学校一の清楚美少女……の友達がとってもかわいい。

雨地草太郎

第1部

1話 清楚な学級委員長とツリ目な女子

 ゴールデンウィーク明け。

 俺は高校二年生になってから五日目の学校に向かっていた。


 今年の春はやけにあったかくていい天気が続いている。おかげでついつい散歩したくなるので困ってしまう。……学校? 散歩が先だ。


「よう風雅ふうが、久しぶりじゃねえか」

「石山か。元気そうだな」

「のんきかよ。早くも出席日数危なくないか?」

「これから出れば問題ないさ」


 数少ない友人の石山賢介が俺の肩に腕を回して、最近学校であったことをぶつぶつ話している。


 俺の通う若里わかさと高校が見えてきた。

 長野市のやや南に位置する普通の公立校である。

 校舎は三階建て。白く陽光を反射する新しい壁がまぶしい。


 校門を抜けて昇降口へ向かう。

 ザラザラしたアスファルトの感覚が、俺はけっこう好きだ。


「あ、お嬢様が来たぞ」

「お嬢様?」


 振り返ると、校門脇に黒塗りの高級車が止まっていた。出てきたのは、若里高校の制服――紺のブレザーに赤いリボン、黒とグレーのチェック柄スカートを穿いた女子生徒であった。


 黒髪ロングで赤いカチューシャを挿している。制服を着崩している様子もないし、運転手に小さく手を振る仕草も様になっている。清楚だ。あざといまでに清楚である。


「誰だったかな、あの女子」

「おいおい、同じクラスじゃねえか」

「え」

「冗談で言ったんじゃねえのかよ!? 星崎ほしざき莉緒りおさん。うちの高校で一番の美人って評判だろ?」

「知らなかった……」

「まあ、お前は学校来ないからな。ぶっちゃけ、去年の出席日数ってアウトだったんじゃないのか? テストの成績と授業態度で進級させてもらった感じだろ?」

「悪いか?」

「マジなのかよ……。でも、学校の情報くらいは集めておけ。何かあった時に困るぞ」

「別に、困ることなんてないさ」

「どうだかねえ」


 俺と石山がしゃべっていると、星崎が歩いてきた。足音がしない。なんだよそれ。洗練の極みか?


「あっ、道原みちはら君!」


 星崎は俺の顔を見た瞬間、ぱあっと笑顔になった。顔が小さくてまつげが長くて唇ふっくら。「アイドルです」と言われても違和感がない。


「えーっと、おはよう?」

「おはよう道原君! やっと学校に来てくれて嬉しいな。早退しないで最後まで教室にいてね!」


 それだけ言うと、星崎は靴を履き替えて校舎に入っていった。廊下の方から、

「星崎さんおはよう!」

「星崎先輩お疲れさまです!」

 といった声が聞こえてくる。人気者なんだな。


「いつ見ても美人だよなあ、星崎さん。彼氏いるのか気になるわ」

「うーむ、俺は隙がなさすぎて近づきにくさを感じたんだが」

「マジ? 風来坊の感性って謎だな」

「偏見やめろ。それよりさっきの言葉はどういう意味だ?」

「そりゃお前――」


「そんなこともわからないの?」


 石山がしゃべりかけた瞬間、圧の強い女子の声が割り込んできた。


 いつの間にか、昇降口に新たな女子生徒が現れていた。ちょっと赤っぽいセミロングの髪。前髪にピンを二つつけている。身長は星崎よりいくらか低い。


 そして――ツリ目。


 衝撃であった。

 目と目が合った瞬間、俺の体温は急激に上昇していた。

 視線をそらせない。

 この女子の圧倒的な眼力!

 この感情はなんだ。

 俺は魅力を感じているというのか?

 見るからに性格きつそうな女子に対して?

 馬鹿な!

 ありえない!

 そんなわけが――


「莉緒は学級委員長なの」


 俺の胸の内に気づくことなく、女子生徒は言った。


「学級委員長は俺が登校すると喜ぶのか?」

「そんなわけないじゃない!」

「じゃあなに」

「学級委員長は各授業の先生に欠席者の報告をしなきゃいけないの。あなたが休んでばっかりだから余計な労力使わされてるの!」

「あー……」


 理解した。

 そしてこの言い方から察するに星崎とは相当仲が良いと見える。


「まあ、その、悪かったよ。できるだけ休まないように努力する」

「当たり前でしょ! 学生なんだから!」


 ふんっ、とそっぽを向いて、女子生徒は行ってしまった。


「…………」


 俺はしばらくその場を動けなかった。


「豪快に怒られたねえ、風雅くーん」

「石山」

「ん、どしたの?」

「あの女子の名前を教えてくれないか」

「同じクラスだぞ」

「わからないんだよ」

「ほらみろやっぱ困ること起きてるじゃん」

「わかった反省する! 反省だけするからあの女子の名前を!」


鏑木かぶらぎ結乃ゆいのさん。星崎さんの友達だから知ってる人も多いぜ?」


「鏑木……結乃……」

「どうしたんだよ、息荒いぞ」

「石山」

「今度はなに」


 俺は親友の顔を見つめて、言った。


「一目惚れ、したかもしれない」

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