ステラ
儀式に姿を見せなかったガーラヘル王は、神殿の別室に居たようだ。
運悪く遭遇してしまったステラは逃げたいのをこらえ、さっと彼の全体を観察する。
相変わらず公表されている年齢よりもずっと若く、浮世離れした美貌の持ち主で、到底娘が二人居るようには見えない。
このまま突っ立っているわけにもいかず、仕方がなしにふにゃふにゃのお辞儀をする。
「ご、ご機嫌ようございます。ガーラヘル王、、、様」
「こんにちは。…………ジェレミー・マクスウェルさん。いつの間にか礼の仕方を変えたようですね」
「間違えたやり方だったですか?」
「女性のお辞儀としてはおおよそ合っています。しかし、男性がそのようにするのは初めて見ました」
「うわわ……。そうだった」
今ステラはジェレミーの肉体を動かしているのに、うっかり女性的なお辞儀をしてしまった。さそかしガーラヘル王の目には
ガーラヘル王は動揺しまくるステラに目を細め、長い指で祭壇の部屋を指さす。
「?」
「この年寄りと、少しあちらでお話しませんか?」
変な声が出そうになった。
義兄を王室主催の儀式に呼んだのは、このガーラヘル王だ。
だからおそらく、ガーラヘル王は祭壇の部屋でジェレミーの身体を乗っ取ろうとしているのだと思われる。
先にステラがジェレミーの身体に入っているため、目の前の人物の目論見通りにことは運ばないはずだ。
しかしながら、相手はガーラヘル王。用心するにこしたことはない。
「えーと……。私、じゃなくて僕は儀式に参加して、臣民として貴方からの命に従ったはずなんです。儀式は完了したっぽかったので帰ろうと思ってたですよ。これ以上付き合うのはちょっと嫌なんです」
「真の儀式はこれから始めるのですよ。貴方はそれにも出席しなければなりません」
「なぬっ!?」
「さぁ、私と共に……」
そう言うがいなや、ガーラヘル王はむんずとステラの腕を掴む。
その力はなかなかに強く、ステラの元々の身体であったなら、泣くほど痛かっただろう。
ジェレミーの身体の頑強さに改めて感心するけれど、ノンビリと構えてもいられない。
ガーラヘル王が引っ張ると、なぜだか足にローラーが付いているのかと思うくらいに滑らかに移動し、抵抗一つ出来ないまま祭壇の部屋に連れて行かれる。
「滑る、滑るですー!」
中には数人の神官達が残っていて、ステラの大声に驚いたのかギョッとしたような表情で振り返る。しかしガーラヘル王と一緒だと分かると胸に手を当て、敬意を表した。
「――ご苦労様。今から私がここを使うから、貴方達は出て行っていただけますか」
「陛下。お言葉ではありますが、その者はガーラヘル王国一の魔法剣士。私どもが見張っていたほうが良いように思われますが」
「必要ありません。二度まで言わせないでいただきたいものです」
「も、申し訳もございませぬ……」
神官達はガーラヘル王に
室内に誰も居なくなってから、ステラは部屋の中心部まで引っ張って行かれる。
なすがままに滑る足に腹が立ってきて、ステラの声は自然と荒くなる。
「ぐぬぬ~~! 何で足の踏ん張りがきかないですか。身体も動かないし、奇妙なんです!」
「ジェレミー・マクスウェルの肉体が、すでに私の支配下にあるからです。マクスウェル家は元々、影で邪神に傾倒する家系でした。だから試す目的もありましたが、私の力にかかれば邪神の近くに居る人間であっても、属性の反転はたやすいことでした」
「……それって、ジェレミーさんの身体を乗っ取る目的があるから、やったですよね?」
「その通りですよ」
「おかしいんです。貴方には今の身体があるのに……。欲張りなんです!」
「ヒトの身体には限界があるんです。長年大量のエーテルを体内に留めおき続けると……、ほら。ご覧なさい」
ガーラヘル王が上位を左右に開くと、腹から胸にかけて金色の大きな亀裂が走っていた。一つだけでなく、無数に走るそれらは、王の身体を割れたガラスか何かのように見せる。
「ここだけではありません。私の身体のいたる箇所がひび割れています。このままでは、ヒトの形を保っておけません」
「だからって、ジェレミーさんを選ばなくたっていいと思うです。ヒトの身が必要なら、別の方法を探すべきじゃないですか?」
「貴方のように転生をするのでは、リスクが高いのですよ。神としての記憶、または力を失っては、不都合ですから」
「うーん……。ふぁぁっ!」
何気なく話していたが、いつの間にかガーラヘル王はジェレミーとの会話ではなく、ステラとの会話に切り替えていた。
気まずい気分でガーラヘル王の目を見ると、彼は特に
「ステラ、貴女がこの世に生を受けたと知った時、以前貴方と星を眺めたのを思い出しました。
「ガーラヘル王。……私にはその意味が、痛烈な嫌味みたいに思えるです」
「ふふ。少し、転生前に近づいてきましたか?」
目の前の男の表情は、極めて読みづらい。
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