警戒しているのでしょう」
「アガルタの都市の近くにあるストーンサークルは、どうなっている?」
「同じように、防壁を築いて守っているようです」
「使用していない転移ドームは、どうなっている?」
「他の転移ドームのリンク水晶をセットしてあり、制限解除水晶はセットできなくしてあります。我が国と同じです」
コリンソン国防長官が不満そうな顔をする。アガルタに転移できるのが、ガーディアンキラーだけだと知って、軍事作戦が難しくなったと考えているようだ。
軍が何を考えているのか、ローランドは不安になった。
「そんな不安そうな顔をするな。軍がアガルタを制圧するような作戦を立てている訳ではない。我が国と日本が対立するようなことが万一起きた場合に備えて、アガルタについて知りたいと思っているだけだ」
ローランドとコリンソン国防長官は、美咲が用意した飛行機に乗ってヤシロに移動した。ヤシロは高層ビルこそないが、近代的な都市となっている。
「日本人が、街を築き上げる速度は称賛に値する。そう思わないか?」
「そうですね」
二人はヤシロの市役所に入り、応接室で行政長官である美咲と数人を相手に話し合いを始めた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺はクゥエル支族研究所の責任者になっていたので、美咲に呼ばれた。ローランドとは顔見知りだったので挨拶すると、コリンソン国防長官を紹介される。
「アメリカの国防長官に会えるとは、光栄です」
「摩紀さんは、我軍でも有名ですよ。オーストラリアで活躍されたそうですね」
「何とか、オーストラリアの無法者を退治できました」
ローランドが真剣な顔で美咲に目を向ける。
「ところで、紅雷石のことなのですが、日本は紅雷石の製造を行っていると聞きました。本当ですか?」
これはブラフだろうか? 俺はローランドの顔を見たが、分からない。完全なポーカーフェイスだ。
「何を聞いたと仰るのです?」
美咲が尋ねた。
「アガルタで、紅雷石が作られているという話でした」
具体的な情報は何も無いということが分かった。だが、アメリカはエネルギーで困っているようだ。国防長官も一緒に来たということは、どれほどアメリカが真剣になっているかという証拠だろう。
美咲が俺に顔を向けた。
「協力体制の強化を行うタイミングなのかな?」
「当初の計画通り、ファダラグについて教えてあげてもいいんじゃないか」
エネルギー問題で血迷ったアメリカが、アガルタに攻め込んでくるというのは、勘弁して欲しい。そこで、ファダラグの存在と飼育法をアメリカに教えることにした。
俺が紅雷石の製造工場は存在すると打ち明けると、ローランドが笑い出した。
「どうしたんです?」
「いや、あまりにも簡単に、白状したので、何だかおかしくなったんだよ」
ローランドは否定されると思っていたらしい。俺は肩を竦めた。
「紅雷石について教えた時に、製造方法も教えるかという話があったのですよ。そうでないと、経済が一方的になって、両国の関係が悪くなるかもしれませんからね」
「ほう、そこまで考えていたのか。しかし、日本は気前がいいな。アメリカなら最後まで隠したかもしれんよ」
コリンソン国防長官が不満そうな顔をする。
「アメリカはそこまで狭量ではない。人類のために『世界の警察』という役割を果たしていたくらいだからね」
それは昔の話だと思った。それより紅雷石の製造法を教える条件を出す。まず特許協定のようなものを結び、アメリカから他国へ知識や技術の供与はしないようにすることにした。その協定をアメリカが必ず守るかどうかは分からないが、少しは協力的になるだろう。
教える代償という訳ではないのだが、アメリカと日本は新たな同盟関係を結ぶことになった。これから先、大陸の者たちとトラブルになった場合、アメリカの助けが必要になるかもしれないと考えたのだ。
もちろん、一方的なものではなく、アメリカが他国とトラブルを起こし、助けを求められた時は、日本も助けることになる。以前のように一方的な同盟関係ではなくなる。
その前にファダラグを見せなければならない。
「コジロー、お願いできるかしら」
「分かった。俺が案内しよう」
俺はローランドとコリンソン国防長官をファダラグの飼育場へ案内する。
「何を見せてくれるというのです?」
ローランドが尋ねた。
「あなた方が知りたがっていた紅雷石の製造工場ですよ」
「それは嬉しい」
ヤシロの郊外へ高機動車で移動して、東京ドーム並みの巨大な建物の前で止める。
「デカイね。これが製造工場なのかね?」
「正式名称は、『ファダラグ飼育場』です」
「飼育場? どういう意味だね?」
説明するより見せた方が早いと思った俺は、二人を中に案内した。そして、赤い色をしたスライムを見せる。
「これは異獣なのか?」
「いえ、これはクゥエル支族が創り出した人造生物です。これこそが紅雷石を生み出す
二人は飼育場で飼われている無数とも思えるファダラグの姿を見て絶句した。
「これが人造生物ですと……」
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