逃亡する売店係達
お昼休みまでの間に、ステラは連絡フクロウを使い、園芸係長マロウ・ステファノとのやり取りを全売店係員達に伝達した。すると、悲しくも、10名中7名の人員がアッサリ売店係を辞めてしまった。
各クラスでの選任が済むまでの間、その7人分空席になるので、園芸係&飼育係との模擬戦争には、たった3人ぽっちで挑むかに思われた。
しかしながら、ステラの話を聞いたクラスメイト達が助っ人になってくれることになった。
学内の模擬戦争では、傭兵制度なるものが設けられており、申請時の人数制限下で他人の力を借りられる。だから、それを利用しない手はないだろう。
そんなこんなで、売店係長の呼びかけで放課後に緊急集会が開かれた。
倉庫に集まったのは、ステラ、エルシィ、レイチェル、最近販売を手伝ってくれるクラスメイト6名、そして売店係長と、赤毛のクリス。全員で11名になる。
1年スライム組の面々は緊張の面持ちでジッとしているが、少し離れた所で係長はウロウロと歩き回り、クリスはだるそうに俯く。上級生二人は何を考えているだろうか?
係長の方は何を話すか決めたのか、中央まで進み出て、足を止めた。
「単刀直入に言おう。働きの悪い売店係共がこぞって辞めてくれて、私はせいせいしている!!」
「……あれ?」
てっきり、余計なことをしでかしたステラに怒り狂うだろうと思っていただけに、意外な感じがする。
「それに! 理由がどうあれ、アヤツ等はこの倉庫や売店を! 我等の聖域を汚し、破壊した! 許しがたい……許してはならない! ステファノ女史に一矢報いねば気が済まない!」
「おお! すんごく闘志が漲ってます!」
良く分からないが、係長の熱弁に何となく鼓舞されたような感覚だ。
これが多人数をまとめ上げる能力というものなのかもしれない。
ステラ同様、他の面々の緊張も解けたようだが、ただ一人、無表情のままの生徒もいる。いつもながらクリス・クラースは空気を読む気がない。
「メンドクサイ事してくれたもんだよねー。奇人マロウ・ステファノ率いる園芸係に喧嘩ふっかけるとかさー」
「クラーク先輩! 誤解です。ステラちゃんは何も悪くなくて……自分がウッカリ”妖精の大麦”を盗んでしまったからこうなった感じで……。申し訳ありません!」
「そうですわ! そもそも、ステファノさんが妖精を拘束して働かせていたのが事の発端です! ステラさんを責めるのは筋違いですわ!」
コリンとエルシィが口々に庇ってくれたため、クリスは僅かに仰け反った。味方が居るのはいいものだ。
それにしても、クリスがここに居てくれるのも少々疑問に思える。
面倒事が嫌いな彼だから、真っ先に係を辞めると思っていたのに、売店係のままなのだ。
その答えは意外にもレイチェルが知っていた。
「クラーク先輩も素直じゃないな~、ステラと同じく、売店を問題無く使いたいって思ってるくせに~」
「ま、そういう事。舐められてたら、次何してくるか分かんねーし、この辺で叩き潰すのも悪くない感じ」
クリスの何がステラと同様なのだろうか。
彼の情報を多く把握しているわけではないので、二人の会話を深く理解出来ない。
首を傾げていると、係長が説明してくれた。
「ステラ・マクスウェル君。君のことだから、クリス・クラークを既に分析しているだろう? 彼のジョブはメカニスト。校内のオタク達の為に売店で部品を売りさばいているんだ」
「そうだったんだ!」
自分のジョブに関連する商品で儲けているから、レイチェルが『ステラと同じ』と言ったようだ。今までクリスは取っ付きにくい先輩だったけど、少しばかり親近感が湧いてきた。
場がグダグダになりそうなのを察したのか、エルシィがハキハキ話し出した。
「提案なのだけど、まずは戦闘メンバーを決めませんこと? 私達スライム組の8人は傭兵制度を使って模擬戦争に参加させてもらいますけど、元々の売店係員さんたちの人数うを超えてはならない決まりですわよね? 一人非戦闘員にしないといけませんわよ」
模擬戦争のルールを良く知らないステラにも、エルシィの提案は重要な事に思える。
「あ、では私が非戦闘員になりますです! 裏方としてマジックアイテム製作で皆さんを支えるとします!」
マラソンの給水係のような役割が自分に最も適しているだろうと考えて、我先にと手を挙げたのだが、多数の厳しい視線がステラの顔面に突き刺さった。
「「「却下!!!」」」
「うぐぐ……。酷いです。ステータス的にはこの中で私がは最も弱いのに……」
メソメソと泣くステラを慰める者は誰も居なかった……。
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