第146話 キャンベル山賊の逆襲

 無法者たちはカンリックの町から撤退したが、諦めた訳ではなかった。彼らの中で探索者として実力のある者たちが集められ、アメリカ人に報復するという話になった。


「ベニングス、アメリカ人たちの武装は、我々より上だぞ。大丈夫なのか?」

 声を掛けられた男は、獰猛そうな笑いを浮かべる。

「銃に頼っているような連中なんかより、強いスキルを持つおれたちの方が上だ。皆殺しにしてやる」


 ベニングスは『操炎術』と『操風術』のスキルを持ち、どちらもマックスレベルとなっていた。そして、武器として地竜鎚を装備している。


 この地竜鎚は敵に命中した瞬間に、崩壊波と呼ばれる振動を放ち対象物を破壊する力を持っていた。


「しかし、あいつらはスナイパーまで連れて来ているぞ」

「ふん、そんなのは関係ない。おれには『操風術』の【風陣装甲】があるからな」

 【風陣装甲】は風を纏うように身に付けることで装甲とするものだ。風の装甲なので弱そうに思えるが、普通の銃弾なら受け止めるだけの防御力があった。


 この【風陣装甲】を貫通するには、対戦車ライフル、現在では対物ライフルと呼ばれている銃が必要だった。


「だったら、なぜ最初の時に使わなかったんだ?」

「強敵に遭遇したら、一度退いて対策を練ってから、再戦するというのが探索者の戦い方だ。それにアメリカ人が、対物ライフルを持っているかもしれないだろ」

 ベニングスは熊のような男だが、戦い方は慎重なようだ。


 キャンベラ山賊の中には、ベニングスのような者が四人ほど居て、その四人を中心に反撃することになった。


 アメリカ軍は、囚われていた住民を家に返し、自分たちは病院で休むことにしたようだ。夕方が近づいた頃、ベニングスは密かに町に入り込んだ。


「一斉に病院を狙うぞ」

 ベニングスの合図で、攻撃が始まった。一人目は『操氷術』の【氷爆】、二人目は『操地術』の【地竜牙】、三人目は『操炎術』の【フレア】を放ち、ベニングスは『操炎術』の【プラズマ砲】を発射する。


 それぞれの攻撃が病院の建物に突き刺さり炸裂する。建物の一角を凍り付かせ、土で作られた巨大な牙が床から飛び出す。そして、爆炎が病院を舐めるよう押し寄せ、超高熱のプラズマが病院の壁を貫通して中で爆発。


 病院で休んでいたアメリカ兵たちは、大騒ぎになる。最初の一撃で死んだアメリカ兵は少なかったが、病院から飛び出したアメリカ兵をベニングスたちが狙い撃ちしたので、被害が大きくなった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 キャンベラ山賊の逆襲が行われている頃、俺たちはウィルプレーンでカンリックの町から少し離れたところを飛んでいた。


「河井、ちょっと待ってくれ。カンリックの町の様子が変だ」

「変? どうしたんだ?」

 河井がウィルプレーンを空中に停止させて機首を旋回させた。するとカンリックの町から煙が立ち昇っている。


「カンリックの町での戦いは、アメリカ軍が勝利して終わりじゃなかったのか?」

「どうやら、違うらしい。戻るぞ」

 俺たちは急いでカンリックへ戻った。近づくと病院が炎に包まれ、大勢のアメリカ兵が地面に倒れている。ほとんどは死んでいるようだ。


 俺たちは生存者を探して町を探し回り、五名の生存者を見つけ出しポーションを飲ませて治療した。そのおかげで五名は死を免れた。


「君たちは、日本の探索者だったな」

 五名の中の一人は、俺たちを止めた軍人だった。

「どうして、こんなことに?」

 俺が尋ねると、苦い顔をした軍人が教えてくれた。


 キャンベラ山賊の中に手強い探索者が居たらしい。その探索者たちは、強力なスキルを使ってアメリカ兵を攻撃したようだ。


「スキルの攻撃より、引き金を引く方が早かったんじゃないか?」

「いや、銃の攻撃が通用しなかったんだ。そういうスキルの持ち主だったらしい」


 俺の『機動装甲』みたいなものだろうか? 確かに同じようなスキルを使ったとすれば、普通の武装では歯が立たなかっただろう。だが、アメリカ兵の中にも、スキルを持つ者は居るはずだ。それを尋ねてみた。


「我々の部隊にもスキルを持つ者は居る。だが、初歩的なものだけだ。我々は銃を使って戦っている。それだと守護者レベルの異獣は倒せないのだ」


「アメリカなら、もっと強力な兵器が、有ると思いますが?」

「戦車で守護者を倒しても、戦車の中に居た者は倒した褒美をもらえなかったそうだ」


 レベルシステムには、兵器に関する何らかの基準が有るようだ。肩撃ち式ロケットランチャーを使う者も居たが、スピードのある守護者には通用しなかったようだ。


 結果として、銃を使って戦ったアメリカ兵は、レベルがあまり上がらなかったようだ。

「それで無法者たちは、どこに居るんです?」

「連中は、ここの鉱山は諦めたようだ。アメリカが増援すると思ったらしい。……君たちには、嫌な知らせだが、クイーンズランド州へ向かうかもしれん。日本人なら、大丈夫だと思ったのかも」


 元の日本政府が弱腰だったのを覚えていた連中が、標的を変更したらしい。俺は思わず舌打ちをした。日本は舐められているな。昔のイメージが残っているんだろう。


 カンリックの住民は、アメリカ軍が逃したそうだ。後はアメリカ軍に任せて、俺たちはクイーンズランド州へ戻った方が良さそうだ。


「コジロー、連中が日本が管理する炭田に来ると思うか?」

 日本が管理する鉱山は、炭田だけでなく鉄鉱山やミネラルサンドもある。だが、炭田より規模が小さいので、狙われるとしたら後になるだろう。


「日本に圧力を掛けようとしたら、炭田を制圧するしかないだろう。問題は、連中がどこに居るか分からないので、こちらから攻められないことだな」


「探したら見つかるんじゃないか?」

「だけど、発見できなかったら、守りを固める時間が少なくなるだけだ。まずは守りを固めるように指示してから、探しに出る方がいいだろう」

 俺たちはクイーンズランド州に戻って、カンリックの町で起きたことを、ジェンキンズを始めとするオーストラリア人に説明した。


「分かった。転移ドームと炭田を中心に警備を厳しくしよう。君たちはどうする?」

「俺たちは、無法者たちを探して、発見したら倒すつもりだ」


 それを聞いたジェンキンズが、

「二人だけで行動するのは、危険じゃないのか?」

「心配無用だ。我々は強力なスキルを持っているから」


 ジェンキンズが頷いた。俺たちはキャンベラ山賊を探しに出発した。


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