王国の上流階級

 ロカは低木に隠れるようにして、公務員4名の様子を監視する。

 自分1人に対して、向こうは4人揃っている。慎重に動く必要があるだろう。

 こういう時、自分も精度が高い分析魔法を使えたならいいのだが、残念ながら習熟度しゅうじゅくどは半端なままだし、むやみに体内のエーテルを削るのは危険だ。


(向こうは私がここに居るのを気付く様子もないな。取りあえず、この隙にステラさん達から何かメッセージが来てないか見てみるか)


 ポケットの中から、ステラに渡された”魔導通信手帳”を取り出し、起動させる。すると、3件のメッセージが届いていた。

 一件目はステラで”目指しているエリアまでもうすぐです”とのこと、二件目はレイチェルで”商店街チームとエルシィ王女ファンクラブチームの2つを戦意喪失にさせたよ!”と書かれている。

 ステラのメッセージは直ぐに理解出来たものの、レイチェルの方は、他のチームに独特な名前を付けていたため、解読に少々時間を必要とした。


(制服姿の少女達のチームと、仕事着姿の女性達のチームのことを言っているのか?  

 その2つを離脱させたということか……。レイチェルさんという方は随分有能な女性なんだな。エマさんの方も、先ほどのことをちゃんと伝えてくれている……。自分も報告したいところだが、ここで声を出したら、流石に居場所がバレてしまいそうだ)


 この手帳からはガーラヘル王国の技術力の高さをうかがい知れるが、声を出さなければ文字として表示されない仕様のようで、やや使い辛さを感じてしまう。


 取りあえずもう一度崖の様子を見ると、少し目を離していた間に、工事用の足場の隣に昇降機リフトが取り付けられていた。

 あれでメイド達40人を引っ張り上げようとでもいうのだろうか??


(足場の組み立ての速さにも驚かされたが、昇降機の取り付けは1分もかかってなかった……。あの4人の中に、工事系のジョブの人間が紛れているということか。使いようによっては大金持ちになれそうなものだが)


 感心してばかりもいられない。

 ガーラヘル城を取り囲む障壁には穴が開けられ、閉じてしまわないように固定具が取り付けられているし、メイド達を運搬するためのリフトも出来てしまった。

 しかも、メイド達40名は川岸に連れて来られている。

 

「今からあたしが崖の一部を破壊するわ! 土砂で川の流れが緩やかになるはずだから、その間にあんた達は向こう岸に渡んなさい!!」


 黄色の安全ヘルメットを被った人物がメイド達に命ずると、アチラコチラから批難の声が上がる。


「冗談じゃない! 危険な行動はごめんだって言ったはず!」

「水の流れが緩やかになったって、川の中を歩いたら、靴もタイツも台無しになっちゃう!!」

「あんな粗末なリフトに吊るされて城内に入るですって!? 恋人に見られてしまったなら、恥ずかしいじゃない!」


 たしかに彼女達の主張はもっともだ。普段戦闘任務などに従事している者などにとっては可能であっても、穏やかな生活を送る者には嫌がらせでしかない。

 黄色のヘルメットの人物がどう出るのか、興味深く見守っていると、彼/彼女は被っていたヘルメットを投げ捨て、盛大にキレた。


「文句バッカリ言うんじゃないわよー!! あんた達に怪我させないように、あたし達がどんだけ配慮したと思ってんのよ! だいたい恋人の心配しているあんたね~、たまに水に濡れるのだって悪いことばっかりじゃないわ! その状態をラブラブなシチュエーションに繋げないなんて、勿体ないのよ!」


「は? 何言って……。それって本当なの??」

「当たり前でしょー!!」

「ちなみに、どうやって利用するのかしら??」

「簡単なことよ! まずはあんたが――」


 何がなんだか良く分からないが、メイドのうち一人は丸め込まれてしまったようで、ロカは焦り出す。


(あの公務員の方々は女性との交渉に長けているのだな。だが、メイド達が説得されてしまったら、後はドンドンと上に運ばれてしまう……。今妨害した方がいいな!)


 意を決し、背中に背負ったハルバートに手を掛ける。

 すると、予想もしなかったことが起こってしまった。

 少し離れた場所にある道路から魔導車が走行する音が聞こえたかと思ったら、何かがガーラヘル城に向かって放たれたのだ。

 しかも、は公務員達が開けた穴を潜り抜けるようにして、入り込んだため、ガーラヘル城の荘厳そうごんな外壁にダイレクトに当たってしまった。


(え!? 今投げ込まれた物体、爆発したのか?? 爆発物だとしたら、かなり危険な状況なんじゃないか??)


 公務員4人も動揺したようで、全員が乱入者の方を向いている。

 

「ま、まさかテロなんじゃないの~!?」

「クーデターかもしれんぞぉ!」

「おロイヤルな方々を守らなきゃよ!」

「アタシ達姫騎士団の出番!!」


「「「よしきたああぁぁぁぁぁ!!!!」」」


 彼等はメイド達が逃げ惑うのにもかまわず、野太い掛け声をあげ、それぞれの武器を構えた。

 ロカの方もジッとしていられず、取りあえず手帳に向かって状況を説明した。


「ステラさん。皆さん。侍女選出試験をやっている場合ではないかもしれません。ガーラヘル城に居る方々が危険です。公務員4名が戦うつもりのようですので、私も加わるとします!」





 

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