第106話 炎竜区

 俺たちは耶蘇市の異獣テリトリーについて調べた。ほとんどは元のテリトリーが交換されたようだが、全く新しい異獣のテリトリーが増えている場所も発見した。


 それは元幻鳥区にシフトしてきた炎竜区である。ここの異獣は頭に二本の角を持つ竜だった。全長が四メートルほどの四足歩行竜で、特徴的な二本の角の間から炎の塊のようなものを撃ち出すのが特徴だ。


「あの炎の塊は何だろう?」

 河井が不思議だという顔をする。この異獣もスキルのようなものを持っているということだろうか?


「気を引き締めて!」

 美咲が薙刀を出して構えながら言う。俺たちも武器を出して構えた。戦ってみて分かったが、角から撃ち出される炎の塊は厄介だった。命中すれば、即死するほどの威力があったのだ。


 但し、速度が時速一〇〇キロほどだったので、避けることは可能だった。但し、至近距離で撃たれると躱すのが難しくなる。


 炎の塊が命中しないのに苛立ったフレアサウルスが、俺を目掛けて突進してきた。横に跳んで躱すと、神気を注入した擂旋棍を竜の背中に叩きつける。


 その威力は凄まじく、異獣の血肉が弾け飛び背中に穴が開く。それを見たエレナが羅刹弓を引き絞り爆裂矢を放った。


 爆裂矢はフレアサウルスの横っ腹に命中して爆発しダメージを与える。それをチャンスと感じた美咲と河井が薙刀と大剣で攻撃する。


 俺たちにより袋叩きにあったフレアサウルスは、俺の擂旋棍による攻撃で息の根を止めた。残す部位に関するメッセージがきたので角を残すことにする。


 二本の角を拾い上げる。かなり重い。

「どうしたんだ?」

 河井が尋ねた。俺はこの角を使って武器を作れそうだと思った。そのことを河井に伝えると、

「面白いじゃないか。俺の大剣も古くなったから、新しいのを作ってくれよ」


「だったら、私の武器もお願い」

 美咲も声を上げた。ということで、まずは材料集めである。フレアサウルスを三匹倒して、三匹分の角を手に入れた。


「こうなると、守護者の角も手に入れたくなるな」

 河井が威勢の良いことを言い出した。それは俺も考えていた。フレアサウルスが放つ炎の塊でも、俺たちを即死させるほどの威力があるのだ。


 守護者だったら、どれほど凄い攻撃をするのだろうと考えたのだ。

「こういうことは勢いで決めたらダメよ。まずは守護者を確かめないと」

 エレナが慎重に行動するように忠告する。もっともだと思ったので、まず偵察から行うことにした。


 守護者の居る医薬品工場へ向かう。ここは広くて清潔な工場だったのだが、今はボロボロの工場になっていた。工場の壁が崩れ、鉄骨だけになっている場所もある。


 物陰に隠れながら工場の中心へと向かう。そこには久々に見る人型の守護者が居た。身長は二メートルほどで尻尾がある。二足歩行の恐竜を人型にしたような化け物で、手には槍のような武器を持っていた。


 その気配からすると、三日月市の巨竜区で戦った守護者と同じような感じだ。あの守護者は手強かった。だが、俺たちもあの頃に比べると段違いに強くなっている。


 倒せると確信した俺は、倒そうと合図した。他の三人が頷く。物陰から飛び出した俺たちは、守護者に攻撃を加える。


 エレナが爆裂矢を放ち、美咲が『操氷術』の【氷爆】を発動する。守護者の胸で爆裂矢が爆発した直後、守護者の周囲の気温が零下一五〇度となる。守護者の全身が急激に冷えて霜が降りたように白くなった。


 守護者が咆哮し身体を揺する。付着していた氷が飛び散り守護者が槍の穂先を俺に向ける。俺は神気を巡らし身構えた。


 その槍の穂先から、赤紫に光る三日月型の何かが撃ち出された。俺は神気を衝撃波に変えて迎撃する。衝撃波は赤紫の何かにぶつかり軌道を変えた。


 それは俺の背後にあったコンクリートの壁に当たって突き抜ける。コンクリートには巨大な剣が突き刺さったかのような穴が開いていた。


 ゾッとするような威力だ。河井が『縮地術』を使って一気に距離を縮め大剣を打ち込む。守護者はその斬撃を槍の柄で受け止めた。


 河井が飛び離れると、俺が衝撃波を叩き込む。守護者は弾き飛ばされ工場の壁にぶつかって跳ね返された。衝撃波の威力は高いはずだ。だが、守護者のダメージはそれほどでもない。上手く受け流されたような気がする。


