実の姉に思うこと

 決闘の次の日

 魔法学校に登校したステラは生徒達から質問攻めにされた。

 カメラの回っていない場所で決着が付いたため、リーダーであるステラに詳細を聞きたいとのことのようで、生徒のみならず教師達からも話しかけられた。


 なけなしの忍耐力をフル活用して授業を受け切り、教室を出ようとしたところ、後ろから呼び止められる。


「ステラさん、お待ちになって!」

「ぎゃっ!?」


 この凛とした声色はエルシィのものだ。

 ステラはギクシャクと振り返り、作り笑いを顔に張り付ける。


「エ、エルシィさん。私に何か用ですか??」

「ええ。ステラさんなら植物に詳しいのではと思ったものですから」

「ふむふむ」

「ウムドレビという植物の入手先をご存知なら、教えていただけないかしら?」

「ウムドレ……。えーと……。毎年収穫祭の時期になると流浪生活をしている方々が、王都に持ち込むはずなんです。買うなら、カボチャ祭りを狙うといいかもです」

「まぁ、そうでしたの! さすがステラさん。物知りですわね」

「叔母のグレイスさんが教えてくれたです」

「ステラさんに、ジェレミーさん、そしてグレイスさん。マクスウェルは本当に優秀な方々ばかりですわね」

「えーと……はい」


 普段なら適当に相槌をうてる会話なのに、今エルシィを相手にすると喉のあたりが妙に苦しい。胸を抑えれば以前彼女にもらった首飾りが手のひらに当たり、それにもまた複雑な気分にさせられる。


「ステラさん、もし今日お暇でしたら、私とお茶をしませんこと?」

「今日は、あー……。これから予定がありまして……」

「あら。……残念ですわね」


 あからさまに悲しげな表情をされると、罪悪感を覚えずにいられない。

 実の姉にそんな顔をしてほしくない。

 そう思うのに、今はまだ普通に接するのが難かしい。


「また今度お茶しようです! ではさようなら!」

「ご機嫌よう。ステラさん」


 大股で教室を脱出し、殆ど走るようにして出口へと向かう。


(エルシィさん……。私の本当のお姉ちゃん……)


 昨日からずっとこれまでの彼女の態度を思い返していた。

 エルシィは間違いなく、ステラを妹だと認識していない。しているのなら、ステラが一度死んだ日に、分かりやすい言動をしていただろう。


 きっと彼女にはステラの存在が秘密にされているのだ。


(せっかく血縁者が分かったのに、ちょっと辛い)


 気を抜くとダークサイドに堕ちそうなので、ステラは一度自分の頬をつねった。


「いひゃい……」

「何をしておるのだ?」


 頬をゴシゴシ擦っていると、上空からアジ・ダハーカが降ってきて、ステラの肩に止まる。


「別に……。今日初めて思ったんですけど、自分の中にある感情だとしても、深く考えない方がいいものがある気がするです」

「ふむ。感情などを熟考しても無駄だろう。大抵は結論など出ずに、時間を浪費して終わるだけだ」

「あへぇ」

「これから商業学校に向かうのではなかったか? 急がぬと帰りが遅くなって、またジェレミーに怒られるぞ」

「……うん」


 昨日は商業学校側の面々が話せるような状態ではなかったため、一夜明けた今日話し合いの場が設けられることになった。

 法務省から役人も来ることになっているので、ステラは少々緊張している。


 アジ・ダハーカと共に微妙に遠い商業学校まで歩いて行くと、門の脇でフランチェスカが待ち構えていた。


「いらっしゃい」

「祝勝会ぶりなんです」

「……お前、少し雰囲気が変わった? 暗いというか」

「元からドンヨリとしているんです!」

「そう言われるとそんな気もしてくるわね」

「はい!」

「ステラよ……」


 呆れた眼差しで相棒に見られるが、無視する。


「3階のミーティングルームにカーラウニと法務省から来たオジサンを待たせてるの。何も問題ないなら案内するわ」

「行こうです!」


 フランチェスカの後について商業学校の敷地に入ると、商業学校の生徒達からの視線が集まる。この学校の生徒達にとって、ステラは襲撃者のようなものなんだろう。進むたびにちょっとした悲鳴が上がるので、大怪獣にでもなった気分だ。

 

 それとは逆に、フランチェスカの足取りは軽い。


「フランチェスカさん、何かいいことでもありましたか?」

「ようやく“始祖の力“が私に移ったの。認めて貰えたのだと思うわ」

「おぉ……。あの、ムキムキになっちゃうやつ……」


 彼女の兄やカーラウニの大きく隆起した肉体を覚えているだけに、つい彼女の体をジロジロと見てしまう。

 喜んでいるフランチェスカには悪いが、あまりその力を使わないでほしい……。


 ちょっとした会話をしながら3階まで上がる。

 ミーティングルームは廊下を少しばかり進んだところにあった。

 ドアを開ければ、中には二人の男性が居た。


 一人はカーラウニで、もう一人は恐らく法務省から来た者なんだろう。


「連れてきたわよ」

「ああ。わざわざ足を運んでもろて……」


 ステラは内心「おや?」と思う。今日のカーラウニは随分と謙虚な態度だ。



 

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