希望が失われると……?
フワフワした気分でエルシィと会話していると、あっという間に西区の駅前に到着していた。この地区にはヴァンパイアが多く住むが、本日は以前と比べて様子が少しおかしい。
「怠そうな人が多すぎな気がするです」
「ええ。瞳の色から判断するにヴァンパイアの方でしょうか? 日中の光に弱っていらっしゃるのかしら?」
ステラとエルシィが首を傾げていると、エルシィの付き人が話に加わった。
「そういえば、学校でも暗い雰囲気の方々を多くみた気がします。いつもはまともな方々でも、やる気をうかがえなかったり……。どうしたのでしょうか?」
「ふむぅ……」
学校に居る間、ステラはずっとエルシィの事ばかり考えていたので、殆ど周りを見ていなかった。記憶を辿ってみると、たしかにレイチェルも変な感じだったかもしれない。
暗い面持ちで窓の外を眺め、いつも明るい彼女にしては珍しく、ため息をついていた。
違和感に気づいた時点で話しかけ、彼女の悩みを聞いてあげるべきだっただろう。
ステラは自分の不甲斐なさに呆れ、ガックリと肩を落とす。
今から会おうとしている友人――フランチェスカは大丈夫なんだろうか?
心配になってきたステラは、魔導車から出て、駆け足で売店に向かう。
フランチェスカは可愛らしいドレス姿で店番をしていた。
頭にのっかった二つの
その様子が先ほどのレイチェルの様子と重なってみえて、杞憂が現実になったような感覚になる。
「フランチェスカさん!」
「あら? ステラじゃない」
こちらを向いたフランチェスカの目は輝きを失ってしまっているように感じられる。
しかしステラと目が合うと、口角が上がり、気遣いを見せてくれた。
「今夜は寒波が来るのに、こんな時間にふらついてて大丈夫? おまえ寒さに弱いじゃないの」
「このくらいなら大丈夫なんです。他の国に留学に行っていたので、フランチェスカさんにお土産を渡したくて来たんです」
「有り難う。気が利くじゃない」
フランチェスカに小包を渡すと、彼女は嬉しそうに笑う。
さっきの無気力な様子が見間違えだったならいいけれど、やっぱり友人としては心配なので、聞いてみる。
「あの……。元気ないように見えたですが、何かあったですか?」
「特に何もないわ。昨日から少し憂鬱だっただけよ。このまま大人になっても、夢一つ叶わずに老人になるかもしれないって思って」
「えぇ! 随分とネガティブになってるんです!」
何と声をかけたものかと考えこんでいると、エルシィがステラの隣に並び、少し踏み込んだ質問をフランチェスカに投げかけた。
「フランチェスカさん、ごきげんよう」
「久しぶりね」
「おかしいのは貴女だけではないようでしたわ。道行くヴァンパイア達にも覇気がないように見受けられましたの」
「確かに今日は様子が変なヴァンパイア達が多いきはする。いつもよりも売店へ来る客が少ないけれど、来てくれた人は必ず絶望的な事を言って行くの。迷惑ったらないわ」
「でも、エルシィさんの付き人さんの話では、ヴァンパイアさん達以外にも無気力になっている人が多いでしたね? なんでなんだろ??」
偶然複数の人間が憂鬱な気分になっているのかもしれないけれど、いつもは元気な人や淡泊な人までそのような状態なのは何だかおかしい。
釈然とした気分になりつつも、世間話をし、西区駅前の売店を後にした。
マクスウェル邸まで送ってもらう途中、ステラとエルシィの話題は車内では学校や西区での無気力人間の多さの件になった。
「――たまたま重なったにしては、人数が多い気がするですね」
「えぇ。途中で買い物に来たヴァンパイアさんも変な態度だったですわ」
「とっても落ち込んでる感じで、可哀想だったです……」
そこでエルシィは一度黙り込み、心を決めたのか、慎重な口ぶりで妙に気になることを話しだした。
「ステラさんには、
「”
「そうですわ。昨晩偶然耳にしたのです。ガーラヘル国王――ステラさんの実の父になるのですが、あの方が霊廟で最高神官”とエルピス”の効果について話しておりまして……。機能しない状態になっているようでしたので、少しだけ不安になったのですわ」
「その話。詳しく聞かせてほしいんです」
昨日ステラは霊廟に連れて行ってもらった。
これもまた奇妙な偶然だが、エルシィの話を真剣に聞きたくなるには充分だった。
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