第72話 銀山町の四人

 熊田隊長に話し合う時間をくれと告げて、河井と武藤も呼んで別室で意見を交換した。

「御手洗市長の発案で、ガーディアンキラーにする探索者を東下町からしか出さないというのが気に食わない」


 河井はあまり乗り気ではないようだ。御手洗市長の存在が大きいのだろう。

「だけど、装甲列車で別の町に運んでくれるというのは、魅力を感じる申し出よ」

 美咲は計画に参加しても良いという考えらしい。


 武藤が首を傾げた。

「なぜだ? 別の町に行っても、ガーディアンキラーに育てるのは、東上町の探索者じゃないんだぞ」

「東上町の探索者じゃなくても、意味はある」


 美咲は東上町という狭い地域だけを考えずに、もっと広い県や国について考えるべきだと意見を言った。俺もそうだと思うが、御手洗市長が絡むと何だか気乗りがしない。


「ところで、熊田隊長は何で俺たち四人を指名したんだろう?」

 河井は指名されたことが気になったようだ。

「たぶん、俺たち四人と転移ドームで会った藤林たちの誰かが、御手洗市長に話したんだろ。それが県にも伝わったんだ」


 ということは、弘樹たちや武藤たちがガーディアンキラーになったことは、知られていないということだ。竜崎たちは朝九時頃から食料エリアに転移して、午後四時頃に戻るというパターンのようなので、行き帰りに出会わないようにすれば、当分の間武藤たちがガーディアンキラーだとバレないだろう。


「なぜ隠す必要がある?」

 武藤が不思議そうな顔をしている。

「食料エリアに入れる人数が多いということは、食糧が豊富にあるということ。それを御手洗市長が知ったら、何か言ってくるかもしれないわよ」


 美咲の言葉を聞いた武藤は顔をしかめた。武藤も御手洗市長にはうんざりしており、会いたくもないようだ。

「県の人たちのためというのも分かるけど、東下町の連中の世話はしたくない」

 河井も参加することに賛成したが、条件を付けた。


 武藤が溜息を吐いた。

「なあ、東上町にメリットになることはないのか?」

 俺はメリットはあると考えていた。

「メリットはある。別の町の転移ドームに行けることだ」


 その言葉でエレナと美咲は理解したようだ。

「なるほど、確かにメリットね」

「コジローは凄いですよ。私は気付きませんでした」


 河井と武藤が顔を見合わせた。まだ理解できなかったからだ。説明してくれ、と俺に頼んだ。

「転移ドームに行って、耶蘇市のリンク水晶を嵌め込んでくるのさ。そうすれば、いつでも別の町へ行けるようになる」


「あっ、そうか」「なるほどな」

 河井たちも納得する。そうすると、装甲列車で運んでもらう町が重要になる。俺たちは無人となった町の中から、規模が大きく何か利用できる施設や農地がある場所を選んだ。


 熊田隊長が待っている部屋に戻った俺たちは、条件付きで参加すると伝えた。

「その条件というのは?」

「東下町の連中の世話は嫌なので、別の町の探索者の担当にしてください。それと探索者を鍛える町を指定させてください」


「東下町と君たちの確執は聞いている。別の町の探索者というのはいいだろう。だが、探索者を鍛える町を指定する意味はあるのか?」


「規模が大きな町は、様々な異獣のテリトリーが存在すると思っている。なら、鍛える探索者には倒せないが、俺たちなら倒せるという守護者も多いだろう」


「なるほど、そういう守護者を倒して、レベルアップしようと言うのだな。いいだろう」

 県の探索者がレベルアップすることには賛成なので、熊田隊長は承諾した。


 俺たちがガーディアンキラーになるまで鍛える探索者は、銀山かなやま町の探索者四人に決まった。銀山町は三日月市の二つ手前にある小規模な町である。


 その町にはガーディアンキラーは居ないそうだ。銀山町の住民は、食料問題で県に訴えていたという。銀山町が管理している農地が不作だったので、食料を配給してくれと声を上げていたのだ。


「そういう町の探索者を支援することは、意義があると思う。頑張らせてもらうよ」

「協力に感謝する」

 少し打ち合わせをした後、熊田隊長は帰った。


 その七日後、計画が始まった。俺たち四人は、装甲列車で銀山町へ行き鍛える探索者と合流した。列車の中で自己紹介が始まる。


 神部・水瀬・石渡・土田という探索者たちは、俺と同じぐらいか若い者だけだった。こういう事態になる前の職業を聞いてみると、神部だけが教師で、後は大学生と高校生だった。


