暴動を起こすスルーア達

「トロールがコチラに向かって来てますの? でしたら、私にお任せいただけるかしら? 先ほど彼等に遭遇した時に、殴りたりないと思ってましたの」


 エルシィが言っているのは、妖精の国に入る前の出来事かもしれない。

 魔導車が止まった際、アジ・ダハーカが様子を見に行ってくれたのだが、トロール達と近衛兵達が戦闘していたようなのだ。

 

 しかしながら、先ほどのトロールと、今ここに向かってくるトロールは違う。

 今ここで、妖精達が管理する個体とやり合うのは考え物だ。

 ステラはエルシィの二の腕を掴み、物影に引っ張る。


「ステラさん? 何故隠れなければならないのかしら?」

「少し様子を見た方がいいかなと思うです。妖精達が管理する対象に、こちらから仕掛けてしまうと、後々ピオニーさんにイチャモンを付けられてしまうかもなので」

「なるほど……。ではそう致しましょう」


 ケースが積み重なった山の影から、通路を注視する。

 ステラはトロールという生き物についての知識が豊富なわけではない。

 この施設に居るトロールが充分に理性的なら、地上への戻り方を聞き出せる可能性があるが、夜会の席でのピオニーの話を思い出すに、彼等の中には『暴力を振るう個体が増えてきている』との事だった。

 意思疎通が可能だと良いのだが……。


(トロール達の挙動から知性を判別できないかな?)


 考えを巡らせている間に、通路の方から瓶が割れる音と叫び声が聞こえてきた。


「オオオオオ!!!」

「何なの、お前達!? 今日はいつにも増して頭がクルクルパーだよ!」

「オオオ!! オオオオオオ!!」

「ちょっとぉ! その瓶を振り回すんじゃないよ!」


 野太い咆哮に、可愛らしい苦情が混ざる。

 前者がトロールの声で、後者は妖精の声だろうか?

 妖精と会話出来たなら、今ステラ達に起きている状況を説明し、助けてもらえるはずだ。

 ステラはエルシィと目を見合わせ、一緒に通路に向かいかけた。

 しかし……。


「大変でし、キキョウちゃま! グレムリン共が西の昇降機に悪さして、私達生き埋めになっちゃいました!」

「はぁ!? ああ、もう! だから醜いスルーア共は全て国外追放すべきって、ピオニー様に進言したの!」


 妖精達と思わしき会話に緊張感が漂っている。

 どうやら、この施設に関連して、重要な事件が発生してしまったらしい。


(生き埋めって聞こえたような……)


 実に不穏な言葉だ。

 ステラは唇を尖らせつつ、聞き耳を立てる。


「満月の所為で皆狂ってしまったでし?」

「そんなの知らない! とにかく、アナタは警備妖精全員に連絡しなさいよ」

「ぎょぃで――ギャン!!」

「な、なんてことするの! 薄汚いスルーアの分際で!!」

「オオオオ!!!」


(わわ……デンジャラスなんです)


 打撃音や雷撃の音が混ざりだし、ステラはジッとしていられなくなった。

 ステラを先頭にして、三人で通路に走る。


 前方に、紫色に発光する妖精が浮いていて、巨大なトロールを攻撃している。

 その足元にはピクリとも動かない妖精の姿もある。

 

「妖精さん! 加勢するですよ!」

「誰!?」


 ステラが声を張り上げると、紫色の妖精が機敏に振り返った。

 吊り上ったまなじりにひん曲がった口元のせいで、性格がキツそうに見える。


「人間2人とドラゴン一匹? ああ、分かった。今日は他国から来訪者があると聞いていたんだった」


 1人納得する妖精を、トロールが瓶で殴ろうとする。

 それにはエルシィが反応し、水の魔法で強化したレイピアで、気持ちいいくらいスッパリとガラス瓶を切断した。

 ドバドバと流れ出す液体を見て、ステラはショックを受けた。

 価値ある中身が、床に染み、広がる……。


 その反面、トロールは瓶を単なる武器だとしか認識してないようで、両手に瓶を携え、エルシィに対してガムシャラに殴りかかる。


 トロールの動きに比して、エルシィの動きが早すぎる。

 さほど時間が経過しないうちに、鋭い剣先がトロールの右腕を貫いた。


「グギャァァァ!!!」


 耳をつんざくような叫び声が、通路内にこだまする。

 動きが鈍ったトロールに妖精が追い打ちをかけるように雷撃を食らわせ、更に止めを刺す。


「ふん。死体を片づけをする身にもなれ」

「取り込み中悪いんですけど、私達を地上に戻してもらえないですか?」

「そこで伸びてるスイカズラによると、ワタシ達はスルーア共によって閉じ込められた。すぐに出してやるのは不可能だな」

「うーん……」


 

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