姉との下校にて(SIDE ステラ)
王城に”
エルシィも本日は登校しており、長時間同じ教室に居た。しかしながらステラと目が合いそうになると、彼女はサッと変な方向を向いてしまい、なんだかとても気まずかった……。
もしかしたらエルシィと新たな関係を築けるかもしれないと思っていたけれど、その考えは王族に対して持つべきじゃかったんだろう。
全講義を終えてから、ステラはノロノロと校庭に出る。
すると、後方からエルシィの声が聞こえてきた。
「ステラさん! 待ってくださいませ!」
「わわっ! どうしたですか。エルシィさん」
もう彼女には声をかけてもらうことも無くなるかもしれないと覚悟していただけに、かなり驚いた。ポカーンと口を開けたまま彼女が追いつくのを待つ。
エルシィの後ろからは付き人も来ていて、エルシィが立ち止まるよりも早く、ステラに対して丁寧なお辞儀をする。
「下校するのでしたら、……ご一緒しませんか?」
「え、でも」
「昨日のこと、貴女とちゃんと話さねばならないと思いましたの」
「わ、分かったです!」
「では、あちらの魔導車に……」
「1分だけ待ってほしいです。エマさんを呼ぶです」
「あら」
校門に駆けていくと、ちょうど死角になっている場所に小さな少女――エマが居た。ステラの方を向くやいなや、パッと表情を明るくさせた彼女に、ステラは手招きする。
「今日はエルシィさんの魔導車に乗せてもらうです。エマさんも一緒に来てほしいです」
「うん。持つ物ない?」
「自分で持てるから大丈夫なんです!」
いつものお決まりな会話をしながら、二人でエルシィが待つ魔導車に行く。
ドアを開けてくれるエルシィの付き人に礼をいいつつ、魔導車に乗り込むと、隣に座るエルシィがペコリと頭を下げた。
「ごめんなさいっ!」
「ええっ!」
どうしてエルシィが謝るのか分からず、ステラは慌てる。
ビクビクと彼女の肩に手をかけて、小声で「顔を上げてください」と言うのが精一杯だ。
「なんで謝るですか? エルシィさんは何も悪いことしてないです」
「いいえ。してしまったわ。お母様に、貴女が妹だと告げられた時、自分の感情を優先して、貴女から逃げてしまったもの。今日も……貴女の目をしっかりと見れなかったのです」
「急に私みたいな変なのが妹だと知らされたら、誰だって動揺しちゃうと思うです」
「『変なのが妹』だなんて、そんなこと冗談でも言わないでいただきたいですわ! 私は元々友人である貴女を誇りに思ってました。それは、妹だと知った今も変わることなどありません」
「え……じゃあ、なんで逃げたったですか?」
「それは……」
「それは?」
「永遠に教えることなど出来ませんわ!!」
「う、うん」
エルシィは自分の行動を恥じたのか、手袋のはまった右手で口を塞ぐ。
それでも話し続けるので、彼女の声は自然とくぐもった。
「……友人から妹だと認識が変わるまで、時間をいただきたいのです。それが、1週間かかるか、一年かかるか、それとももっとなのか。全く見当がつきません。私には切り替えが難しいみたいで……」
「も、勿論待つですよ!」
”想い”が何なのかは分からない。
だけども、少しでも希望があるなら、エルシィの心情変化を待ち続けたい。
ジェレミーやアジ・ダハーカ、ノジさん。そして最近はエマやロカ。だんだん家族が増えてきたけれど、何となく血のつながりに憧れていた。
だから最近は実の母や姉など、様々な関係性を知ることが出来、地に足がつくような気分になっている。
「……貴女は王室の公式記録では亡くなったことにされていますの。それが何故なのか、現在私の方でも調べています。全てが明らかになり、貴女との血縁関係の証明書が整いましたなら、貴女を王城に迎えることになると思いますわ」
「え!? そ、それは。うーん……」
「王族の血を引いていらっしゃるのに、余所の家で暮らさせておくことなど出来ません」
「ええと……。じ、自分にも選択権がほしいというか、なんというか」
王城で暮らすかどうかなんて、今まで考えていなかったため、何一つイメージ出来ない。それに、義兄や実の父、国教徒などの件もある。血の繋がった母に多少甘えてみたいとか、姉と一緒の時間がほしいと思っても、安易な返事は出来ない。
「たしかにそれは、当然ですわね! ではマクスウェル邸に送らせていただきますわね。向かってくださ――」
「あ!」
エルシィが運転手に向かって声をかけるのを、ステラは遮る。
「どういたしましたの?」
「あの……。出来れば、西区の駅前を通ってからウチに行ってほしいです。えっと、友人に留学中に買ったお土産を渡したくて」
「お優しいですわね。では寄り道してから、マクスウェル邸に向かいましょう」
ステラは西区にある駅の売店に向かおうとしている。
そこでバイトをしているフランチェスカにお土産を渡しがてら、様子をみたいと思っている。
最近は売店までのアイテムの運搬をアジ・ダハーカやエマ、そしてロカに任せているので、こうして理由を付けないと、フランチェスカとはなかなか会えないのだ。
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