第143話 オーストラリアへの援助
オーストラリアの首都を根城としているキャンベラの犯罪者たちの間に、他の州の炭田や鉱山で働く人々を制圧し支配下に置こうという計画があると知った俺と美咲は、日本に協力してくれているオーストラリア人たちを守るために、手を打つことにした。
手っ取り早いのが武器の供給であるが、日本では武器の製造ができなかった。それに加え、火薬などの製造工場が異獣に破壊され、弾薬も製造できないという状態が長く続いた。
そこで火薬工場を解体して、破壊された部分を修理してから、アガルタに運び込み移築した。この工場は火薬も製造していたが、医薬品も製造していたので必要だったのだ。
武器に関しても美咲が製造工場をアガルタに建設した。中国兵が攻めてきた時、やはり最低限の銃器くらいは必要だろうと判断したのだ。
問題はその製造工場で作る銃を何にするかだった。様々な意見を聞いて、ドイツで開発されたサブマシンガンのMP5を製造することになった。
MP5はサブマシンガンとして有名な銃である。高価ではあるが、日本の警察でも採用されたほど高性能だった。またバリエーションもいくつかあるが、警察で採用されたものをデッドコピーした。
高性能なサブマシンガンを製造したのは、それほど多くの銃が必要になるとは思っていなかったからだ。そして、一発の威力より弾数の多いサブマシンガンにしたのは、弱い異獣の集団を撃退するために使うつもりだったからである。
製造済みのMP5は、五十丁ほど。警察などにあった拳銃が百二十丁ほど有るが、ほとんど弾がない。オーストラリアの犯罪者たちはどうだろう? まだ銃を使っているのだろうか?
オーストラリアでも火薬工場などは異獣に破壊されたと思うが、まだ銃弾は残っているのだろうか? この場合は銃弾が残っていると考えた方が良いだろう。
「サブマシンガンが五十丁か。それぐらい有れば、何とかならないか?」
俺が美咲に尋ねると、美咲は首を傾げた。
「キャンベラの連中が、どれほどの戦力か分からないのよ。五十丁だと心もとないかな」
それでもないよりはマシだと判断した俺たちは、五十丁のサブマシンガンと多数の弾薬をオーストラリアへ届けることにした。
オーストラリアへ行くのは、俺と河井だけになる。人手不足なのだ。
「なあ、移動手段だけど飛行機は使えないのか?」
船旅に飽きたらしい河井が尋ねた。
「使えるけど、陸地に近づくと鳥型の異獣に攻撃されることがあるぞ」
「美咲が取得した『飛空術』のスキルは、航続距離が五キロくらいしかなかったんだろ。他に長距離を飛べるスキルとかないのか?」
俺はステータス画面を出してスキルリストを確認する。膨大な数のスキルが並んでいた。河井がボーッと俺の方を見ているので、お前もスキルリストを調べろと伝える。
リストの真ん中ほどに『神気戦闘術☆☆☆☆』というのが有るのに気づいた。新しいスキルのようだ。ちょっと欲しくなったが、今探しているのは別のものだ。
「おっ、『神速術☆☆☆☆』というのがある」
河井が首を傾げる。
「それは素早くなるだけのスキルじゃないのか?」
「そうかもしれないな。だけど、役に立ちそうじゃないか。ところで、そっちのスキルリストはどうなんだ?」
「それらしいのはないな。『念動力』を取得して飛んだ方がいいんじゃないか、という気がしてきた」
「それなら『操風術』を取得して、風の力で遠くまで飛ぶというのはどうだ?」
「それだと身体がボロボロになるぞ」
俺なら大丈夫な気がするが、普通はボロボロになりそうだ。
「そうだ。向こうの食料エリアで手に入れた乗り物があっただろ。あれは使えないの?」
河井が意志力で飛ぶ『ウィルプレーン』を思い出して尋ねた。
「さあ。スピードによっては使えると思うけど」
俺たちは試すために街の外に向かった。草原でウィルプレーンを出して乗り込む。操縦席には俺が座る。このウィルプレーンは、操縦桿とかスイッチ、レバーなどは一切なく制御水晶だけで操縦するようだ。
何度か試すうちにコツが分かってきた。二人乗りのミニボート程度の大きさなので、それほど重くないはずだが、俺と河井の二人を乗せて浮かび上がると感動した。
「いいぞ。スピードを上げろ」
河井が勝手なことを言っている。俺は慎重に前進させた。最初は時速十キロほどで飛んでいたウィルプレーンが、徐々に増速し時速百キロほどになる。
「なあ、疲れないのか?」
河井が尋ねた。それほど疲れたという感じはないが、これだけの重量を持つものを動かしているのだから、疲れてもおかしくない。
一時間ほど飛ぶと少し疲れてきた。俺は湖に着水させる。
「こいつの最高速度は、どれほどだと思う?」
後部座席に座って景色を見ていた河井に質問する。
「たぶん、時速五百キロくらいじゃないか。結構速かったぞ」
その速さなら、オーストラリアまで二日で着きそうだ。但し、途中の休憩はどうするか考えないといけない。
「島を探して着陸するか。船を亜空間に入れておいて出すかだな」
「休憩用の船か。それなら何とかなるな」
俺と河井はウィルプレーンでアガルタの空を飛んで、操縦法を習得した。そして、休憩用の船を用意するとオーストラリアへ向かう。
地図を見ながら島を探してオーストラリアを目指す。途中でウィルプレーンが故障するようなことが有れば、休憩用の船で戻ることになるだろう。
予定通り二日でオーストラリアへ到着。クイーンズランド州の代表であるジェンキンズと相談することになった。
ジェンキンズ代表は、州議会の議員だったらしい。ほとんどの政治家はアメリカへ行ったのだが、彼は残った。病気の母親が居て、移住できなかったようだ。
食料エリアの仮設住宅でジェンキンズ代表に会うとアメリカからの情報を伝えた。
「はあっ、キャンベラの連中ですか。事態は深刻なようですな」
俺たちは運んで来たサブマシンガンと銃弾を渡した。どこを襲われるか分からないので、やはり五十丁のサブマシンガンでは少ないようだ。
オーストラリアにある銃は、ほとんど銃弾がなくて使えなくなっているらしい。ただキャンベラの犯罪者たちは軍の倉庫を襲って、武器を手に入れたらしいので、十分に武装している恐れがあるようだ。
ジェンキンズ代表が食料エリアへの移住を急がせることにした。
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