雷神の神器

 若い男女が立ち去った後も、ステラの元には調査団の者が数人訪れ、手伝いを申し出てくれた。

 そういった想いは嬉しいものの、立て続けにこられると、違和感を覚える。

 

 いくら感謝していても、自分達の時間を使ってまで恩返ししようとするだろうか?

 ステラが彼等の立場なら、菓子折りを渡して済ましてしまうかもしれない。


 彼等との会話の中で、内情を探ってみると、少し興味深い話をしてくれた。

 調査団の人々は以前、様々な組織に所属していたのだが、レイフィールドの調査が失敗に終わり、彼等自身も死亡したとみなされたことで、代わりの人間がそのポジションに就いてしまったようなのだ。

 つまり、現在彼等は求職中であり、普通に困っている。


 思いのほか窮地きゅうちに立たされていることを知ったステラは、そのことをゴンチャロフ皇帝に伝えると言ってみたものの、彼等は皇帝に捨てゴマにされたのを気付いて、根深い不信感を抱いているようだった。

 『今後はこの国の為に働くことはない』と言われてしまえば、理解を示すほかない。


 とはいえ、ステラもまだ学生の身。

 マジックアイテムの販売で、彼等自身を雇っていけるだけの売上はなかったりする。

 ひとまずは、何か手伝ってほしい事が出来たなら連絡すると言っておくにとどめた。

 それまではアルバイトなどで、食いつないでいてほしい……。


 ちなみに、調査団員以外にも、あの空間から出してあげた人々がいて、彼等には現在病院で検査を受けてもらっている。

 聞く話によれば、相当長期間、変化の無い空間にいたため、療養が必要になるだろうとのことだ。

 彼等とも引き続き、ふみなどのやり取りをしたほうがいいかもしれない。


 ◇


 5人ほどと話し終え、ステラはフルーツ牛乳で乾いた喉を潤す。


「ぷはぁ~~。調査団の人達、私の事はとっとと忘れて、帝国で定職を見つけてほしいんです」

「どうだかな。奴等はお主の下で働くことに強い魅力を感じておるようだった。奴等が求める何かをお主が持っているのだとしたら、そう簡単に忘れはしないのではないか?」

「分かる。ステラ様といると、ホッコリするし、安心感もある」

「むむ……」


 アジ・ダハーカとエマの言葉に眉根を寄せる。

 そんな事を言われてしまったら、期待を裏切れないではないか。


「うー……。あの人達の仕事については真面目に考えるとするです。 ――あれ?」


 調査団員の女性と入れ替わるようにして、インドラがレストランに入って来た。

 何故か宮廷風のコートを着ているので、一瞬誰かわからなかったが、珍しい髪色で特定出来てしまった。


 上品な服装をしていても、中身は変わっていないらしく、インドラはずかずかと近寄ってくる。


「ようっ! 旨そうな物を食っているな!」

「念願のオムライス食べてたです」

「食べたがってたもんなー! 良かったな!!」

「うん。インドラさんの分も頼むですか?」

「いや、大丈夫だ! 帝都に戻ってきてからは、ゴンチャロフ皇帝や貴族達にたらふく飯を食わしてもらったからな!」

「だから、そんな服を着てたですね~」

「だな! 正直窮屈だが、こういうのも悪くはない」

「似合ってるです」

「ありがとよ!」


 インドラの顔には若干疲れの色が見えるが、まんざらでもない様子だ。

 人間達とつるむのが大好きなんだろう。


 彼がドカッと椅子に腰かけた音で、1つ大事なことを思い出す。

 帝国を去る前にやっておかなければならない事が残っているのだ。


「あの、インドラさん」

「なんだ? 改まって」

「貴方に金剛杵を返さなきゃならないです。レイフィールドの件は片付いたですし、今度こそ受け取って下さい」


 そもそも、この国に来たのはアレムカに『金剛杵を壊すか、雷神に返すかしてほしい』と頼まれたからだ。この依頼を遂行しなければ、とあるレシピを入手出来ないという事情があるので、ここはスンナリと受け取ってほしい。


「困ったな! こいつ自身は今の俺の元に戻りたくなさそうだ!」

「ええ~。またですか。これを手放さないと、意地悪ばあさんからレシピを貰えないんです」

「俺が力を取り戻してからなら、金剛杵も戻って来てくれるだろうがな~! あ、いいことを思いついたぞ!」

「何ですか?」

「あんた自身の魔法の空間に一時的に置いておけばいい! ようはそのばあさんの目につかない場所にあればいいって事だからな! 金剛杵も、あそこから抜け出せないだろうし、ちょうど良いだろう!」

「ふむぅ」


 昨日の経験を思い出す。

 ステラには【アナザー・ユニバース】の機能のうち、”空間の呼び出し”と”空間への移動”が出来た。しかも、体感的にMP消費量も大したことがなかったので、何か物を置いておくくらいは出来そうな感じだ。

 もう一度あの中に入り、金剛杵を置いてみようか。


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