石像

 2人の神官は巨大な杖をクロスに合わせ、朗々ろうろうとなえる。


「「”善ある所に光差す。悪しき影を照らし、知恵ある神の威光いこうで邪教徒を焼き払いたまえ”」」


 声が合わさり、二人分のエーテルで杖が輝く。

 その様子はおごそかかですらあり、気をゆるめたなら、聞き入ってしまいそうなくらいに魅力的だ。


 彼女達が呪文をとなえ終えると、通りの両サイドで轟音ごうおんが鳴り響いた。

 ギョッとするロカの目の前に、ニョキニョキと石像が生える。

 一体だけではない。近距離から順に、どんどんと出現してゆき、全部で20体もの石像が立ち並ぶ。

 この石像の造形は、試験会場にあったものと同じ――”知恵ある神”を模したものだ。


「こ、これらは一体何なんですか!?」


 戦闘中に石像の建造を始めるとは思いもしなかったので、ロカはかなり狼狽した。ロカのそんな様子など、神官達にはおかまいなしなんだろう。

 次なる呪文を唱える。


「「”邪念・滅殺”」」


 二人から放たれた光線はエマのバリアに弾かれたように見えた。

 しかし、どういうわけか20名のメイドのうち、数名がバタバタと倒れてしまう。

 これはいったいどういう状況なのか?


 混乱するロカを気の毒に思ったのか、エマが説明を始める。


「いまのわざ。”知恵ある神”の信徒達が良く使う。精神的に未熟な者の気を失わせる効果」

「そ、そうだったんですね……。そのような効果なら、私がまだピンピンしているのが少し意外に思います」

「ロカは強い。間違いない」

「……」


 そんなはずはないけれど、仲間(と勝手に思っている)にそう言われると悪い気はしない。持てる力以上の事が出来そうな気さえしてくる。


 背中に背負ったハルバードを手に持ち、しっかりと構える。

 何が来ようとも受けて立つ。そんな気分だ。


「「”放出”」」


 神官2人が言うやいなや、”知恵ある神”の石像全てから無数のレーザーが放出された。街路樹、電柱、近くの建物などがことごとく焼かれ、一瞬のうちに半径10m程が焦土と化す。


 ロカは身体能力のみでそれらをかわしきり、ズンッと石像の頭の上に下り立つ。

 エマやメイド達を確認すれば、まだ持ちこたえている。エマのバリアにより、防げているのかもしれない。しかしながら、レーザーによる攻撃は継続していて、いつエマのバリアが破壊されるかわかったものじゃない。


(レーザーは石像の目から出ている。だから、合計で40本分……。エマさんのバリアは一定回数の攻撃で無効になるわけだから、その間に、こちらでなんとかしないと! メイドの方々まで危険にさらされるぞ)


 思い至ったらすぐに行動に移す。

 垂直に飛び上がり、体重の重みを利用して一気に落下する。ハルバードの槍部分を石像の頭部に突き刺すも、びくともしない。いったい何の材質で出来ているのか、


「くっ! 焼き切れば、いいんでしょ!! 【バーニングブレード】!!」


 超高温にまで温度操作したハルブレーカーの刃は、オレンジ色に変色している。

 それを大きく振り、石像の首を切り落とす。

 地面に落ちてもなおレーザーを放出する石像の首をさらに細かく切り裂き、次の石像に切りかかる。


「信仰している神の石像を武器にするだなんて、随分な蛮行ですよっっと!!」


 2体目、3体目、4体目と破壊すれば、当然の様に神官達に目を付けられる。

 エマに狙いを定めていていた石像の半分ほどがロカの方を向いた。

 ロカはそれらを余裕を持ってさけ、どんどんと石像を機能不全にしてゆく。


「こんな物くらいでっ、私を落とすことは出来ません!」


「「崩されたのであれば、補充すればいいだけのことです。――”善ある所に――”えっ……?」」


 先ほどと同様の呪文を唱え始めた神官達だったが、何故か途中で止まった。

 何が起きたのかと、ロカは石像の肩部分に立ち、様子を観察してみる。

 なんと、エマが小さな小瓶を持っていた。推測するに、それを神官に浴びせかけたということか。


「それ、もしかしてステラさんからいただいたアイテムですか??」

「これがあれば、エーテルに依存して戦う人を無力化出来る」


 彼女が使ったのは【異界の水】という名前のアイテムなのだろうか? 短時間の間、対象者のエーテルの流れを阻害するという性能だったはずなので、確かに今使うのに適していると言える。


 さっきから淡々としたエマの目が、今は生き生きとしている。

 きっと、彼女が敬愛しているステラのアイテムを使えて、嬉しいのだろう。


 摩訶不思議なアイテムを使われたからなのか、神官達は動揺している。


「今のは何っ!?」「私のエーテルが杖に宿りませんでした!」


 さっきまで合わさっていた声が、分裂している。

 それぞれの個性が声に宿り、しかもお互いに疑い合っている。


(あの人達、もしかしたらあまり信用しあってないのかもしれない)


 信仰でつながっているからこそ、つけ入る隙があるかもしれない。

 

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