付き人の身に起きたこと
エルシィの付き人は、昨日ステラとの電話中に国教徒の過激派に襲撃され、今までこの神殿の地下に閉じ込められていたのだそうだ。
しかし、本日の儀式で見張りの人数が少なくなったため、逃げ出す機会を得たとのこと。
「――本当に感謝いたします。ここで力尽きてしまっていたなら、神殿の方々に発見され、再び地下に連れ戻されてしまったでしょう」
「あの……。そもそもどうして付き人さんは閉じ込められていたですか?」
「私もハッキリしたことは知らされておりません。ですが想像するに、私の手でエルシィ様に自由を与えてしまっては、都合が悪いと考える方がいらっしゃったのかと」
「うーん。やっぱりガーラヘル王がやらせたのかな?」
「…………私のような立場の者が密告染みたことをすべきではないのですが、私も貴方と同じ考えです」
「付き人さんは酷い目にあったですから、今だけは許されるですよ」
「そうなのでしょうか」
少年は自信なさげな表情をつくるが、しっかりした口調で彼自身の意思を話す。
「私はこれから王城に向かい、エルシィ様と妃殿下にお会いしようと考えております」
「!」
「私程度の実力では、スンナリとはいかないかもしれません。しかし、エルシィ様がなさろうとしていた事を、実行させてあげたいのです」
「付き人さん……。私も行きたいですが、今ちょうど守ってる人間がいるですよ。だから……」
「その方を優先してください。私はエルシィ様達を優先いたしますので」
直ぐにでも走り出したい様子の付き人の気持ちをくみ取り、ステラは深く頷く。
「だったら、急いだ方が良さそうなんです。無事を祈ってるです」
「はいっ! ステラ様も、どうか無理をなさらぬよう」
現在ステラはジェレミーの身体の中に入っている状態だが、それでも少年はステラだと認める気になってくれたらしい。
「無理はしなきゃならない感じです。……お姉ちゃんとお母さんをお願いするです」
「信頼していただき、光栄に思います。ではっ!」
丁寧な礼をしてから、少年は走り去る。
ステラは回廊に信徒達が現れたら食い止めるため、注意深く周囲を見回す。
3分ほどそうして過ごしていると、祭壇の部屋が異様に騒がしくなった。
「見よ、この鏡の内側からあふれ出す神聖なる光を!! これこそが善神降臨のしるしであるぞ!!」
「「「おおおおおおおおお!!」」」
何が起こっているのか気になり、室内全体が見える位置に移動する。
すると、祭壇の前に立つ老人――
その円盤は不自然に発光し、信徒達はその現象を見て、神が降臨したと考えているようだ。
あまりにも違和感のある状況に、ステラは混乱する。
(ガーラヘル王が善神のはずじゃ? なのに、何であんなピカピカな鏡に神の姿を見てるんだろ? へんなの……)
「実に久方ぶりである。こうして我ら信徒の前に降りたってくださるのは……! 今年は善神の加護により、国政が全てつつがなくとりおこなわれるであろう!」
冷え切ったステラの心とは裏腹に、祭壇の前に居る者達は熱狂し続ける。
「あんな鏡、いくらでも細工出来るんじゃないかな?」
本格的な宗教行事を見るのは初めてではあるが、あんなインチキ染みた演出があるのかと驚く。ある程度洗脳状態じゃないとまともに受け止められなそうだ。
(変なの……。っていうか、結局ジェレミーさんが呼ばれた意味はなんだったんだろ?)
神官達がジェレミーの姿をしたステラに注目することはなかったし、折角納品した”黎明の香”は一切使用されずに飾り物になっている。
もしかすると、ジェレミーが善神にのっとられるのは行き過ぎた考えだったのだろうか?
落ち着かない気分のまま考え事をしているうちに、儀式は終了となり、室内に居た者達がゾロゾロと回廊に出てくる。
(え、もう終わり!? 付き人さんが回廊を抜けてから、結構たってるけど、大丈夫かな?)
彼をフォローするために王城へ向かいたいけれど、ジェレミーの姿のままこの場を離れていいのかどうかは微妙なところだ。
(誰も近寄ってくることもないし……。まぁいいか、行っちゃおう!)
ステラはきびすを返し、回廊を走り出す。
しかしちょうど別室から出てきた人間とぶつかりそうになって、慌てて足を止める。
「うわわ! すいませ……んん!? 貴方は!!」
姿を現したのはガーラヘル王その人だった。
彼は穏やかな表情のまま、ステラを見上げ、微笑んだ。
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