芽生えた友情
パンチパーマの女性は、レイチェルが放った鉄球を腹で受け止めた。
すぐに転倒するわけではなく、めり込む球に押されつつ、ズズズ……と坂道を下る。
「ちぃ……。あたしとした事が、競り負けるとはね」
「おばちゃん、ただ者じゃないねっ! 魔導車5台分の重みを受け止めるなんてさ!」
「これくらいワケないさ!」
女性が再び闘志を見せたその時、ガーラヘル城の方から嫌な音が聞こえてきた。
それだけでなく、まとまった量の水も落ちて来る。
「え?」と空を見上げ、驚く。
ステラが作った氷柱が障壁の方から崩れ、ちょうどこの辺――女性の頭上らへんに落ちてきたのだ。
「うっわ! 危ない!!」
「な……?」
レイチェルが盾と
戦意が削がれたような表情で、受け止めてくれた。
そのおかげでレイチェルは女性もろとも路面を転がり、落下してきた氷柱を避けることが出来た。
「おばちゃん怪我ない!?」
レイチェルは下敷きにした女性の安否の確認を優先する。自分の手の平や膝小僧にすりむけたような痛みを感じてはいたが、自分は後回しだ。
彼女はうめき声を上げながら、返事をかえす。
「う゛ぅ……。なんとも無いとは、言えないね。肩が酷く痛む……」
彼女の肩に目をやれば、確かに妙な下がり方をしている。脱臼してしまったのかもしれない。
「ちょっと待ってて! 良い物持ってきてるから!」
レイチェルはポケットの中から、ポーションを取り出し、キャップを開ける。
これはステラが作ってくれたものなので、脱臼した箇所にかけたなら、治るはず。
パンチパーマの女性の肩にドバドバとかけると、みるみるうちに肩が元の位置まで戻り、ついでに彼女の腕についた傷までもが完治した。
これには女性も驚いたようで、しきりに瞬きをしている。
「これは……驚いたね。こんなに効き目の高いポーションがあるのかい」
「うん! あたしの友達――っていうか、チームのリーダーの子なんだけど。彼女が作った物なんだ。あの子には何時でもビックリさせられてばかりだよ!」
「この国の若いモンはおかしな奴ばかりだと思っていたが……。捨てたもんじゃないね」
「でしょ!」
「ああ。その優秀な子供が王女様の侍女になるのが、お国の為には一番かねぇ」
「んー? 良く分かんないけど、ステラは侍女の枠に収まる子じゃない気がする! アイテムを作るのが天職なんじゃないかな! でも、あの子と一緒に戦ってると楽しいから、今回はつい乗っかっちゃったんだよね! それよりも! アタシ達、まだ戦うべき!?」
自分はかすり傷程度だし、パンチパーマの女性の方は完治している。
まだ戦うというのであれば、受けて立つつもりだ。
レイチェルが盾と星球式鎚矛を拾い上げ、それらを構えてみせるも、女性の方は鼻で笑うばかり。
「命を助けてもらったんだ。ここは引いてやるよ」
「え? いいの??」
「ああ。アンタと話をしていたら、自分のやるべきことを思い出した。毎日キングスコートの人間の為に総菜を作り続けるのが、アタシの天職なんだってね。リタイアするよ」
「そっか~! 今度ステラと一緒におばちゃんのお店に行くからね!」
「ああ。ポーションのお礼に無料にしておく」
「やった~!」
大喜びするレイチェルを置いて、女性――商店街チームのリーダーは去って行った。彼女がリタイアするのなら、今この場に居ない3名もまた戦闘をやめるはずなので、ステラ達に余計な負担を与えずに済むだろう。
レイチェルは半端に残ったポーションを飲んでから、周囲の捜索を開始した。
先ほど戦ったファンクラブチームが、メイド達を残して行ったはずなのだ。
石垣の影や、林や、堀の中を覗き込みながら坂道を登って行くと、中腹ほどの所でメイド達を発見した。
彼女達はかなり不満気な表情をしており、人数も足りていない。2人減っているようだ。
理由を聞けば、虫が大量に飛んでいて、耐えられなかった者達がリタイアしたのだとか。
リタイアするかどうかは本人達の自由とされているので、仕方がないものの、もう少し我慢してほしかったと思わずにいられない。
不平不満を言うメイド達を連れて、事前に目を付けていた場所へと進んで行く。
その途中で、ミレーネのチームに追いつかれた。彼女達は何故か一人もメイドを連れて居らず、ずいぶんと疲れ果てていた。
レイチェルはボロボロになったミレーネにわけを聞く。
「ミレーネさん! どっかのチームに襲われたの!?」
「……ああ。女装をした男性達2人に襲撃されてしまって。メイド達は全員奪われてしまったんだ」
「なんてこった!」
女装をした男性チームのメンバーは、なんと公務員から構成される。
先ほど彼等とも話をしてみたところ、侍女選出試験への参加目的は”
そういう切実さは共感出来るけれど、戦いとなったら話は別だ。
ミレーネが勝てるように、なんとかメイドの数を確保したい。
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