69話 クリスマスの夜 その2

「はあ、食べすぎちゃったかな。また糖質制限しなきゃ」

「絶対気にしすぎだと思うぞ。前におんぶした時もすごく軽かったし」

「そ、そう? 軽かった?」

「ああ、全然苦にならなかったぞ」

「……でも、油断するとすぐ体重増えるのよ。心配なの」

「無理しない範囲でやってくれよ」


 食後。

 食器を片づけて、俺たちは再びこたつに入っていた。

 結乃が俺の隣に来て、肩を寄せ合って。


「今年はあっという間だったわ」

「俺もだ」

「全部、風雅のおかげで」

「俺も、結乃のおかげで学校行くのが楽しくなったよ」

「休まなくなったもんね」

「結乃効果だ」

「えっへん」


 何それかわいい。


「来年もこんな感じでやっていこうな」

「もちろんよ。もっともっと仲良くしたいわ」


 今年、俺たちは一気にくっついたが、来年はさらに飛躍したいものだ。


「それじゃあクリスマスプレゼントを渡そうかな」

「あたしも用意する!」


 結乃がいったん居間を出た。

 バタバタと音がして、自分の部屋から戻ってくる。


 彼女は小さな箱を持ってきた。

 対して、俺は縦長の箱。


「お互いに小物みたいね」

「らしいな」


 中身は開けるまで内緒。それが約束だ。


「一人で買いに行けたんだな」

「怪我のこと?」

「そうだ」

「昨日、ほとんどよくなってたから出かけてきたのよ」

「無理してないな?」

「うん」


 箱を渡すと、結乃は大切そうに受け取ってくれた。


「俺のから開けてくれ」

「わかった」


 結乃が包装を外し、箱を開ける。


「腕時計……?」


 そう、これが俺の贈り物だ。


 今の時間――二十時半をしっかりと刻む、ブラウンの腕時計。


「結乃と一緒に歩いてて思ったんだ。歩きながら携帯で時間見るより、腕時計あった方がいいんじゃないかって」


 俺はつけているが、結乃はしていない。そこで思いついたプレゼントだった。


「そうね。あたしも腕時計デビューするわ」

「今までしたことなかったのか?」

「携帯で見てたから。でも、確かに風雅と歩いてる時はこっちの方が絶対にいいわ」

「一応、デジタル表示じゃないやつにしたんだが……」

「あたし、このデザイン好きよ。針が金色で綺麗。さすがは風雅ね」

「あ、ありがとうございます」

「ふふっ、また言ってる」

「ぐ……正直かなり悩んだからな。気に入ってもらえたなら嬉しい」


 結乃が腕時計を両手で包み込んだ。


「これから、毎日つけていくわ」

「ぜひそうしてくれ」


 いったん、彼女は腕時計を箱に戻した。

 自分の小箱を、俺に手渡してくる。


「じゃあ、今度はあたし」

「開けるぞ」

「うん」


 包装は簡単なものだった。

 箱のふたを開けると……ペンダントが現れた。


 エメラルドグリーンのリングがついた、銀色の首飾り。


「風雅、あたしの誕生日にペンダントをくれたでしょ? でも、つけてるのはあたしだけだったから、風雅にも首にかけててほしくて」

「そういえばそうだったか」


 柴犬の写真が入ったペンダントを結乃に贈ったことを思い出した。

 そして、以前結乃に「あなたは緑のイメージ」と言われたことも。


「ありがとう、結乃……」

「なかなかやる?」

「なかなかやるね」


 俺は紐を首に回して、早速かけてみた。


「どうだ?」

「わ、風雅のイメージにぴったり! よかったぁ」


 結乃がホッとした顔になる。

 それから自分の首にかけていたペンダントを引き出す。


「これでおそろいね」

「かなりつきあってる雰囲気出てきたな」

「もう、今さらそれはないでしょ」

「でも、アイテムをそろえるってのは意外にやってなかったよな」

「そろえると学校でバレちゃうから。今は気にする必要ないし、そろそろいいと思ったの」

「タイミングとしてはばっちりだ。みんな気づくかな」

「気づかれても、もう怖くないわ」

「結乃の口からその言葉が聞けて嬉しいぞ」


 俺はリングをつまんで、結乃の方に伸ばした。

 結乃も、写真が入っているロケットを出してきた。


 こつん、と二つが触れ合う。


「この贈り物、一生大切にするよ」

「あたしも。いつまでも持ってるわ」


 俺たちは顔を見合わせる。自然と微笑みがこぼれた。


 そうしている間にも、夜は深まっていく。

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