売店係による秘密会議

 樹木の精霊は”妖精の大麦”の畑を明日までにマクスウェル家に移動してくれると約束してくれた。


 しかも、精霊にその作業を任せても大丈夫との事だったので、彼女の行動を待っていればいい。


 精霊との対話が終わった後、ステラとアジ・ダハーカは山を下り、平日の午前という珍しい時間帯に繁華街をふらつく事にした。

 大半の店はまだ閉まっていたが、所々に朝だけ営業している珍しい店があり、歩き回っても飽きがこない。


 そのまま学校を一日サボろうかと迷ったステラだったが、足は自然と魔法学校の方へと向かう。


 王家の紋章が掲げられている校門をくぐり、校舎を目指すが、辿り着く前に売店係長に行く手を阻まれる。

 ステラの手首は彼に捕まれ、昇降口とは別の方へと引っ張られる。アジ・ダハーカはメンドクサクなったのか、1年スライム組の窓へ飛んで行ってしまった。


 係長に連れて来られたのは、売店の前だ。

 店頭にはクリスが立ち、ステラに気が付くと片手を軽く上げた。


「ステラは今日、学校に来てないって聞いたけど、何で居るんだ?」

「学校の敷地内に入るのを発見してしまったのでね。ちょうど良いから彼女を話しに混ぜようと思ったのだ」

「ん?」


 イマイチ話の流れが読めない。

 かろうじて分かるのは、この二人は昼に話をしようと考えていて、ステラも同席していたら更に良いと思っていただろうというくらいだ。


「ステラ君。マロウ・ステファノ君の事、聞いたか?」

「マロウさん? 私は今学校に来たばかりなので、何も聞いてないですが」

「そうか。実はな、彼女は2週間の停学を食らって、今日は学校に来ていない」

「え……」


 係長の話に驚く。

 マロウは確かに妖精を脅して強制労働をさせていたが、その件を問題視されたのだろうか?


「実は昨日の模擬戦が罰則ばっそくの対象となったようなのだ。この学校の校長が、マロウ・ステファノ君がエルシィ王女を捕虜の様に扱っているのを見て、”不敬罪”にあたると言い出してな。王室からは何も言われてないにも関わらず、ステファノ女史に罰を与えることにしたようだ」

「王女様はいいよな。一度でいいから俺も大事に扱われてみたいものだ」


 なんだか凄く”あり得そう”な話だ。

 以前ステラがエルシィを戦闘で負かした時も、元教師のブリックルに絡まれた。

 教師陣の中では、エルシィを特別扱いにするという暗黙の了解があるのだろう。


 ステラは微妙な気分になったが、軽く肩をすくめるに留めておいた。

 こういう話は適当に流しておくに限る。


 それよりも、そろそろ本題に入ってほしい。


「今日集まった理由って、何ですか? お昼休みがそろそろ終わっちゃいますー」

「んじゃあ本題だけど、今ってまだ売店係は3人だけじゃん?」

「ですね。でも、それがどうかしたですか?」


 ニヤリと笑ったクリスは良からぬ思惑を持っていそうだ。

 ここ一週間、模擬戦争を巡る騒動に巻き込まれていただけに、聞く前から嫌気が差す。


「メンバーに俺達しかいないうちに、俺達が有利になるように仕組んでおけないかなーと思った。俺もステラも売りたい物が有って、この売店に立つ時間を出来る限り長くしたい。係長だって、売店に立つ事を誇りに思ってる。長い時間を担当したいだろ?」

「勿論だとも。当初売店係に指名されたとき、不名誉な役割だと思ったがね、やってみると直ぐに私にとって天職なのだと気が付いた」

「わぁ……」


 大袈裟な身振り手振りで話す係長を、クリス共々半眼で見つめる。

 留年しなければ三年で卒業する学校生活の係活動。

 それが天職なのだとしたら、卒業後何十年と続く人生の中で、天職以外の職業をショボショボとやるのだろうか?

 気の毒でならない。


「あー天職ね。まー、それもいいのかもなー。それより! 分担についての話だけど、週五日間の登校日のうち、俺とステラがそれぞれ二日間ずつ売店を受け持つから、係長は週一日やってよ」

「ええ!! そんなに売店を使っちゃっていいんですか!? すっごく嬉しいです!」


 最近出費が増えているので、店に立つ時間が増えるのは願ったりだ。

 マジックアイテムをガンガン売って、貯蓄に回したい。

 

 しかし、係長は三人の中でもっとも年長で、確か今年で20歳を超えているはずだ。その条件でいいのだろうか? 年功序列を持ち出し、”最も年少なステラを週一日にしろ”などと言い出さないか心配でならない。


 係長は意外にもアッサリと承諾してくれた。


「私は売店係の危機――模擬戦争においてまるで役に立ってない。それを考えれば、一日分の担当で良しとするべきだろう。だが……、これから各クラスで選任される売店係をどうするつもりだ? 彼等の出番を奪い、プライドを傷つけるのか?」

「名ばかりの係員にしといたらいいっしょ。先日売店係を辞めた連中もメンドクサがっていたし! 俺等オレラみたいにヤル気満々な奴等は少ないんだよ」


「未来の売店係さん達にスンナリと話が通るといいですね!」


 こうして、ステラは今後更に売上を伸ばすチャンスを得たのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る