隠し事は人を傷つける(SIDE エルシィ)
エルシィは自らの付き人を睨む。
彼ときたら訳を話さないままエルシィをブロウ家の列車に押し込み、その後通信機器を片耳にあて、ひたすら喋り続けているのだ。
ほどなくして列車も動き出し、エルシィの頭は混乱しっぱなしだ。
何故こんな夜中に列車に乗らなければならないのか? どうしてステラ達を置いてこなければならないのか?
もしくだらない理由でこのような行動をとっているのだとしたら、解雇してやろう――と思いたいところなのだが、彼の声は妙にひっ迫していて、ただ事でないのは明らかだ。
(どうしたのよ、一体……。私に話せないのは何故?)
彼を責める言葉も尽き、唇を噛みしめて
さっきから、ステラの事が心配でたまらない。
自分がレイフィールドの駅で市長と会話している間に、彼女はユミルと少し
(この事態は、さき程の言い争いと関係あるのかしら……? 朝も何故か引っかかるような会話をしていたわよね……)
ステラが絡むと、いつもこうなのだ。
守ってあげたいだとか、支援したいだとか、好かれたいだとか、自分らしくない事ばかりを考えてしまう。この感情を最初、友情からくるものだと思っていた。恋愛感情なのかもしれないとも思った。
でも、そのどれもが違っているような気もする。
今回の旅でハッキリするかと期待していたのに、まだ何も分からないでいる。それどころか、当のステラが危機的な状況に陥っているようでもある。
モヤモヤと考え事をしている間に、付き人の声が一際大きくなった。
「――えっ!? そんなに呆気なく……? そ、それで生存者は何人いるんですか!?」
「……っ、ステラさんに何かあったのでしょう!? どうして私に話せないのですか!?」
ついに我慢の限界を迎え、掴みかかれば、少年も必死の形相をしていた。
「エルシィ様、申し訳ございません! 今はこちらの話を優先させてください!」
「このっ、
感情のままに付き人を責め、近くの窓を思い切りよく開ける。
エルシィが片足を窓枠にかけると、付き人はギョッとした表情になった。
今から何をしようとしているのか察したんだろう。
「え、エルシィ様、おやめ下さいませっ! 死んでしまいます!」
「貴方なんかに守られているくらいなら、王族の身分を捨ててしまった方がマシですわ!」
何時でも思っている事を告げ、窓の外から首を出す。するとちょうど良く、向かい側から別の列車が走ってくるところだった。
その屋根辺りを意識し、自らのアビリティを使用する。
「【瞬間接近】!!」
「エルシィ様!!!」
悲鳴の様な付き人の声を殆ど聞くことなく、対向車の屋根の上に移動する。
列車が進むスピードと風圧により、地面に落下しそうになるが、金属パーツを掴んでことなきを得る。
「……ふぅ。ここで死んでしまったら、とんだ
普段から剣術の訓練を積んでいたお陰で、この状況下でも体をキープしておくくらいは出来ている。過去の自分に感謝せずにいられない。
◇
とんでもない状態でレイフィールドに舞い戻ったエルシィは、ホームに居る人間の好奇の目に晒された。しかし、注目を浴びる事に慣れ過ぎて、この程度は涼しい顔で乗り切れる。
そのまま改札を出ようとしたのだが、見ず知らずの男に声をかけられた。
「あんた、何で1人で……? ステラさんはどうしたんだ?」
「え、ステラさん?」
どうして自分にステラの事を訪ねるのか不気味で、立ち止まる。
男の顔を見上げて驚いてしまった。
ステラの義兄ジェレミー・マクスウェルとよく似ているのだ。
ジェレミーではないと分かったのは、彼よりも若い外見をしているためである。とはいえ、ジェレミーに良く似た人物が、ステラのことを問うているのだから、関係者だと思って間違いなさそうだ。
「もしかして、マクスウェル家ゆかりの方ですの?」
「ああ。ステラさんから聞いてないか? 俺はマクスウェル家の分家の者なんだ。ステラさんからアレコレと頼まれごとをされてる」
「そうでしたのね!! これからステラさんにお会いになられるの!?」
「会おうとしてるけど……、その前に、あんたが一人で居る理由を教えてくれ。どう考えても異様だろ?」
「え、ええ。勿論ですわ! ですが、とりあえず、どこかで魔導車を調達していただけませんこと? 話はそれからですっ」
「わかった」
ステラの親族−−−−エディ・マクスウェルは頼みごとをされ慣れているのか、嫌な顔せずに動いてくれた。
駅でレンタル魔導車を用意し、すぐに名士宅へと出発する。
社内で彼の話をアレコレ聞いているうちに、やはりユミルが工作員で間違いないこと。エディが別の工作員に殺されかけたこと。そしてステラの身も危険なことが分かった。他にも様々な話をしてくれたおかげで、ややパンク気味だ。
(“テミセ・ヤ“はやはり近隣諸国の征服を目論んでいるのね。この国に仕掛けられていることは、いずれガーラヘル王国に降りかかることなのよ……。そしてステラさん……。どうしてそんな無茶をしてしまうの!?)
考えごとに集中したいのに、魔導車が急停止したせいで、ふたたび思考がかき回される。
「姫様、空を見てみろ! 大変なことが起こってる!」
「えっ!?」
エディは窓から顔を出す。
エルシィも同じようにすれば、近くにそびえる山の頂に、巨大な魔法陣が出現しているのが確認出来た。
あんな禍々しいものはさっきまで無かった。
震えるエルシィをよそに、エディはカメラを構え、魔法陣を撮影する。
「これは、“テミセ・ヤ“の敵対的行為の証拠になる」
「こ、こんな時に何を……」
「証拠を残すねは大事だろ。それと、ステラさんの生存は絶望的かもしれない。残念だけど」
「そん……な……」
エディの言葉は重く、そして許せないものだった。
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