ポーション素材の安定供給?
イチゴに夢中な樹木の精霊の背をグイグイ押しやり、家の中に連れ帰る。
畑に植わってある物を全部食べつくされるよりは、ジェレミーにもう一食分作ってもらい、精霊の興味がそちらに向くようにしたほうがましだろう。
ダイニングルームに入れば、そこにはもうアジ・ダハーカが居た。朝のテレビ番組を見ながら、ベーコンの塊を齧っている。
その鋭い目はステラ達に目を留め、パチリと瞬く。
「珍しい客人が来ておるな」
「私とご飯に用があるみたいです」
「ふむ。
微妙な表情をするアジ・ダハーカに、精霊は走り寄り、その羽や尻尾を掴む。
彼等の様子を観察していると、何故か意思疎通が成功しているようだ。このまま珍客の相手を任せてしまっても良いだろう。
そっと距離を取り、ダイニングルームを出る。
キッチンに居るジェレミーにイチゴを渡し、もう一食分の朝食を頼んでから戻れば、ドラゴンと精霊は仲良く並んでテレビを観ていた。
「アジさん。その子何か言ってたですか? さっき結構話してたですよね?」
「ああ。どうやら、お主に贈り物を持って来たようだぞ」
「贈り物?」
精霊はステラをジッと見つめたかと思うと、頭上に両手を上げた。
すると、何もない空間からイキナリ黄金色のナニカが大量に現れ、ステラの上に降り注いだ。
「ふみぃ!?」
穀類の良い香りはするが、トゲトゲが皮膚に刺さり、結構痛い。
悲鳴を上げながら穀類の山から
しかも普通の大麦ではなく、”妖精の大麦”だ。
「”妖精の大麦”を私に……?」
精霊はハッキリと頷いた。きっと、ステラにとってこの大麦が重要な素材なのだと分かった上で持って来てくれたに違いない。
少し感動したが、同時に不安でもある。
というのも、先日のコリンの行動を思い出すからだ。また他所様の畑から勝手に採集してきていたら、今度はどんなトラブルが起こるか分からないからだ。
ステラはおそるおそる精霊に質問する。
「……あのぅ、嬉しいんですが、これってどこから採って来たですか? 他人の畑とかだとちょっと困るっていうか……」
精霊は明後日の方を指さすけれど、それで理解するのは難しい。
「ドライアドよ。この金髪幼女が”妖精の大麦”が植わっている現場を見たいそうだ。連れてってくれぬか?」
アジ・ダハーカが助け舟を出すと、妖精は頷いてくれた。
「朝食後でよければ案内するそうだ。なかなかに食い意地の張った精霊であるな」
「ふむぅ……」
精霊の顔を改めて見てみるが、その様な事を言っているとは思えないくらいに純粋な表情をしていた。
◇
ジェレミーを加えて皆で朝食を食べてから、ステラは登校の準備をし、家を出た。魔法学校に行くのではない。樹木の精霊の案内で、”妖精の大麦”が植わっている場所へ行くつもりだ。
路面電車に乗って辿り着いたのは、昨日も来た山だった。
樹木の精霊はこんな危険な場所に住み着いているらしい。
昨日とはうって変わって、森の中は静寂に満ちている。
楽し気に歩く精霊の後に続きながら、ステラは彼女に気持ちを考えてみた。
彼女から”贈り物”を貰った時、ステラは正直意外だった。
一般的に贈り物とは、”感謝を伝えたいから”とか”機嫌を取りたいから”等の感情と共に渡されるわけだけど、精霊の感情の中にソレラは無い気がしたからだ。
模擬戦争時の自分の行動を思い出せば、恨まれるのが普通だとすら思う。
植物を溶かしまくるだなんて、樹木の精霊からすれば、許しがたい悪行だろう。
そういう疑問を素直にぶつけてみると、意外にもちゃんとした答えが、アジ・ダハーカを
要は、この精霊が理想と考える森林の
ドライアドは、ここを明るい森にしたいと考えている。
木々が密集し、生い茂る葉っぱの所為で地面に日光が届かなくなると、森はあまり健康ではなくなるらしい。
良くないモンスターが
しかも、昨日マロウのアビリティにより、植物が異様に成長し、森のバランスが大きく崩れてしまった。ドライアドがウンザリしていた時、ステラが増殖した分の植物を溶かしてくれたので、助かったらしい。
この話を聞き、”色んな価値観があるものだ”と、ステラは感心した。
精霊との一風変わった会話を楽しみながら山の北側まで行くと、低木に囲まれるようにして、”妖精の大麦”の畑が出現していた。
模擬戦争の下見でこの辺を歩いた時には、無かったはずなので、昨日か今日に現れたんだろう。
「すごーい!」
「ドライアドはシルフや、妖精達と共に、お主が最も喜ぶ物を相談し、力を合わせて用意したのだそうだ。土壌改良までしてくれたそうだぞ。ちゃんと礼を言うのだ」
「そうだったんだ!! ここまでしてくれるだなんて、思ってなかったです! 有難う! 有難うなのです!」
小躍りして喜びを表せば、樹木の精霊も一緒に踊りだした。
アジ・ダハーカはソレに釣られず、少し現実的な事を口にした。
「しかしな、ドライアドよ。この山は魔法が飛び交う戦場なのだ。ここではなく、マクスウェル家の菜園の隣に移動してはくれぬか? その方がステラは収穫が楽だろう」
「え! 可能なんですか!?」
ステラの疑問にドライアドがニコニコと頷いてくれる。
こうして、思いもよらず、理想的な材料調達ルートを確保したのだった。
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