 神部は個体レベル【12】で『操風術』と『槍術』を持っているそうだ。その神部が一番強いらしい。水瀬だけは女性で大学生。持っているスキルは『操地術』と『剣術』だという。


 石渡と土田は高校のクラスメートで、二人とも野球部だったらしい。そのせいか、スキルは『棍棒術』と『操炎術』を持っていた。


 まさかと思って石渡と土田に武器が何か聞いてみた。二人は背負っているケースの中から金属バットを出してみせた。


「そんな武器じゃ、ゴブリンくらいしか倒せないだろ」

「でも、これが一番手に馴染んでるんですよ」

 守護者を舐めているとしか思えない。神部と水瀬の武器も見せてもらったが、守護者を倒せるような武器ではなかった。


「コジロー、武器を作ってあげなさい。その武器じゃね」

 美咲に言われたが、そうするしかないようだ。


 装甲列車が三日月市を過ぎて、無人の長田市に到着した。長田市は耶蘇市より少し小さいくらいの町である。県がちょっとだけ調査したのだが、駅の北側が大蜥蜴おおとかげ区で南側が獣人区らしい。


 この町の獣人区は、オークとコボルトのテリトリーのようだ。

「さて、どちらから攻めようか?」

 俺が質問すると、美咲が答えた。

「獣人区へ行って、武器を調達しましょう」


 ということで、俺たちは南側の獣人区へ向かった。歩きながら神部が質問した。

「あなた方のリーダーは誰なんです?」

 河井がちょっと考えてから答える。

「リーダーはコジローで、軍師が美咲さんかな」


「一番強いのは誰なんですか?」

「それはコジローだよ。守護者を何匹も倒しているからな」

 水瀬が俺に視線を向けた。

「凄いんですね」


 俺の鼻の下が伸びたようだ。エレナから睨まれた。

「いや、他の三人だって凄いんだぞ。河井なんか大剣術の使い手なんだから」

 石渡と土田が驚いたような顔をする。

「大きな剣と書く、大剣術ですか?」


「そうだぞ」

 二人は河井に珍しいものを見るかのような視線を向けて、

「勇気がありますね。僕たちの町では、取ってはいけないスキルの一つになっていたんですけど」


 『大剣術』のスキルを取っても、大剣と呼べる武器が手近にないのが普通なので、取ってはいけないと言われるのも当然だった。


「河井さん、大剣を見せてください」

 石渡に頼まれた河井が、背中に担いでいる鞘から大剣を抜いてみせた。ワイルディボアの牙から製作した両手剣である。


「本物だ。凄え」

「これは金属じゃないですね。何で出来ているんです?」

「ワイルディボアの牙だ」


 そんなことを話しているうちに、オークと遭遇した。神部たちはオーク程度なら倒せるという。試しに戦ってもらうことにした。


 四人は一緒になって、牛刀を振り回すオークを袋叩きにした。四人の動きに注目していたが、神部と水瀬ならオークを一人でも倒せそうだ。だが、高校生二人は怪しかった。


 一番の問題は金属バットだろう。俺も鋼鉄製の戦棍を使っていたから分かるが、オーク程度でも一撃で倒すのは難しいのだ。


 次にコボルトに遭遇した。身長一八〇センチほどの人型なのに、頭が犬という化け物である。そのコボルト三匹と対峙した神部たちは不安そうな顔になっている。


 コボルトたちの武器は槍だった。しかも、神部が使っている槍よりも立派なものだ。

「四人で一匹を相手してくれ。河井は一匹頼む。残りの一匹は俺が仕留める」


 指示を出した後、俺は擂旋棍で戦い始めた。槍の突きによる攻撃を躱して、擂旋棍をコボルトの腕に叩き込んだ。その腕から槍が零れ落ち、それを拾ってコボルトの胸に突き立てた。


 普通なら、どの部位を残すか尋ねる声がするのだが、何も聞こえず槍だけを残して心臓石に変化した。

「へえ、この場合だと、無条件に槍が残るんだ」


 河井を見ると一撃でコボルトの首を刎ねたようだ。そして、神部たちはまだ戦っている。なぜもたもたしているのか分析してみた。武器にも問題があるが、彼らのスキルレベルが低いのではないかと気づいた。


 やっとコボルトを仕留めたので、彼らに尋ねた。

「武器に関するスキルレベルが低いのかい?」

 神部が恥ずかしそうに笑う。


「そうなんだ。僕たちの町には銃砲店があって、そこから猟銃を持ち出して戦っていたんだ。でも、弾がなくなって、今は槍や金属バットで戦うしかなくなった」


 どうやら、俺たちは問題ありのグループを割り当てられたようだ。


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