残虐な意思
ステラの魔法によって、アジ・ダハーカの姿は大きく変化した。
鱗は闇夜に溶け込む色合いで、巨大な翼に、頭部が3つに分かれている。
国立魔法女学院の敷地を覆う程に大きな身体は、紫煙とプラズマに覆われ、闇夜に溶ける事なく、くっきりと存在が識別できる。
その異形の姿を目にしたスカル・ゴブレッドの面々は、取り繕うのも忘れた様な反応をみせた。
ある者はガクガクと震え、ある者はヒステリックに叫び、そしてある者は魅入られたかのように、目を見開いたまま微動だにしない。
そんな中で、ステラに話しかける者も居た。
「ス、ステラ、マクスウェル……さん」
「ん? イブリンさん無事だったですか」
「あの化け物は……何……?」
「私の友達のアジさんですっ」
「アジ? アジ…………ダハーカ!?」
「そうです!」
「ヒ……。こんな、こんなバケモノと友達だなんて」
イブリンはステラに対しても恐怖を感じたのか、必死な形相で距離を取ろうとする。
自分に対してドン引きしているイブリンに、ステラはムッとし、彼女が離れて行った分だけ近づく。
「アジさんの真の姿を見ても嬉しくないですか? あんなに召喚したがってたから、イブリンさんも巨大ドラゴンに抵抗ない人だと思ってたです」
「イメージと違いすぎますっ。あのバケモノをどうにかして下さい! 早く消し去ってよ!」
「むむ……。貴女が望んだ状況と同じようなものなのに……」
膨れっ面で、再び相棒を見てみると、彼は明後日の方を向いていた。
「アジさん?」
「ディザーテッド・ストリートは既にダンジョンとしての機能を失ったのだな」
「アジさんがダンジョン核を使っちゃったから、仕方がないです」
「うむ。これでズルワーン様の頼みのウチの1つを叶えたことにもなるのだから、何の問題もあるまい」
「うんうん」
「しかし、ちとマズイな」
「マズイって、アジさんどうかしたですか?」
「何やら精神状態がおかしなことになっているかもしれん」
「え……」
よく見ると彼の首から生えている3つの頭部のうち、1つに亀裂が入っていた。緋色の光が首元から頭部にまで何度も走り、1つ頭になんらかの刺激が加わっているのが分かる。
アジ・ダハーカがもう一度翼をはばたかせれば、一対の翼のそれぞれに魔法陣のようなモノが出現し、アジ・ダハーカはやや上ずったような声色で言葉を発する。
「――”苦痛”、”苦悩”、そして”死”……。三つに分かたれし自我が、混濁としておる。それぞれが無意識下で術を紡ぎ、儂には止めるすべもない」
「や、やべー感じするです……」
ステラの懸念は現実のものとなった。
アジ・ダハーカの翼から何らかの魔法が放たれたのだ。
直撃したのはスカル・ゴブレッドの面々だ。彼女達の足元がブクブクと泡立ち、無数の手が生えてきた。
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
「嫌だ! 離せ!!!」
「気持ち悪い! 掴まれてる!」
祭壇の周りは逃れようとする少女と、うごめく手によって、地獄絵図と化している。しかも、おかしなことに彼女達はステラには見えない何かをも見ているようなのだ。
「お前は死んだはずだ! 近寄るな!」
「私を連れてく!?」
「許して! 騙すつもりはなかったの!!」
唖然としていたステラだったが、相棒の笑い声によって我に返る。
「ア、アジさん!?」
「こ奴等には最も危害を加えた者によって、死へと追いやられるのだ! 地中へと沈み込み、そしてこの地を
「げげっ! 一線超えようとしてるですか!? だめなんです! アジさんが殺人事件をおこしたら、私がこの国の法で裁かれちゃうじゃないですか! よそ者の犯罪には厳しい国っぽいんですよ!」
「たとえ国を相手にしたとしてもお主を殺せる人間など、この世に居るはずがない。それに、一度刑務所暮らしを体験してもよいだろう」
「良くねーです!! ガーラヘルに帰って美味しいご飯を食べたいです!」
良く分からないが、相棒の性格が変わってしまっている。
ステラは困惑しつつも、腰のホルダーから高純度ナスクーマ大聖水を取り出し、自分の頭からたっぷりとかけた。凍えるような寒さの中ではなかなかの苦行だが、ここをおさめるためには仕方がない。
聖水の効果は直ぐにあらわれた。女学院生、アジ・ダハーカ、そして彼が働きかけた土。あらゆるモノから急激にエーテルが集まり、ステラの身体のエーテル量が破裂寸前なほどに高まる。
「うぐぅ……。アジさんのエーテルはやっぱり重いんです……」
しかし、無茶をやったおかげで、少女たちを苦しめていた無数の手は消え失せ、大地も
「こ奴等はお主の名も、儂の名も己が欲望の為に使っておった。皆殺しがちょうどいいのだがな」
「こんな寒い夜は、温いくらいの対応でちょうどいいですよ。はふぅ……」
ステラはため息をつきつつ、再び亜空間から術式を取り出す。
「次は何をしようというのだ?」
「さっきの魔法をベースに、一つ魔法を創れないか試してみるです」
相棒が元の姿に近付いたのは喜ばしいことではあるが、若干残虐性が増すようだ。それに、今の世の中ではこの姿で過ごさせるのは厳しいものがあるだろう。
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