巫女の保護者とは?

 頭を優しく撫でられるのを感じ、ステラは目を開けた。

 視界いっぱいに広がるのは心配そうなエマの顔だ。


「良かった……起きた」

「……わわっ! 先を越されちゃったです」


 彼女を迎えに行ったはずなのに、目を覚ますのが遅くなってしまった。

 微妙に恥ずかしく思えて、布団の中に隠れようとした……が、その前に脇腹の辺りからおどろおどろしい声が聞こえてきた。


「ステラよ……。お主、よくも……」


 ギョッとして声の主の方を見ると、小さなドラゴンが息も絶え絶えに横たわっていた。


「アジさん? やたら疲れてるですね」

「お主を夢の中まで迎えに行くはめになったからな」

「ん?」

「そのドラゴン様はな。ステラ様のMPが急激に減少したから心配して夢の中に入って行きよったんやで」


 風変わりな喋り方をするのはカーラウニだ。

 大量の果物を乗せた大皿片手にこちらに近寄ってくる。

 ステラが居なかった時のことを説明してくれるのは有難いが、これだけでは良く分からない。


「うーん。まだ状況がつかめないんです」

「そうやろな。この果物でも食いながらアジ・ダハーカ様の説明をユックリ聞いたらええよ」

「イチゴ! 美味しそうなんです!」


 大皿のてっぺんから大粒のイチゴを掴み、口に運ぶ。

 あまりお腹は減ってないが、好物の誘惑には逆らえない。


「お主。夢の中でMPを全消費し、黒巫女のアビリティの一つを作り変えたであろう?」

「あ、成功してたですか。何かまずかったですか?」

「まずいもなにも……。MPを使い果たしたら自分の意思では夢から出て来れなくなるのだ。だから魂の傷を塞ぐのは巫女自身の力に任せたらいいと言ったというに」


「神様。悪くない……」


 エマが控えめにステラを擁護してくれるも、アジ・ダハーカは大袈裟なため息をつくだけだ。


「巫女よ。お主、何故ステラにスキルを使用させたのだ? 夢の中で意識を保てていたのなら、自分で何とか出来たであろう?」

「興味あった。神様がしてくれること。それに、何があっても神様死なない!」


 これは相当信頼されている感じだろうか?

 ステラは頬張っていたイチゴを喉に詰まらせそうになり、襟元を抑える。

 近くに居たカーラウニもわけのわからない絡み方をするので、具合が悪くなるばかりだ。


「流石やわ~! まさかアビリティの作り変えが可能とはな~。恐れ入った!! ついでやから、ワイのクソアビリティも作り変えてくれへん?」

「うぐ……。それはちょっと……モチベ的な理由で無理なんです」

「つれへんな~」


 やたら馴れ馴れしいカーラウニから顔を背け、エマの方を向く。


「エマさん。さっきの、どんなアビリティに変わってたですか? 確認前に気を失ったんで、知っておきたいです」

「【万能修繕】。大事に使うね」

「ふむぅ。【万能修繕】……。なんだかクラフター向けな感じですね」

「これで神様の仕事手伝う」


 ふんわりとした幸せそうな笑顔は以前見られなかった表情だ。

 ステラは少々照れくさくなり、ベッドの上から飛び降りる。


「今何時ですか? かなり長い間夢の中にいた気がしてるですが」

「もう15分で18時だな。そろそろ帰らぬとジェレミーに叱られる頃合いだ」

「うげ……。アジさん、エマさん急ごうです!」


「急ぐ……? 何で?」

「あ! 本人にはまだ言ってなかったですね。ええと……。私とおんなじお家に住まないですか? まだ家族にはOKされてないですが、きっと何とかなるです!」

「私が神様と同居……。いいの? そんな贅沢なこと」


 エマは目を真ん丸に見開いているが、全く嫌がっている感じではない。紅く染まった頬から察するに、だいぶ喜んでいそうだ。

 しかし、会話を遮るようにして異を唱える者が現れた。


「何を勝手なことを言ってるの!? エマは私の家の子よ!」


 エマの姉パーヴァが、部屋のドアを蹴破るような勢いで開けて入ってきたのだ。

 もしかすると今まで、この部屋から追い出されていたのかもしれない。

 下手をすると、誘拐犯扱いされてしまいそうなので、ステラは慎重にパーヴァに質問してみる。


「で、でも。パーヴァさんの家では、エマさんの事を叩く人がいるですよね?」

「愚かにも邪神を崇拝しているのだから、やむを得ないでしょう。正しい道に導くのも家族の義務なの!」


「警察……行く」


 ヒステリックに叫ぶパーヴァに対し、エマは静かに対抗した。


「エマ?」

「叩かれた証拠……残ってる。いっぱい」

「貴女何を言ってるのか分かってるの? この恩知らずっ」

「恩知らない。貴女を倒したら、ここを出れる?」

「……っ」


 エマと王城付きの魔法使いをしているパーヴァがどっちが優れているのかは不明だが、パーヴァが警戒するように一歩、二歩と後ずさる様子から、その実力が義妹に劣っているのは明らかだ。


「パーヴァはん。ここは引いとくべきなんやない? あんた王城付きの魔法使いなのに、家族ぐるみで養女に暴行してたなんて知られたら、立場失うで」

「くぅ……。法律家に相談してから出直した方が良さそうね。覚えてなさいよ」


 パーヴァは冷たい眼差しでステラとエマを睨みつけてから、足早に出て行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る