時計との関係は??

 マイアに連れて来てもらったのは、時計塔の下階。

 上階まではらせん階段を上らねばならず、体力がないステラは少し憂鬱になる。


「が……がんばるです……」


 力無く拳を握りしめてみせると、横に居るレイチェルから手が伸びてきた。


「――あえ??」


 ひょいっと軽々と小脇に抱えられ、ステラの視点では床しか見えなくなる。


「ここで一仕事しなきゃならない子が、途中でへばってたら意味ないし、あたしが連れてってあげるって!」

「レイチェルさんが、めっちゃ優しいです! ありがとです~!」

「いいって、いいって! 水臭いな~」


 話の途中でレイチェルは走り出した。

 普段から走り込んでいるためか、脚力があり、一段飛ばしでグングンと駆け上がる。

 それでもステラをウッカリ落っことすこともなく、曲がった際に角にステラの頭をぶつけることもない。


 数分で時計機械室にたどり着き、レイチェルはステラを慎重に下ろしてくれた。


「どもですっ!」

「盾よりも軽いから、なんてことないよ!」


 レイチェルは今も盾を背負っているわけだから、盾の重さにステラの重さまで加わっている。だけどそれを突っ込むのは野暮と言うものだろうから、ステラはコクリと頷くにとどめる。


 自分の足でちゃんと立ってから部屋の中を見回してみると、室内は不思議なレイアウトをしていた。

 床の中央部には正方形の大穴が開いてあり、そのそばには歯車がたくさん付いた機材が置かれている。

 そして、四つの壁には巨大な文字盤がはめられていて、この部屋からは文字盤の目盛りや針がうっすらと透けて見える。

 

 ステラは「すご……」と感嘆の声をあげながら、中央付近の機材に近付く。


「この歯車まみれの物体が、時計塔の本体って感じなのかな?」


 この素朴な疑問には、ちょうど時計機械室に入って来た相棒が答えてくれた。


「そうであろうな。しっかりと手入れをされておるようだ」


 アジ・ダハーカが巨大な空洞を見に行ったのにならい、ステラも大穴から顔を出してみる。すると、随分下の方で、振り子が規則正しく揺れているのが確認出来た。

 その振り子の先に付いている球体に、細かい模様が描き込まれているように見えるのは気のせいだろうか?


(何が描かれてるのかな? メイリンさんの話だと、文字盤に術式が隠されているって話だったし、あの模様は関係ない?)


 関係ないとは思うが、確かめたくてたまらない。

 しかし大穴の中に飛び込んで確認しにいくなんて、平均以下の運動神経の持ち主に出来るはずもなく……、情けない顔で相棒の方を向く。


「アジさ~ん」

「ぬ、なんだその甘ったれた声は」

「あの振り子に何が描かれているのか見て来てほしいです」

「……他でもない、儂のためだ。行ってまいる」

「いってらっしゃいです!」


 アジ・ダハーカは大穴に入り、球体の少し上らへんで、その揺れる動きを観察する。レイチェルと二人で並んで彼の様子を見守ること、数十秒。相棒が戻ってくる。


「球体に描かれていたのは、神聖文字による簡易な術式であった」

「神聖文字! アジさんて読めるでしたっけ?」

「うむ。おおよそであるがな」

「内容について教えてほしいです!」

「――どうやら、この時計機械室と連動するような術が仕込まれているようだった。なんらかのギミックを解き明かしたのならば、隠されし物が出現する」

「ギミックかぁ……。部屋にコチャコチャした物が幾つもあるから、どれも怪しげに見えるです」

「探すしかあるまい」

「うんうん」


 近くにある歯車だらけの機材をまず観察してみる。

 歯車の一つ一つには油が塗られ、テラテラとしている。ゆっくりと動くそれらはごく普通に見えるし、それ以外も外側から見える部分は素人目にはおかしいのかどうなのか分からい。


(もしかして機材の内部が変なのかな? だったらすっごく嫌だなぁ)


 分解の魔法を使ったら、自力でそれを元の状態に戻す事は難しそうに思える。

 クリスかエマ、最悪メイリンを呼ぶしかなくなるだろう。

 どうしたものかと悩んでいる間に、マイアとケイシーが時計機械室に到着した。


「はぁ、はぁ……うぅ……。しんど~~~! メイリンちゃんのところで楽してた間に筋肉が衰えちゃってたよ~~」

「死ぬかと思った。寮の階段の方がずっとマシ」


 疲労困憊ひろうこんぱい状態の二人を見て、ステラは気まずさからペコリと頭を下げる。


「私だけ楽しちゃって、ごめんなさいなんです……」

「い~~んだよ~~。ステラちゃんはやる事があるんだからね~。目的を達成することだけ考えて~~」


 マイアはニコニコしているし、ケイシーの方は同調するかのように頷く。

 二人の期待に再び気合が入り、ステラはムニッと自分の頬をつまむ。


「頑張るでふっ」


 きっと、どこかにヒントがあるはずなのだ。

 

「――過去の私が創った術式から、メイリンさんは時間操作に関する部分を取り外しています。抜き取ったモノを……元に戻す為に……」


 独り言を口にしながら、4つの文字盤のうちの1つに歩み寄る。

 陽の光が差し込んでいる所為で、文字盤は全体的に白っぽい。表側にはクッキリと表示されている目盛りも針も、裏側のここからはボンヤリとしか確認できないが――、それ以外に書き込まれたモノが目に入る。


(これ、200年前に製造されたんだ)


 他の3つを確認してみると、それぞれ1カ月前、100年前、300年前に製造されたことが判明した。





 

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