黒い石ころ
ステラは亜空間から取り出した術式を真剣な眼差しで見つめる。
前世の自分が創っただけあって、見れば見るほど術式に描かれてある内容が頭の中でクリアになり、どこをどう弄れば望む様な効果生まれるのかが手に取るように分かる。
(肉体の細胞内からエーテルを抜き出して、そのエーテルの行き場を……新たな結晶にしちゃって、それでえ~と……そうだっ!)
ステラの思考と連動するようにして空に浮かぶ魔法陣は変化し、さほど時間もかからずに完成した。
「出来た! よ~し! アジさん、元に戻っちゃえです! 【邪竜強化無効】!」
出来たての魔法を発動させると、相棒の身体はボフンッと間の抜けた音と共に爆発し、縮小していく。3つ生えていた頭部も2つ引っ込み、色も元に戻る。
再び愛らしいドラゴンの姿になると、彼の身体から黒い何かが落ち、ステラの足元に転がった。
「これって……」
拾い上げ、祭壇の床に置かれたランタンの光に
ステラの親指程のサイズの平べったい石なのだが、良く観察してみると、中心部に向かって紫色の粒子が渦を巻いているようだ。
相棒の身体のエーテルを結晶化させる内容を魔法に仕込みはしたが、出来上がった物が本当にそうなっているのかどうか、気になってしかたがない。
「調べてみよっと。【アナライズ】!」
分析魔法を使用してみると、石ころに関するデータが空中に表示される。
名称:邪竜アジ・ダハーカの濃縮エーテル
効能:アジ・ダハーカのエーテル源となる。
創造主及び邪竜以外の者が使用すると、高濃度のエーテルによりエーテル中毒を引き起こす。
効果時間:永続
初めて目にするデータに、ステラは「ふむふむ」と頷く。
効能的にアジ・ダハーカを再び強化可能な感じなので、あの魔法は成功したと考えて良さそうだ。
ニコニコしながら自分のポケットに石ころをしまう。
しかし、相棒にとっては不満に感じられたようで、恨みがましい目つきのままステラの元に戻って来た。
「ぐぬぬぬぬっ! お主、いくらなんでも儂のエーテルをそこまで抜きとらんでも良いのではないか??」
「仕方がないんです。だって、大きくなったアジさんが凶悪な事を言ってたですから」
「だとしても、加減というものがあるだろう!」
「アジさんが暴れ回ってしまったら、監督者責任を取らされて大変だと思うです」
「ではその濃縮エーテルは儂が持つとしよう。お主が持っていたなら、マジックアイテム作りの為の素材とするに違いない!」
「流石の私でもそこまで酷いことはしないです!」
「だとしても、お主の部屋のガラクタに混ざったら、見つけ出せなくなるだろう!」
「そんなのアジさんに言われたくなんかないんですよーだ!」
口喧嘩をしつつも、相棒が元通りの性格に戻っているのを感じる。
アジ・ダハーカに強くなってもらうのはステラにとってメリットではあるが、物心ついた時からこの人格と接しているため、変わってしまっては困る。
(この石はアジさんにとって大事なもの。アクセサリーにでもして、普段から身に付けておきたいな。ガーラヘル王国に帰ったら、加工出来そうな職人さんを探してみよう)
ステラが帰国後の予定を考えていると、ギョッとするような呟きが聞こえてきた。
「――邪神……アンラ・マンユ様……」
「えっ! な、何言ってるですか!」
「やっぱり、そうなのね……」
慌てて声のした方を向いてみると、ステラをここに連れて来てくれた少女――親睦会ではヘッセニアと組んでいた――がこちらを
彼女の表情にゾワゾワし、ステラは慎重に否定する。
「私はその……ナントカサンではないですよ。人違いをしています」
「嘘。貴方は私の呼びかけに当然のように反応を示したじゃない。自分の事だと思わなければ、ああはならないと思うわ」
「……冷静に考えてほしいです。神様がこんな何のとりえもない人間に転生すると思うですか? もっと素晴らしい何かになると思うです」
「転生したと言い切っているところがもう、答えなのよ」
「げげげ」
「……私の家は元々アンラ・マンユ様を信仰していたの。そこで言い伝えられていたのが、”ガーラヘル王国に転生するであろう”という内容。貴方がそうなんだとしか考えられない」
「ただの迷信です。貴女の信仰心を高めるために、そう信じ込ませられているんです」
「アジ・ダハーカ様を意のままに操れる者が神でなくして、一体なんだと言うのよ! ……ずっと、ずっと、お会いしたかった。貴方が望むのなら、貴方に危害を加えた者全てを消します!」
少女の言葉に呼応するように、スカル・ゴブレッドの面々が「そうだ」「そうだ」と声を上げる。いつのまにか彼女達はイブリンを囲んでいて、異様な目つきで見下ろしている。
「やめて……。邪神に信仰心を見せるために、私を殺す気ですか!?」
「これからこの女に罰を与える!」
「異端者に死を!」
「我々を欺いた女を許すな!」
次第にエスカレートする群衆に、ステラはドン引きしそうになるが、仕方が無しに止めに入る。
「やめるです! イブリンさん一人に責任を負わせようとすんなです!」
「アンラ・マンユ様、何故お止めになる!?」
「自分達がやったことを棚に上げるですか? 私の眼には全員が同罪に思えるです!」
「そのような事はけっしてっ!」
「もし邪神に敬意を持っているのなら、一生慈善活動をして、その罪を
ステラが一気に言い切ると、シーンと静まり返った。
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