第4章 新世界編

第102話 巨大船

 ヤシロでは町造りが本格的に始まっていた。大工の佐久間もヤシロへ来て作業している。

「佐久間さん、今月中に何軒くらいの家が出来ますか?」

 メモを見ていた佐久間が顔を上げて、俺を見る。


「コジローか、予定の十二軒は完成しそうだぞ」

「予定通りでも十二軒か、もっと手っ取り早く家を作ることはできないんですかね?」


「日本にある工場とかが使えれば、プレハブ住宅もあるんだが……今は無理だろうな。それより水はどうするんだ?」


「将来的には、九里川の上流に浄水場を造ろうと思っています」

「大量の重機が必要になるんじゃないか? どうする?」

「重機の代わりに、『操地術』が使える者を増やします。スキルレベル6で【地形変成】という能力が使えるようになるんですが、これで土木作業ができるようになるそうです」


「そうなのか。河井は何も言わなかったぞ」

「言えば、ミチハルに土木作業をさせたんじゃないですか?」

「それはそうだろう」

「それが嫌だったんですよ。農作業だけで十分だと言っていました」


 佐久間が笑った。河井を含めた俺たちが忙しいのは知っていたからだ。その上に土木作業とか嫌に決まっている。


「だったら、おれたちが『操地術』を取得して、スキルレベル6にすればいいんだな」

「そうです。武藤さんたちが協力するそうですから」


 俺たちは『操地術』の使い手を大量に育成することを考えていた。

「おっ、雨が降ってきやがった」

 不意に佐久間が声を上げた。気づくと身体に雨が当たる感触を感じる。俺たちは建設中の家に逃げ込んだ。屋根が完成しているので、雨宿りはできる。


 食料エリアにも雨は降る。ただ長雨になるようなことはない。短期間にザザッと降ってやむことが多かった。


 雨がやんで外に出ると、道に水溜りが出来ている。

「道も舗装したいんだが、ここにはセメントもアスファルトもないからな」

 佐久間が愚痴るように言う。


「アスファルトはないかもしれないけど、セメントは石灰石や粘土、珪石、鉄があれば製造できると聞いたけど」

「食料エリアにもあると思うか?」

「あるんじゃないですか。珍しいものじゃないんでしょ」


「まあ、そうだな。一段落したら、探してみるか」

 俺は町の一画に目を向けた。そこでは紅雷石研究開発センターが建設されている。その周囲には政府が持ち込んだ大型テント倉庫が建っており、その中で研究者や技術者たちが研究開発を進めていた。


 この大型テント倉庫は縦横が二〇メートルあり高さが五メートルほどだった。この中で二〇人ほどの者が働いている。ヤシロの町で使っている小型紅雷石発電装置は、ここで製作されていた。