 倒れた守護者にエレナが爆裂矢を撃ち込み、美咲が『操炎術』の【フレア】を発動。巨大な炎の帯で守護者を攻撃する。


 【フレア】は守護者に対する目潰しになったようだ。一時的に目が見えなくなった守護者は、距離を取ろうと後ろに跳んだ。


 それを追いかけて俺たちは前に出る。その動きを気配で気づいた守護者は、槍の攻撃を適当にばら撒き始めた。あの赤紫の飛ぶ刺突である。


 その攻撃で守護者に近付けなくなる。俺は衝撃波をもう一度放った。衝撃波を受けた守護者が自分から後ろに跳んで地面を転がる。その瞬間、河井が『操地術』の【地竜牙】を発動した。これは地面から竜の牙のような突起が突き出され敵を襲うというものだ。この攻撃で腕を貫かれた守護者は槍を手放した。


 美咲が素早く槍を回収。槍を失くした守護者が無力化されたかというとそうでもない。守護者の手には鋭い爪があり、その爪を使って攻撃してきたのだ。


 美咲は回収した槍で攻撃しようとしたが、使い方が分からないようだ。


「あれっ、こいつの目が治っているぞ」

 河井が驚いて声を上げた。守護者の再生能力は驚くほど高い。


 槍を失くした守護者は攻撃的になった。俺たちに飛びかかり鋭い爪で引き裂こうとする。河井が肩を引き裂かれる。


「大丈夫か?」

「ポーションを飲めば治る」

 河井は一度後ろに下がってポーションを飲んだ。


 エレナが連続で爆裂矢を放つ。素早く動き回り始めた守護者には三割ほどしか命中しなかった。それでも少しはダメージを与える。


 俺は何だか不安を覚えた。俺たちの攻撃が段々躱されるようになったのだ。俺は偶然だと考え衝撃波を放った。すると、守護者が地面に伏せて衝撃波をやり過ごす。


 俺は思い切り顔をしかめた。偶然じゃない。こいつは受けた攻撃を分析して、最適な戦術を組み立てているのだ。おまけに高い再生能力を持っている。


 じっくりダメージを蓄積して倒すという方法は間違いなのだ。こいつを倒すには新しい攻撃で一気に倒すしかない。


「こいつは学習する知恵があるようだ。一度使った攻撃は通用しないぞ」

 気づいていなかった河井だけが驚いた。


「どうするの?」

 美咲が質問した。

「新しい攻撃で、一気に仕留める。皆も新しい攻撃を用意してくれ」


 俺は『操闇術』の【闇位相砲】を発動するように用意した。

 守護者は激しく動き回り、美咲に襲いかかった。槍を取り返そうとしたのだ。美咲は【紫炎撃】で迎え撃った。その攻撃を胸に受けた守護者はのたうち回る。


 チャンスだと思った俺は、守護者に向かって拳を突き出した。その先に漆黒のエネルギーが生まれ、光線となって守護者に飛び、その頭を貫いた。


 それがトドメとなったようだ。俺は守護者の武器を残す事にした。


【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】

【レベルが上がりました】


 苦痛はあるが耐性ができているので、それほど苦しくない。


【守護者ビオデラムを倒しました。あなたの所有するスキルから任意の一つをレベルマックスまでアップさせます。どれを選びますか?】


 俺は『変換炉』のスキルを選び、マックスにまで上げた。


「次は、制御石だけど、どうする?」

 俺は皆に相談した。取り敢えず、欲しいスキルもなかったのだ。


「何か面白いスキルはないのか?」

 河井が質問した。面白いものと言っても……一応、探してみた。すると、『異界言語理解』というスキルが追加されていた。巨大船の壁に書かれていた文章を調べたからかもしれない。


 俺が皆に『異界言語理解』があったと言うと、美咲が取得した方が良いと言う。なので、制御石に触れて、『異界言語理解☆☆☆☆』のスキルを取得した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る