【オベロン】とは
「大国であるガーラヘルの王女なら、もっと魔力の流れに敏感でも良さそうじゃが……」
ヤレヤレという感じに自分の右肩を叩くティターニアに、ステラは震えながら質問する。
「ど、どうして王女様――エルシィさんが消えてしまったですか?」
「
「うん」
「エルシィ第一王女殿は妾が地下に送っていたエーテルに干渉した。それで真下に転送されたかのぅ」
「むむ……」
注意深く中庭を眺めてみると、一つの巨大な
「ティターニアよ。お主、地下に何か隠しておるのだろう?」
「ふふ……」
美しき女は怪しく
「その昔、妾は見目麗しい若者を囲っておったのじゃ。隣国の貴人と名乗っておったかのぅ。『国に帰る』といけずな事を申したので、罰として肉体を作り変えてしまった」
「作り……変える?」
澄んだ声音が紡ぐ内容に、ゾクリとした。
彼女の目に狂気が見てとれる。
「生体兵器【オベロン】。王配にして妖精国最強の戦士の名じゃ。隣国との戦争時は盾として、そして剣として役立ってくれた」
「相変わらず悪趣味だな」
「……長く生きすぎると、時々自分が正気を保てているのか、狂っているのか分からなくなる」
妖精王の自虐めいた態度はいいとして、ステラはエルシィの安否が気になって仕方がない。
「貴女が変な人か、普通の人かは分かりませんが、王女様を助けてくださいです!」
「悪いがのぅ。妾のエーテルは先ほど地下に全て送ってしまったのじゃ。他の妖精に救出を頼まねば。しかし、……力有る者は皆、今宵の月を愛でておるだろうからの、朝になるか」
「ぐぬぬ~~」
そのマイペースさに腹が立つ。
クルリと
地面が光っている所に飛び乗れば、まばゆく輝き、足の下が抜けるような感覚になる。
「ひゃあ!」
「勇敢な子じゃな。オベロンを封印している場所の近くに、地上への転送装置があるはずじゃ――」
ティターニアの声に返事も出来ず、ステラはグルングルンと回転しながら落下する。
「わわ~~!! 思ったよりも深いんです!!」
「えっ!?」
底に青白く光る
「ステラさん!? 【疾風】!!」
「ふみゅ?」
真下から吹き上げる風により、ステラの落下が緩まる。
フヨフヨと落ちて、そのままボスンとエルシィの腕の中に受け止められた。
「ナイスキャッチなんです」
「ふぅ。ヒヤヒヤしましたわ……」
居心地の良いポジションを探す為にモゾモゾと姿勢を変えているうちに、腹の上にアジ・ダハーカが落ちてきて、「うぐ……」とうめく。
「全く……。何故お主は無茶ばかりするのか。妖精共に捜索を任せておけば良いものを」
「だって、王女様が寂しいかと思ったから」
エルシィの目が潤んだかと思えば、力いっぱい抱きしめられる。
「ステラさんっっ!!」
やっぱり1人でこんな所に落ちてしまい、心細かったんだろう。
ステラはおずおずとそのその形良い頭に手を伸ばし、撫でた。
そしてティターニアから聞いた話を伝える。
”この場所に何が封印されているのか?”とか、”脱出するためには、その封印地に行く事”等についてだ。
一通り話し終えると、エルシィは戸惑うような表情になった。
「もしかしてあのレバーって、その【オベロン】さん? の封印に関係があったりするのかしら……?」
彼女が指さす方を見ると、可愛らしいデザインのレバーが壁についていた。
それは今、下向きになっているが、何か問題があるんだろうか?
「私、さっき脱出を試みようとそのレバーを下ろしたのですわ。そうしたら、通路の先に延びていた魔法陣の光が消えてしまいましたの。大丈夫かしら?」
「それはちとマズイかもしれんな」
相棒の気まずそうな顔を見て、ピンときた。
「もしかして、【オベロン】の封印が緩まるんですか?」
「おそらくな」
「ヒェェ……」
「今すぐレバーを戻します!!」
エルシィはステラを抱えたままレバーに駆け寄り、引き上げる。
それにより、通路の魔法陣が活性化されたものの、一時でもエーテルの供給が止まったら綻びが生まれてないとも限らない。
脱出するには生体兵器【オベロン】の元まで行かなければならない事を考えると、ステラは嫌な予感を覚えずにいられないのだった。
そこに辿り着くまでに、保っていてほしいところだ……。
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