 と言っても、ここで製作された小型紅雷石発電装置の九割は、日本に持ち出され政府が使っているようだ。

 俺は研究開発センターへ行って、所長である水野に声を掛けた。


「水野所長、紅雷石を持ってきましたよ」

「ありがとう。残りが少なくなっていたんで、ちょうど良かった」

「減りが早いですね。大量に小型紅雷石発電装置を製作しているんですか?」


「そうじゃない。政府の要望で、石炭火力発電所がない県に大型紅雷石発電装置を設置することになったんだ」

 特に近畿地方には石炭火力発電所がほとんどないので、重点的に設置するようだ。近畿地方というと京都・大阪・奈良などの辺りだろう。


「他の国も石炭火力発電で電気を作っているんですかね?」

「中国やドイツなどは、石炭火力発電所が多いと聞いているから、そうだろう。だが、フランスなどは違うだろう」


 国によって事情は違うらしい。日本政府も他国の動向に気を配っている余裕がないので、情報交換をしているアメリカぐらいしか様子が分からないらしい。


 他の国でも食料エリアへの移住計画が始まっているかもしれない。俺たちも頑張らねば。


 美咲が主導する市議会は、高齢者と子供を優先して食料エリアへ移住させることにした。そのための住居を、第一目標として建設している。


 研究開発センターを出て、エリア拠点と呼んでいるストローベイルハウスへ戻ろうと歩いていると美咲が歩いているのが目に入った。


「美咲、どこに行くんだ?」

「ああ、コジロー。白石君たちが北西にある山で変なものを見付けたらしいのよ。その件で皆に相談しようと思って、エリア拠点に戻るところよ」


 大澤町から来た中学生の一人である白石弘樹は、仲間の忠宏と三弥の三人で北西にある山岳地帯へ行ったという。この三人は食料エリアの探検をしていたらしい。


「変なもの?」

「よく分からないんだけど、船があったそうよ」

「山に船だって……」


 どういうことだ? 小型の川船が山にあったということだろうか?

「小さい船なのか?」

「いいえ、大きかったそうよ。『超デカイ船が、山に置いてあった』と彼が言っていたの」


 これは一度見に行くべきだろうな。

「確かめに行こう。美咲も行くか?」

「ええ、四人で行きましょうか」


 翌日、俺と美咲、エレナ、河井の四人で北西にある山に向かった。オフロード車で三〇分ほど走ってから、降りて歩きになった。車が走れるような地形ではなくなったのだ。


 弘樹たちに道案内を頼んだのだが、道案内がなくとも簡単に分かると言っていた。その意味が分かった。その船は本当に巨大だったのだ。


 全長が二五〇〇メートルほどもある超巨大船だったのである。形は昔の安宅船あたけぶねに似ている。しかも色は緑だった。

「なんじゃこりゃ!」

 河井が驚きの声を上げる。


「アメリカの原子力空母でさえ、三三〇メートルなのに……こいつは二〇〇〇メートルを軽く超えている」

 俺たちは驚き、立ち尽くした。


「コジロー、亜空間に、その船を入れられるか?」

 河井が言い出した。

「無理に決まっているだろ。あれの十分の一でも無理だ」


「だったら、どうやって、ここまで運んできたんでしょう?」

 エレナが不思議そうな顔で巨船を見ていた。

「調べてみよう」


 俺たちは巨船に近付いた。巨大な船は山と山の間に挟まるように鎮座している。そのおかげで横倒しになっておらず、甲板を上にして置かれている。


「船首の下に穴が開いてますね」

 エレナが巨大船の破壊された部分を見つけた。俺たちは中に入るかどうか検討する。


 弘樹たちは中に入っていないそうだ。自分たちのような素人では、手に負えないと思ったらしい。


「俺たちも素人なんだけどな」

「専門家を呼ぶにしても、中が安全かどうか確かめないとダメよ」

 美咲がそう言って、中に入ることを提案した。


 話し合った結果、中に入ることにした。壊れている場所から中に入り、すぐに通路に出た。巨大船は金属ではなくセラミックのようなもので出来ているようだ。


 内部も同じ素材で出来ており、壁の表面などはツルツルしている。但し、床は埃や砂などが積もっていて、元がどんなものだったのか分からない。


 この船はここに放置されて百年以上の年月が経過しているように思える。これほどの埃が、数年で溜まるとは思えなかったのだ。俺たちは懐中電灯を片手に調べ始めた。


 通路を五分ほど進んだところで、大きな部屋に到着した。縦七〇メートル・横五〇メートルほどの大きな部屋である。但し、中には何もなかった。


 誰かが中にあったものを運び出したような形跡があった。難破船からサルベージする。当たり前のことだが、こんな山の中で船が難破すること自体が不思議だった。


 俺たちは船の中を探し回ったが、調査済みの部屋は全て空っぽだった。

「誰かが、中にあった全てを持ち出したようね」

 美咲が残念そうに言う。


 俺たちは五日ほどかけて巨大船を調べ、最後に最上階の調査を始めた。最上階にも大きな部屋があり、そこで巨大な亀の化け物と遭遇する。


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