模擬戦争の大将

 係会では、誰が模擬戦争の際に”非”戦闘員となるかについて話し合いが続き、若干気まずい空気が流れた。

 立候補したならモチベーションの有無を疑われ、誰かを薦めたなら信頼関係が損なわれるだろう。その場に居る者全てがお互いの出方を伺っている……。

 そんな中、ステラは一人皆の恨みを買う覚悟を決め、全員のステータスを公表した。


 すると、最もステータス上優秀なのはLv46のメカニストであるクリスで、逆に最も良くないのはLv27の魔法使いである係長なのが判明してしまった。

 係長がサポートジョブを持っているなら、強さの判定は変わったかもしれないが、それも無い。魔法使い一本なのだ。

 真面目な彼の事だから、魔法のみをただひたすらに鍛えてきたんだろう。


 係長のステータスを知った者たちは一様に黙りこくった。

 この中で最も年長である彼が最も弱いのは、誰もが予想できなかったはずだ。気まずいことこの上ない。


 しかし、当の係長は気丈だった。


「ステラ・マクスウェル君。全員のステータスを教えてくれて有難う。私はそう……、魔法の才能に恵まれなかったんだ。後輩である君達よりもずっと弱い。足を引っ張らないように、私が非戦闘員になるとしよう」

「係長の分まで頑張りますです!!」


 年齢によって序列が決まらないのはこの学校の長所だけど、こういう場面ではなかなかに残酷な感じがする。

 沈黙に支配される中、エルシィがまたしても話し合いの方向性を示してくれた。


「次は戦闘員10名の中から大将を決めないといけませんわよ。売店係長さんが戦闘員であれば、そのまま大将でよかったのでしょうけど、外れましたからね」


 ドライな彼女が今は有難く思える。

 この模擬戦争の勝利方法の一つは、大将が持つことになるバッジの奪取になるので、大将の選任は重要事項だ。

 その人物が強ければ強い程良い。


「ステラがやればいーんじゃない?」

「うぇぇ!?」


 いきなりクリスに指名され、ステラは慌てふためく。

 この中で大将に相応しいのは、この国の王女であるエルシィか、ステータス上優位に立つクリスだと思っていた。だというのに、ステラを選ぶ理由は何だろうか?


「マロウ・ステファノに喧嘩を吹っ掛けられたのはアンタだろ? それにさー、ステータス上でも、ステラって俺と似たようなもんだよな?」

「な……なんの事やら……」

「大将は狙われやすい立場なんだし、強い方がいいってねー」

「クリスさん、変な事言わないで下さい~」


 しらばっくれようとするものの、倉庫内に居た者たちは皆ステラを凝視する。

 彼等はステラの偽りのステータスしか知らないので、ギョッとしてそうだ。

 それに、直前にクリスの分析魔法が【Ⅴ】なのだと発表したのはステラなので、彼の言葉を信じてしまったのかもしれない。

 全員のステータスを詳細まで読み上げた自分を呪ってしまいたい。


「メカニストやるのに、分析魔法は必須だからねー。俺に隠し事出来ると思わない方がいいかもねー」


 せせら笑うクリスに、ステラは頬を膨らます。彼はジョブこそ異なるが、自分とかなり似た存在だ。

 分析魔法を鍛えるのには平均20年かかると言われているのに、二人とも学生の時分でもう最高ランクのⅤまで上げている。自分だけ特殊だと思っていては、こうして足元をすくわれてしまうのだ。


 エルシィやレイチェルの方を見ると、深く聞きたそうな顔をしている。その好奇心を逸らしてしまう為に、ステラはわざと大きな声で宣言した。


「わ、分かりましたよ!! 私が大将を務めてみますね! ただし、直ぐにバッジを奪われてしまっても恨まないで下さいよぅ!」

「恨むけど」

「う……。えーと、えーと……。向こうのチームの大将はマロウ・ステファノさんになるんでしょうかね!?」

「普通そーするんじゃね? あの地味子。ジョブがグリーンハンドとかいうマイナージョブなんだけど、レベルが50いってっからね。校内でも10本指に入る猛者なはず?」

「そんなに強かったとはっ」


 目立つ生徒のステータスはだいたい集め終わったと思っていたのに、相当強い生徒のデータを取り損ねてしまっていた。

 模擬戦争が行われる来週の火曜日までの間に、なんとしてでも彼女に【アナライズ】をかけ、ステータスデータを得たいところだ。


 ちなみに、今回園芸係と連合関係になる飼育係の方のクセ者は把握していたりする。副係長のチャストラが”野人”という特殊なジョブで、驚異的な身体能力の持ち主なのだ。入る学校を間違えたのではないかと裏で言われていたりする。

 余談はさておき、彼のSTRとAGIはエルシィの数値の二倍以上で、それぞれが287、394である。そこからアビリティや装備でどこまでの能力を発揮するかは不明であるが、接近されてはまず太刀打ち出来ない相手だ。

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