帝国の調査団(SIDE ステラ)
夕方4時頃、
ステラはだらだらと身支度を整えてから、エマと共にホテル内のレストランへと入った。
昨日使い切ったMPは割と早めに回復していたのだが、気分が微妙に憂鬱だったので、今日はずっとノンビリしていた。
しかし、陽が陰ってくると、美味しい物を摂取したい欲が高まってしまい、部屋から出ざるをえなくなった。
注文品が運ばれてくるまでの間に、エマとの会話が昨日の話題になる。
「――ステラ様は……、昨夜あの中に入ってから、何か変わった?」
「変わったように見えるですか?」
「分からない。だけど……、昨日の昼と比べると、落ち着いた表情になった気がする」
「ふむぅ……」
ステラはフルーツ牛乳の瓶を
自分があれから変化したのかどうかについての回答としては、”
【アナザー・ユニバース】の中で、短時間ではあるが、前世の自分のエーテルの影響を受けた。それにより、幾つか記憶が戻りはしたが、自分の思想や価値観を変えるまでには至っていない感じだ。
だけど、エマが違和感を覚えているのなら、やはり前の自分と断言出来ない状態なんだろうか。
落ち着かない気分のまま、オムライスにスプーンを差し込む。
このホテルのオムライスは、卵が完璧な
義兄が作るそれよりも見た目は微妙ではあるが、食べてみると、なかなかに上品な味わいだ。
「帝国のオムライスはデミグラスソースを使うですね。コーヒー用のミルクを入れてみようかな――」
「おい、ステラよ。儂用にステーキを頼んでくれ」
「むぅ」
のしりと頭に重みが乗り、相変わらずの頼み事が聞こえてくる。
さきほど、夢うつつで彼が『エルシィの様子を見に行く』と口にするのを聞いた気がするけれど、帰ってきた事から察するに、もう気が済んだらしい。
「エルシィさん、大変そうだったですか?」
「うむ。ゴンチャロフ皇帝や帝国の高官等との話し合いが続いているようだの」
「ふむふむ。例えば?」
「昨夜”テミセ・ヤ”の工作員を2匹捕らえたわけだが、工作員は奴等だけではない。お主の親戚のエディを襲った者が帝都に潜伏しておったし、エルシィと戦闘になった者達もおる。そいつらの情報やら、レイフィールドに残された兵器の回収やら、話し合う事は山ほどある。おお、それとだ!!」
急にテンションがあがったアジ・ダハーカに、ステラは目を丸くする。
何か面白い話でも聞けたんだろうか?
「お主の多大な働きに敬意を評し、ゴンチャロフ皇帝が褒美をくれることになったぞ!!」
「おお~! 内容などんなだったです? お菓子一年分とかですか?」
「そんな安物ではないぞ! ”初霜のリンゴを一ヶ月に5個、永続提供”と”帝国内の冒険者ギルド内にある売店での販売権”らしい! これでお主も国際的なアイテム士として活動出来るな!!」
「え……、え?」
”初霜のリンゴ”とは、一個あたり金貨10枚程度の値打ちがある素材だ。
それを毎月10個、永続的に提供されるというのは、帝国から月々の生活費全てを支給されるのと同じようなものだ。
それに”帝国内の冒険者ギルド内にある売店での販売権”を貰うのも、破格と言える。冒険者ギルドというのは、国内の猛者が集まる所であり、有事の際には、彼等の力を募ることだってあるはずだ。
だから、そこで売られるアイテムは絶対的に安全でなければならず、普通であれば、国外の無名なアイテム士の出番なんかない。
生産が追い付いていないだとか、搬送をどうするべきだとか、考える事は多いとしても、これだけの販売機会を得られたのは、自分にとってかなりのメリットと言える。
現実感の無い話を聞いた所為でステラは放心状態になったが、エマの声が耳に届き、我に返る。
「――今、ステラ様は食事中だから」
「少しの間だけでいいよ! ただお礼を言いたいだけだから!」
「ゆっくりさせてあげたい」
いつの間にか、エマは席を立ち、若い男女と話をしていた。
男性の方の顔に何となく見覚えがあり、ジッと見つめていると、彼はステラの視線に気が付いた。
「あ! 君!! 昨日の子だよね!」
「昨日? もしかしてレイフィールドで会ったですか?」
「そうだよ。僕達を助けに来てくれたんだろう? ちゃんとお礼を言いたくて!」
「えっと、そんなに気を遣わなくても大丈夫なんです。ゴンチャロフさんに、たんまりとご褒美を貰ったですので」
「そんなわけにはいかない! 僕はゴンチャロフ皇帝によって、レイフィールドに派遣されたんだけど、あのわけのわからない魔法に巻き込まれて、本当に気が狂いそうになっていたんだよ! そんな中、君が現れて……、天使か何かかと思った! 後から、君が僕達を元に戻してくれたって知って……」
彼は【アナザー・ユニバース】によって作られた空間に閉じ込められ、極限の状態だったらしい。一緒にいる女性は近しい間柄なのか、さっきからずっと泣いている。
こうしてお礼を言いに来てくれるのは嬉しいものの、どう返しすのが正解か分からず、ステラはしどろもどろになった。
「あ~、えーと、大したことはしていないです!」
「いや! 何か困ったことが有れば、僕らに頼ってくれ! ガーラヘル王国にに移住したっていい!」
「なんと!?」
思い切った発言に、ステラは手に持っていたスプーンを落としたのだった。
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