ダンジョン深部へ

 デュラハンはその1体だけではなく、奥から追加で3体現れた。

 それぞれの得物は異なれど、4体全てから放たれる衝撃派は厄介だ。

 不得意な防御魔法でバリアを張ったステラをエルシィが援護する。その後、何故かエルシィはレイピアをコチラに向けた。


「【属性付与】!」

「ふみゅ?」


 どうやら、彼女はステラの手から【光焔】の炎をレイピアに移したようだ。

 彼女の器用な行為に、ステラはたじろぐ。

 その隙をついて、アジ・ダハーカまでがステラの炎を奪い取っていった。


「アジさんまで……」

「MPが膨大にあるのだから、ケチケチするな」

「その通りですわ!」

「うーむ」


 ステータスを白状したのは間違いだったかもしれない。

 これから先の事を考えると頭が痛くなるステラであった。


「さぁ、首なしの騎士達よ! 私の剣を味わってくださいませ!」


 ステラの内心の葛藤かっとうなどお構いなしに、エルシィは高らかに宣言し、デュラハンの群れに突っ込んだ。

 一閃、二閃、と細剣が翻るたび、面白い程に敵のよろいが溶ける。


 エルシィだけではなく、アジ・ダハーカの攻撃もデュラハンを圧倒している。

 彼の能力で増幅された炎の力は抜群に良く効く。


 ステラは後方に下がって、二人の戦いっぷりを観察する。


(ふむぅ。やっぱり弱点のデータって有用だなぁ。私の分析魔法は”Ⅴ”で、人間の世界での上限なわけだけど、妖精達はもっと詳細に分析出来てる? 妖精の魔法技術は”V”を上回ってる可能性ってないのかな?)


 昔からの知識の蓄えなのかもしれないが、聞くのはタダだ。

 ダンジョンから無事に戻れたら、その辺に探りをいれてみたい。

 新たな目的が出来たことにニンマリとしているうちに、戦闘が終わる。

 デュラハンたちは暗色の魔核を残し、消失してしまった。


「魔核を落としていったみたいですわね」

「んー……。デュラハンもスルーアのはずだけど、魔核を落とすのかぁ。ということは、モンスターに近い存在なのかなぁ」

「発生の仕方は妖精も、スルーアも、モンスターも似たようなもんだぞ」

「そうなんだ! 流石、アジさん物知りですね!」

「うむ」

「魔核は……うーん。売店係のクリスさん辺りが欲しがるかもです」

「まぁ、クリスさんですか、今回の旅は断られてしまって残念でしたわ」

「ですです。あの人に高めに売ってみたいなぁ」

「確かに彼はドローン等を作成しますし、喜ばれるかもしれないですわね」


 モンスター等からドロップする魔核というのは、それなりに価値あるものだ。

 それらを加工すると、照明や魔導車等の機器の動力に出来る。

 機械弄りを趣味兼ジョブにしているクリス辺りだったら、いくらでも用途を思いつくだろう。


「拾って、あじさんにお渡ししますわね。……あら?」

「どうしたんですか? 王女様」


 エルシィが何かを拾い上げたのが見えたので、ステラはパタパタと彼女に近寄る。彼女の繊細な指が摘まみ上げているのは、随分時代がかったカギだ。

 サビや泥が付いている所為で、彼女の指が汚れてしまっている。


「デュラハンが持っていたのかしら?」

「そうであろうな」

「じゃあ、それも持って帰ろうです。大事な物かもしれないので、後で妖精さんに返してあげたいです」

「では収納しておこう。寄越よこすがいい」


 小さなドラゴンの目の前に、ステラとエルシィが一つずつ物を置いていくと、音も立てずに消えていく。何度見ても不思議な光景だ。

 全てが仕舞い込まれてから、全員で立ち上がる。


「先に進もうです! スルーアさん達に襲われたら、やっつけて、魔核稼ぎをしちゃいましょう!」

「うふふ。ステラさんが元気で助かりますわ。力を分けて貰えますもの」

「私が出した魔法を使う時は、一言欲しいんです……」

善処ぜんしょいたします」


 その先もどんどんスルーア達を倒し、奥を目指すと、おかしな光景が目に入った。トロールが5体程で壁の一部を殴っているのだ。

 見ている間に壁が崩れ落ち、そこから長方形のドアのような物が現れる。


 トロール達は唖然と観察するステラ達に気が付き、猛然と襲い掛かって来たが、彼等の弱点も把握しているので余裕の瞬殺だった。

 魔核を拾い集めてから恐る恐るドアに近付く。


「ドアに見えますよね?」

「ええ。ここも非常口だったりしないかしら? 妖精の身体では、ここは随分遠いところでしょうし、調査が不十分で発見していなかったりとか……」

「そうだったら嬉しいですね! 掘り起こしてみようです!!」

「ええ!!」


 



 

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