秘蔵の魔導書

 ステラはアビリティ【分析魔法Ⅵ】の効果を知る為、自分に【アナライズ】をかけ、データを読み込んでみた。しかし、依然となんら変わった部分はない。


「う~ん……。何か変わったのかなぁ?」

「あのねぇ……。同じ魔法を使ったら、内容も同一になるに決まってるでしょ。アビリティ上で【分析魔法Ⅵ】になったって事は、【Ⅴ】より高位の魔法を使用出来る状態なのよ。覚えたらいいだけ」

「【Ⅰ】~【Ⅴ】はそうしますけど、【Ⅵ】だと、そのランクに対応する魔法を知らないです。自分で新しい魔法をあみださないとです?」


 ガーラヘル王国では、魔法関連のアビリティは上限がランク5までと教えられている。ランク6以上のアビリティが無いという事は、魔導書全般もそれを前提として書かれているわけで……、要はより高度な魔法を使用するために何をすべきか分からないのだ。


 呆れるキキョウの前で腕を組み、うなっていると、意外な人物が現れた。

 オスト・オルペジアの宰相ピオニーだ。

 今日は小さな妖精の姿で、その優し気な顔には濃い疲労の色が見て取れる。


「あなたは、ステラ・マクスウェルさんという名でしたか? ここで何を?」

「こんにちはです。ええと、キキョウさんに聞きたいことがあったです」

「そうですか」

「ピオニー様。ガーラヘルの客人はティターニア様に【妖精王の気まぐれ】を使用されたみたいです。幾つかのアビリティがランク6になったようですが、特に感謝するでもなく、ここでグズグズとしています」

「グズグズ、ですか」


 妖精2人が真面目腐った表情でステラの行動について話しているのを聞き、ステラは半眼になった。確かにグズグズと悩んでいる。しかし、そんな言い方ないだろう。

 ピオニーもバカにするかもしれないと思ったが、何かを考える素振りを見せたあと、手招きした。


「ステラさん。ついて来て下さい」

「へ? は~い」


 何を意図しているのか不明だけど、特に悪意はないようなので、付き合ってみようという気になった。吊り上った目をまん丸にしているキキョウに手を振り、ピンク色の光の後を付いて行く。

 地上に戻り、10分ほどボソボソと会話しながら歩く。

 連れて来られたのは、妖精王の城だ。

 巨大な紫水晶のような外観は、近くで見ても非常に美しい。


 ピオニーは、一番大きな建造物には入らず、その左隣りに位置する尖塔に案内してくれた。内部は少々埃っぽい香りがする。


「ここで何をするですか?」

「直ぐに分かります。窓の淵にでも腰かけていてください」

「はーい」


 何でそこなのか? と思わなくもなかったが、窓の淵に座らなければ、床に尻を付くしかないようで、この提案が彼女なりの精一杯の気遣いなのだと理解する。


 内部は、人間サイズの本や置物が所せましと並べられている。

 妖精の国にあって、何故人間サイズの物が集められているのだろうか?

 窓の淵にぴょんと乗り、奥側をフラフラと飛ぶピオニーを眺める。


「手伝った方がいいですか?」

「結構です。この辺にあるのは分かってます」 

「ほい」


 その言葉は正しいようで、彼女は人間の姿に化け、古びた本を2冊持って戻って来た。


「聞く話によると、人間というのはきちんと他人を育てようという気持ちが希薄なのだそうですね」

「随分偏った考えのような……」

「そうでもないと思いますよ。人間はアビリティの上限を5と定めていますが、それ以上まで伸ばせている方々もいるんです」

「え……」

「勿論、ティターニア様のような特殊な存在の力を借りないと難しいと思いますけどね。貴女は運がいいのです」

「……あの、その話を私にする意味は何かあるのでしょうか?」

「あります。この魔導書を受け取ってください」


 彼女の差し出す本を受け取ると、ずっしりと重い。

 人間サイズの本が何故ここに保管されていて、何故ピオニーがステラに渡してくれるのか? 表紙の角をつまみながら、じっとピオニーの顔を見つめる。


「ガーラヘル王国へ帰られても、恐らく参考になるような本は探せないでしょう。気の毒なので、人間用に書かれた魔導書を貸してあげます。ティターニア様のご友人達が、彼女の暇つぶしのためにと、置いて行くのですよ。読んだら何かしら役立つでしょう」

「ティターニア様の私物を受け取るなんで出来ないです!」

「妖精王が特殊なアビリティを貴女に使用した意味を、もう少し考えてみてはいかがですか。貴女は、我が王にかなり気に入られたんですよ。であれば、私物を貸し出すくらいはするはずです」

「そうなんだ。じゃあ、借りちゃいますです!」


 ティターニアの感情は全く持って意味不明だが、ピオニーの話からこの本への興味が湧いてきた。適当に頷いたステラに対し、ピオニーは片眉を上げたが、その辺はスルーだ。


 1冊を膝に乗せ、もう1冊のページをペラペラとめくってみる。

 新しい魔法をこれから知れると思うと、胸がどきどきしてきた。


 ランク1、ランク2……ときて、半分をすぎた辺りで、目当ての魔法を見つける。


「【ディープアナライズ】って名前の魔法なんだ……」


 一つの章を丸々使って書かれた説明を読み込む。

 エーテルの使い方や、正式な術式。音声等をキーにして魔法陣を瞬時に呼び出す方法がシッカリと書かれている。


 読書に集中するステラの為に、ピオニーはホオズキ型のランプと、お茶を持って来てくれた。


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