秘密ミッション
メイリン・ナルルの発明品――ワイバーン・プロトタイプを撃破してしまったステラ達は、留学先である国立魔法女学院において、特殊なミッションを提示された。
それは、学生団体”スカル・ゴブレッドを潰すこと”であり、場合によってはこっちが悪人にされかねない。間違っても、これからその学校で学ぼうとする者達が抱えていい使命ではないだろう。
断る気満々な気分だが、社会的立場のあるメイリンが何故学生団体なんかを潰したがるのか? 理由が気になり、ステラは問いかける。
「そのスカル・ゴブレッドが、メイリンさんに何か悪いことでもしたですか??」
「悪いことも何も……、かなり許しがたい悪事を働いてるさ。奴ら、アンラ・マンユ神の名をかさに着て、学院全体を陰から牛耳っている。”生徒を生け贄にしたり”、”リンチしたり”やりたい放題らしい。おかげで、アンラ・マンユを信仰する者から、苦情が上がってくるんさ」
「え……」
メイリンの言葉の中に何度も出てきた”アンラ・マンユ”はステラにとって馴染み深い神だ。相棒によれば、ステラの前世――だから、他人事には思えず、ついつい内心の動揺が視線の揺れで表に出てしまう。
そんなステラの様子を、メイリンは妙に親しみをこめた目で見つめ、続きを話し出す。
「あたいも腹が立ってる……。だけど、生徒達の親の中には、アタイのパトロンになってくれている方も居てね。アタイが直接手を下したなら、今後にさわる。だから――」
「部外者である私たちが、ウッカリ”学生団体スカル・ゴブレッド”を潰してしまった……ってことにしたいわけですか」
「そういうことさ。ガーラヘルからの交換留学生は猛者揃いと聞くから、奴らにぶつけるのはちょうど良いだろう」
「特にオマエは……」と、またもや気になる事を口にしたメイリンは、バフッと自らの口を押さえてから、ユックリとストーブに近づき、アロマ・ストーンに水をかけた。
また一段と上がった室温に、だらだらと汗が出てきて、頭がまともに働かなくなる。
しかし、今ボンヤリとしてしまうわけにはいかない。
彼女の紅く染まったほっぺを見ながら、再び従兄からもらった調査レポートの内容を思い出す。
(えーと……、メイリンさんの主な研究は、アンラ・マンユの創造魔法の解明とかだったような?? それと、テミセ・ヤに移住してからは邪教の布教なんかもしてたのかな? エディさんは彼女の移動と、邪教の広がりの関連性を言ってた気がする)
なんだか妙に邪神に対する執着心が高いような気がするけれど、彼女は一体どういうつもりなんだろうか? 単純に金になるから、神の名を使っているのだとしたら、国立魔法女学院を牛耳る”スカル・ゴブレッド”と大して変わらない気もする。
(うーん……。結局私がどう考えるか、なのかな)
正直、メイリンから話を聞いた時は、自分の過去の名を使って暴力行為や不道徳的な行為をしている者に対して腹が立った。
ガーラヘル王国にはまだ多くの邪教徒が居て、差別されていたりする。
今は昔ほど過激なことはされてしないにしても、何かのきっかけで、再燃する可能性だってあるわけで……。
それを思えば、余所の国の学生達の勝手な判断で名に泥をかけられてしまうのは、防ぎたいところではある。
気がつけば、エマが不安そうな顔でステラを見ていた。
巫女である彼女は、過去からの記憶を引き継ぐ。もしかすると、似たようなことは星の数ほども起きたのかもしれない。
それでも今、何も言わないのは、メイリンからの提示に対してはステラの判断に任せたいってことなんだろう。
レイチェルも興味深そうな表情で黙っているだけなので、ステラは大きく息を吸い込んでから返答した。
「いまいち”スカル・ゴブレッドに対して、何をすべきなのか理解してないし、大した働きかけが出来ないかもです。でも……、まずはその団体の人たちと話してみたいって思います」
「そこから始めるのが、無難だろうさ。……やる気が出なさそうだから、良い情報をあげる」
「む? 何ですか?」
「スカル・ゴブレッドの連中の中には、アンラ・マンユ神の創造魔法の術式を保有している者もいるんさ。それを奪い取ってみるといい。膨大な力を得るも、富を得るも、オマエしだい」
「あぁ~~、テミセ・ヤって、コレクターな人が結構いるっぽいですもんね」
「そうさ。間違っても、研究が終わった術式をアタイが売っぱらった、なんて思わないでほしい」
「……」
その辺は、彼女が口にしなかったら考えもしなかっただろうが、ひとまずは黙っておいた。
メイリンの方も、自分の発言を後悔しているのか、サウナルームの右斜め辺りを見ながら、今後のことを伝える。
「オマエ達が学校に到着した後に、アタイの配下の者を送るさ。そいつを通じて、連絡を取り合おう」
「……ほい~」
これ以上、サウナで面倒な話をし続けていると、のぼせ上がりそうな感じなので、ステラはのこのこと出て行った。
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