怪獣大乱闘

 上級生達と一緒にデッキへ出ると、50mほど先の海面からたくさんの巨大な脚が出ていた。それらは上空に向かって伸ばされ、何かを掴もうとしているかのようだ。


 脚の主――クラーケンが何を標的としているのか気になり、灰色の雲をみてみると、ワイバーンがウジャウジャと舞っていた。

 これほど多くのワイバーンが、一カ所にたむろするとは、ただ事では無い。


 ステラの相棒アジ・ダハーカは、己と似たような外見のワイバーンに対し、他人事のような見解を話し始める。


「ふむ。クラーケンもワイバーン共も、おそらく海面に上がってきた魚群を狙って、相まみえてしまったようだの」

「お腹が減ってたら、戦いになるのかな……」

「そうなるのだろう」


 どうやら最悪なタイミングにこの海峡を通過してしまっているらしい。

 フェリーを操縦している人も、この状況を危険視したのか、海を進むスピードが上がっている。手すりに掴まっていないと、うっかり足を滑らせてしまいそうだ。


 しかし、他の乗客達は余裕なようで、ひとまずワイバーンを撃ち落とそうと攻撃を開始する。生徒会長をメインとする上級生はもちろん、装備の良い一般の乗客達もロングボウなどを構え、デッキの上はかなり物々しい雰囲気になっている。


 この状況にテンションが上がってきたのか、レイチェルが腕まくりをし、ステラにニッと笑いかける。


「早くもレベルアップのチャンスが到来しちゃったか! よし!! あたしらも参戦しよ~~!!」

「う、うんっ」


 この危機的状況をプラスに考えあたり、人間としての本質がステラとはかなり異なっているんだろう。

 アタフタとレイチェルの後を追っていると、遠方で何かがキラリと光った。


「へ?」


 そこそこ目が良いから何とか確認出来たのだが、飛行物体が分厚い雲を割るようにして降りた。それだけなら、別にどうでもよいけれど、マズイことに、猛スピードでこちらに接近してくる。

 近づきながら急降下し、海面スレスレを飛ぶ。

 

 通り過ぎざまに大量の水しぶきと、水蒸気をお見舞いされ、デッキに居た者達は全員ずぶ濡れになった。

 ステラ達も例外ではなく、冷たい水を頭からかぶる。


「んぎゃ!? つ、冷たいです!!」

「なんなの、あれー!?」


 濡れた衣服により、体温が奪われ、ステラはガクガクと震える。

 予想した以上に、テミセ・ヤへの海路は危険地帯だったらしい。

 ステラの肩から飛び上がることで、水しぶきを回避したアジ・ダハーカが頭上から声をかけてきた。


「あやつ……ワイバーンと良く似ておった。しかも、尻から火を噴いておったぞ」

「んう?? 尻から……火??」


 おかしな事を言うものである。

 そんな珍妙な生き物ならば、ちゃんと見てみたいところだが、海水が目に入った所為でショボショボになり、視界がかすんでいる。

 マフラーの乾いた部分でゴシゴシと目をこすってから、周囲を観察すれば、たしかに相棒の言葉通りだった。


 フェリーのわきを通り過ぎたナニカは、ワイバーンに近い姿形をし、後方から紫色のジェット噴射が出ている。科学的なパワーを推進力としているのは明白で、その辺に居るワイバーンよりも、何倍ものスピードで移動する。


 双眼鏡を目に当てていたクリスが、うわずった声を上げた。


「あいつ!! 噂のメカなワイバーンかもしんねー!! なんっっつー、モンを発明してんだよ!」


 さっき遊戯室で話していた、メイリン・ナルルなる人物の発明品という意味だろうか? 

 状況を観察するステラの前に、エマが立つ。


「エマさん!?」

「ステラ様、守る。」


 エマの繊細な歌により、ステラ達の周りにバリアが張られる。

 これで、あの恐ろしげなワイバーンからの攻撃も、クラーケンからの攻撃も、ある程度弾けるようになった。


(エマさんのお歌バリアの効果が切れる前に、モンスター達を倒さなきゃ!)


 ステラがどうしたものかと思案を巡らせている間にも、クラーケンVSメカ製ワイバーンは戦い続けている。

 クラーケンは海中から目を覗かせ、長い脚を振り回し、ワイバーンを掴もうとする。非メカ・ワイバーンはそれに撃墜げきついされ、ハエか何かのように呆気なく海に落ちるのだが、メカの方は無傷なまま。

 複雑にうごめく太い脚の間を巧みにすり抜け、口からの砲撃によって、一本ずつ黒焦げにする。


 辺りには、ゲソを網焼きにしたような良い匂いが立ちこめ、ステラの戦闘意欲はいやおうなく低下する……。


(うぅ……。考えに集中出来ない!)


 しかしながら上級生達には臭いの効果があまりないようで、ド派手な魔法がドンドン使われる。

 雑魚処理を優先することとしたのか、彼等のターゲットは非メカ・ワイバーンだ。


 それを見たステラは自分がやることを決めた。


(ひとまずゲソ……じゃなくて、クラーケンさんに頑張ってもらおう)


 使用する魔法は【暗黒】。スライムテストにおいては、スライムを分裂させるために使ったが、本来の効果はモンスターの凶暴化を促進するものだ。

 ステラがそれを行使すると、クラーケンの周りを大きな魔法陣が囲む。


「さぁ、クラーケンさん。邪魔な存在を倒しちゃえなんです!」


 漆黒のドームが透明になると、体を真っ赤に染めたクラーケンが現れた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る