ヴァンパイアの血
「モータルウォーターが大量! 凄いです!」
モータルウォーターの瓶の山を、涎を垂らさんばかりの表情で見上げるステラの肩に、しなやかな手が添えられる。
「先ほどピオニーさんに真珠をたくさん渡しましたし、一本くらい頂いても良いと思いますわ」
「ええ!? 王女様がそんな事言っちゃっていいのでしょうか……」
「後から知らずに飲んだと告げればいいでしょう」
「ふむぅ……」
なおも戸惑うステラの代わりに、エルシィが近くのケースから一瓶抜き取ってしまった。押し付けるように手渡され、ステラはそれを抱きしめた。
嬉しくないわけがない。だけど、この行動の所為でエルシィの品位に傷が付くのではないかと心配なのだ。
そんなステラの様子に、エルシィはクスリと笑う。
「向こうには、寝所の近くに危険なフェアリーサークルを展開していた手落ちもありますし、私達も少しばかり身勝手な行動をとっても許さると思いますわ」
「うん」
「少し歩き疲れました。ここで休憩いたしましょう」
エルシィは照明代わりの光球を空中に浮かせ、床に腰を下ろす。
王女という
面食らいつつも、ステラは彼女の正面に座る。
アジ・ダハーカにフルーツ牛乳とレモネードの瓶を一本ずつ取り出してもらい、エルシィにレモネードの方を手渡す。もしもの為にと、アレコレ持って来て正解だった。
しばしマッタリとしたミルク味を楽しんでいるうちに、ステラにも心の余裕が生まれ、手に入れたばかりのモータルウォーターを使ってみたくなる。
「アジさん、マジックアイテムの製作グッズを出してもらえないですか?」
「ん? 作るのか?」
「ワクワクしてきちゃったんです!」
「そうか、そうか」
相棒は文句も言わず、次々と器具を取り出してくれた。
フラスコに、試験管に、各種溶液などなど。使い慣れすぎて、仄暗い中でも見分け可能だ。
興味津々な表情で観察するエルシィの目の前で、ステラはフラスコを手に取る。
それにモータルウォーターを注ぎ入れれば、清涼感のある香りが漂う。
「いい香りですわね」
「うん。少しミントに近いかもしれないです」
「ええ」
混ぜてみたいと思ったのは、先日ガーラヘル王国の王都で手に入れたヴァンパイアの血だ。吸血鬼本人は変態的であったものの、血液の方は凄い性能だった。
名称:ヴァンパイアブラッド
効能:ヴァンパイアの体内で良質なエーテルと混ざり合うことで、ステータス全体を向上させる事が可能
効果時間:エーテル量に依存
このアイテムのデータを見て、ステラは加工してみたいと思った。
おそらく、アジ・ダハーカの鱗を溶かしたエーテルの溶液とこの血液をモータルウォーターを媒介として混ぜたなら、かなり強力なアイテムになるだろう。
ドキドキする心臓を落ち着かせるために、一度深く深呼吸し、フラスコの中にその二種を加える。
透明だった液体が、ヴァンパイアの血により、薄っすらと色づく。
「【融合】!!」
ステラがフラスコの中に力を加えると、フラスコの周りに魔法陣が展開される。
暗がりに浮かぶ光の術式は美しく、白色から赤く変化し、グルグル回転した。
フラスコの底から気泡が溢れ、口から怪しげな煙が吹き上がる。
心配になるような反応ではあるが、経過は順調だ。
モータルウォーターのお陰なのか、想像よりも楽に融合が進んでいるのだ。
これ以上は変化しない程度まで力を加え、フラスコをホルダーの中に立てかけると、エルシィが興奮気味に覗き込んできた。
「ステラさんがアイテムを作成なさるところを初めて拝見しますが、とても神々しくて……見惚れてしまいました」
「えへへ。良い効果が生まれているといいなぁ」
照れつつ【アナライズ】を使用する。
名称:???
効能:STR(物理攻撃威力),INT(魔法攻撃威力)を2倍にする。
効果時間:3分
「こ、これは!」
「3分間火力を大幅に上昇させる効果なのですわね!」
「そうみたいです。えっと……、STRやINTを改善する効果のアイテムは王都で販売されるですが、発見したモノに限れば、上昇率は一桁パーセント程度しか改善しなかったはずです。モータルウォーターを使って作ったアイテムは、2倍も上がるし、実用レベルかもですね!」
早口で喋っているうちに、自画自賛になってしまった。
慌てて自分の口を抑えたけど、エルシィは素直に感心してくれている。
そんな二人のもとに、倉庫内の巡回をしていたアジ・ダハーカが戻ってきた。
「おい、ステラ。トロール共がこちらに近付いて来ているぞ」
「むむ……」
のんびりアイテムと戯れている余裕はなさそうである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます