第145話 アメリカ軍と無法者

 オーストラリアで新しいスキルと武器を手に入れた俺は、河井と相談してキャンベルの無法者たちを偵察することにした。


「コジロー、知ってるか。無法者たちのことを『キャンベラ山賊』と呼ぶようになったらしいぞ」

「へえー、山賊か。まあ、呼び方なんか、どうでもいいけど。何をやっているか、正確に調べよう」


 俺たちはウィルプレーンでシドニーまで行った。シドニーから高機動車に乗り換えて、キャンベラ山賊たちが制圧したというカンリックの町へ向かう。


 カンリックは石炭で有名な町であり、ここの炭田で露天掘りした石炭は、アメリカに運ばれていたらしい。


 俺たちが荒れた道路をカンリックへ向かっていると、突然人が飛び出して銃を向けられた。ブレーキを踏んで高機動車を停止させた俺は、外に出た。


 相手は軍人らしい。五人の男たちから銃を向けられ、質問された。

「貴様らは何者だ?」

「俺たちは日本人だ」

「証明するものを持っているか?」

 俺は身分証明書として、ヤシロで発行した市民証を見せた。この市民証は、日本国のヤシロが市民である事を証明するために発行しているものだ。日本語は読めないだろうが、市民証に描かれている国旗の日の丸を見て、日本人だと認めてくれたようだ。


「日本人らしいな。だが、日本人がこんなところで何をしているんだ?」


「あんたたちこそ何者?」

 俺が尋ねるとリーダーらしき男が厳しい顔で返事をした。

「我々はアメリカ軍の者だ」


 それを聞いて事情が飲み込めた。アメリカが管理していたカンリックの炭田がキャンベラ山賊に制圧されたので取り返しに来たのだ。


「我々はキャンベラ山賊の様子を偵察するために来たんだ」

「偵察だと? 軍人じゃないようだが、探索者か?」

「ええ、そうです」


 そのアメリカ軍人は俺たちを胡散臭そうに見ていたが、銃口を下ろした。

「日本にクイーンズランド州の鉱山を譲ったのだったな。キャンベラ山賊が攻め込んで来るんじゃないかと、心配しているんだな?」


「そうなんです。ですが、アメリカ軍が退治してくれるなら、安心です。一緒に行ってもいいですか?」

「探索者と言っても、民間人だ。戦場に連れて行く訳にはいかん」


 アメリカ人たちに追い返されたが、確実な情報を手に入れたい俺たちは密かにカンリックへ行くことにした。


「任せればいいんじゃないか?」

 河井は全部アメリカ人に任せればいいという意見だった。だが、アメリカ軍人の実力も知りたかった俺は、カンリックへ行くことにしたのだ。


 カンリックの近くまでウィルプレーンで飛んで、歩いて町に近付く。町が見えてくると、銃を持って町を見回っている無法者たちの姿が目に入る。キャンベル山賊という呼び名が決まったようだが、アウトローか無法者という呼び名がしっくり来る。


「やっぱり銃を持っているのか、あの様子だと簡単には近づけないな」

 俺たちは町の近くにある巨木に登って、町を監視していた。間もなくアメリカ軍が到着して、同じように監視を始める。


「何を待っているんだろう?」

「住民が、どこに監禁されているか、探しているんじゃないか」

「そうか、巻き添えになったら、最悪だからな」


 住民たちが町の病院に監禁されていることが分かり、アメリカ軍は攻撃を開始する。まず見回りをしている無法者を狙撃して倒すと町に突撃した。


 軍人らしい容赦ない攻撃で、無法者たちを倒し始める。銃声に驚いて家から出てきた無法者が、アメリカ軍により次々に殺される。


 病院で住民たちを監視していた無法者たちは、異変に気づいて子供を人質にして、病院の玄関に出てきた。

「何者だ?」

 子供の頭に拳銃を突きつけた男が叫ぶ。その言葉を聞いたアメリカ軍の軍人が唇を噛み締めてから答える。


「アメリカ軍だ。その子供を解放して、降伏しろ」

「五月蝿い! ここの住民を殺されたくなかったら、武器を捨てろ!」

 俺は木の上で聞いていて、嫌な予感を覚えた。このままだと、あの子供が殺されるかもしれない。


「『縮地術』で、あの子供を助けられないか?」

「難しいな。まだあいつを殺す方が簡単だ」

「俺も同じだ。ただ殺しに失敗して引き金を引かれると、子供の命が危ない」


「神気で、あの子供を包み込めないのか?」

 そう質問されて、できるかもしれないと気づいた。取得したばかりの『神気戦闘術』の中に【神気防護】という技があり、その技なら子供を神気で守れそうだ。


 助けるためには、近くまで行かなければならない。俺は木の上から町の建物の屋根に下りて、屋根伝いに病院に近づく。


 病院の屋上に到着した俺は、下の様子を覗いた。無法者とアメリカ軍が言い争っている。俺は亜空間から紐を取り出して下に垂らす。


 その紐が子供のところへ届き、神気を紐に流し込むと紐を操り始めた。紐の先端が子供の足首に巻き付き、神気が子供に流れ込む。


 その間に言い争いが激しくなっていた。

「本当にガキを殺すぞ。いいのか!」

「待て、そんなことをしたら、貴様も死ぬことになるぞ」

「お前らは、おれたちを殺すために来たんだろ。騙されんぞ」


 子供に拳銃を押し当てている男が、本当に引き金を引きそうだった。アメリカ軍はいつでも狙撃できるように準備している。


 人質になっていた子供は、恐怖で何もできない状態だった。だが、玄関先で拳銃を押し付けられて時間が経過した頃、何か身体の中に大きな力が湧き出すのを感じた。


 すると、恐怖が薄らぎ何でもできそうな気がしてきた。その時、一度に三つのことが起きた。子供が無法者に体当たりをして、アメリカ軍のスナイパーが銃弾を発射、そして、無法者が引き金を引いたのだ。


 その結果、無法者の拳銃から発射した弾が子供の肩に命中したが、神気によって弾かれた。スナイパーが放った銃弾は無法者の胸を貫通する。


 俺は結果に満足して退却する。その後、アメリカ軍が病院を制圧して、カンリックの町と炭田を取り戻した。


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