妨害工作

 駅の売店のアルバイトをやってみたところ、自作ポーションは好調な売れ行きと言ってよさそうだった。

 朝の7時半に開店したのだが、昼11時頃には残り50本程度しかない。

 この調子でいけば、今日中に完売出来そうだ。


 途中でジェレミーやエマがノコノコとやって来るばかりか、学校で付き合いのある面々――エルシィ、レイチェル、コリン等が現れたりもしたけれど、”善意の購入”をされずに済んでいる。


 つまり、今まで売れたポーションは完全に外部の人々から買ってもらえたのだ。

 しかしながら、購入者の全てがこの売店からステラのアイテムを知ったかと言うとそうでもない。

 夏にクリスの手伝いをした際に、ファンになったという人々もいた。

 製作者が学生だからと入手を諦めていたのが、こうして手ずから売っているのを発見出来たと喜んでいた。


 今もまた1人、リポーターがポーションを買って行き、ステラはその背中を目を細めて見送る。


「私を覚えていてくれるなんて嬉しい限りなんですっ」

「まぁ、売り方が特殊だったから記憶に残りやすかったんだろう」

「あ……確かに」


 記憶を辿ると、あの時、マジックアイテムをカキ氷にかけて出すという、実に夏らしい販売をしていた。美味しいものではなかったと思うけれど、再び購入したいと思ってくれていたということは、きっと効き目が良かったからだ。

 そう思えばと気分が良くなり、ステラは「ふへへ」と笑った。


 しかし、気分良く売店に立ち続けられたのはここまでだった。


「――呪ってやる……」

「ひぇっ!?」


 割と近くからオドロオドロしい声が聞こえ、飛び上がる。


 心臓を抑えつつ声の主の方を向けば、売店の傍の街路樹の影に顔色の悪い女性が立っていて、陰湿な目でコチラを見ている。

 もしかして彼女はステラに対して呪いをかけているのだろうか?


「あ、アジさんのお友達なんです?」

「ぬぅ……。見覚えは無いが……あのポーズはストーカーのようではないか」

「私達呪われてるっぽいです!」

「いや、口ではそう言っておるのだが、実際に術をかけているわけではないようだ」

「摩訶不思議なんです」


 見て見ぬフリをすべきかもしれない。

 良く分からないけれど、おそらく彼女は関わっては駄目なたぶいの人間なんだろう。

 だけれど、彼女の呟きは妙に聞き取りやすい。


「私の売り場を奪った奴を呪ってやりたい。聞く話によれば、権力者に取り入ったみたいじゃない。それだけに飽き足らず、私のポーションに嫌がらせをして、評判を地に落とすなんて……。許せない。呪呪呪……」


「……あの人って、もしかして……以前ここに置いてあったポーションの製作者さんなのかな?」

「だろうな。しかし、儂等がどうこう出来る問題でもあるまい。直接的な妨害を受けていないのだから、立ち去るのを待つのが無難だろう」

「うん」


 落ち着かない気分のまま販売を続け、午後13時頃にポーションの在庫が無くなった。自分が直接200本のポーションを売ったので喜びは倍増し、ステラはピョンと飛び跳ねた。


「目標達成なんですっ!」

「ここでの販売は問題なさそうだな。良くやったぞ、ステラ」

「うんうん。アジさんも頑張ったですね!」

「うむ」


 気が付けばブツブツと独り言を言っていた女性は居なくなっていて、ステラはホッとする。


「やっぱり、こういう仕事をしてると人に恨まれやすいですね。ちょっと悲しいかも」

「何を言う! 他人の恨みをパワーに変換するのだ!」

「そっか! って、アレ? そんな魔法あったっけ?」

「感情面での話だ!」

「そうなんだ」


 伝わり辛くはあるが、相棒なりの励ましの言葉なんだろう。

 それはいいとしても、先ほどの女性の言葉には気になる内容があった。


「あの人、『自分のポーションに私が嫌がらせ』したと言ってたです」

「お主はそんなセコイ事などせぬ」

「うん。でも、そう思い込んでるってことは、何かしらの痕跡があったからなんじゃないかな?」

「考えすぎだろう」

「うーん……」


「――新製品のポーションはもう売り切れたのか?」


 言葉が遮られたので顔を上げると、キャップを深く被った少年が立っていた。


「いらっしゃいませです! この店のポーションはもう無いです!」

「あっそう。訂正しとくが、俺は客じゃない。ここのバイトだ」

「午後からのアルバイトさんですか。私も今日だけのアルバイトやってたんです。交替しようです」

「午前の番やってるオッサンは?」

「家族が病気? みたいですよ。心配しないでください、今日の商品の入荷と売却の記録はちゃんととってますから、在庫の数が食い違うことはないはずです!」

「――余計な事を」

「え?」

「別に。お前はもう帰れ」

「うん」


 ステラは追い払われるように売店から出て、帰路についた。



 それから数日間、ステラが売店に立たなくてもポーションは順調に売れ続けた。

 クリスから”ポーション制作機”にかかった費用としてとんでもない額の請求書が来たものの、このペースだったら半年くらいで完済出来そうだ。


 しかし、心配事が無くなってきた矢先、次なる事件が発生した。


 繁華街まで買い出しに行っていたエマが連れてきたのは、キャップを深く被った売店のアルバイト少年――――なのだが、どういうわけか縄で胴体がグルグル巻きにされている。これではまるで罪人のようだ。


「この男。ステラ様のポーションと他のポーションを入れ替えていた。怪しい」


 エマの言葉を聞き、ステラは呻き声を上げたのだった。


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