殺伐とした係会

 ステラは売店の店じまいをした後、コリンから移動販売分の売上等を聞き、学校西側の倉庫へ向かった。

 そこは学校の売店が取り扱う商品の在庫置き場に使われているのだが、何故か毎月係会の会場となっている。


 簡素なドアを開け、倉庫内に踏み入る。

 中にはすでに8人の生徒達が集まっていた。

 木箱の上に腰掛ける者、床に直接座る者、ヤル気がなさそうに突っ立ったままの者。学年も性別もバラバラな売店係達を取り巻く雰囲気はあまり良くない。


 居心地の悪さから、ステラは出口の真横を居場所に決め、ちんまりと三角座りをする。


(早く終わってほしいなぁ)


 ステラが着いても係会が始まらないのは、この場に売店係長が居ないからだ。懐中時計を取り出してみると、時計の針はもう13時5分を過ぎていて、開始予定時刻を5分オーバーしている。


 係長は遅刻とは無縁そうな男子生徒だから、この状況は少し意外な感じがする。


 暇を持て余し、入口のドアから顔を覗かせてみれば、校舎の方から走ってくる生徒が見えた。漆黒のマントを羽織る少年は黒髪を七三分けにしていて、全体的に地味な印象だ。彼こそが売店係長その人なので、これで漸く係会が始まるだろう。


 俊敏な身のこなしで入口に突進してくる姿に恐れをなし、ステラは出来る限り素早くドアから離れる。

 黒くてカサカサした生き物が苦手なのだ。


 倉庫に入って来た係長は、漲るみなぎるヤル気をにじませながら、中央まで進み出た。


「私としたことが、遅れてしまった! すまなかったね! さてさて、早速だけど、六月の係会を始めようじゃないか」


 彼は反応の鈍い売店係達の様子が気にならないらしく、大袈裟な身振り手振りで話し続ける。まるで一人芝居を観ているような感じだ。


「六月は随分売れ残りが多かったようだね! 廃棄量が多かったとの報告をもらっているよっ! 特に、総菜パンのはけが悪い! 実に悪い! 仕入れのコストが全部無駄になったことをどう考える? ステラ・マクスウェル君!」


 いきなり声を掛けられてしまった。

 ステラは面食らいながらも「うーむ」と頭を悩まる。売店で扱う惣菜パンはハッキリ言ってまずい。だとしたらそのまま売り続けるのは厳しいはずだ。


 10秒程考えてみると名案を思いつけたので、満面の笑顔で口に出す。


「パンの代わりに漫画を売りたいです!」

「愚かしいっ! わざわざ学校で漫画を買いたい生徒がいるわけないだろう!」

「えぇっ!?」


 つまらない授業などはコッソリ漫画を読みたいと考えているのだが、駄目な思考だったらしい。


「だいたい君、取引というものを甘く考えているよ。仕入先のパン屋の主人はこの学校の校長の友人! つまりだね、校長の交友関係の為にも、あのパンを仕入れ続けなければならないんだ!」

「学校の売店用に、パンを買い続けないと校長はボッチに……?」

「そう!」


 売店で総菜パンを扱うのは悲しい事情があるからだったらしい。

 シュンとしてしまう。

 しかし、そんなステラとは違い、二年の赤髪の男子生徒は係長に対し、まさかの攻撃を始めた。


「係長さーん。アンタ遅刻して来てんだからさー、テキパキ進行して、さっさと終わらしてくんね? こっちも忙しいでーー」

「……ぐ。そうだな。だが恒例の月間売上高報告はしてもらうぞ」

「あっそ」

「まずは私からだ。月曜昼の一カ月分の売上は金貨2枚銀貨8枚銅貨1枚に終わった。次は月曜放課後担当の報告を頼む」

「銀貨7枚でーす」

「少なすぎる! 次は火曜日昼担当!」

「金貨1枚と銅貨5枚だったかな」


 次々と月間売上高が報告されていくが、今のところ係長の売上を超える者は現れない。これは今月に限ったことではなく、4月も5月も似たようなパターンだった。


「売上は銀貨8枚分よ」


 木曜日の放課後を担当する女生徒の報告が終わり、次はステラの番となった。


「売上はだいたい金貨95枚ですっ!」


 元気よく言い放つ。

 すると、9対の視線がステラの方を向いた。

 金額が他の生徒達に比べて桁違いであるだけでなく、これまでの月間報告よりも更に金額が大きいので、驚かせてしまったかもしれない。

 

 だが、係長が気にしたのはそこではなかった。


「ステラ・マクスウェル君! 君の場合は自分で作ったアイテムの売上金額も含めているんだろう!! 抜いて報告するんだ! 全く!」

「うわっ……分かりました。私が作ったアイテムを抜いた売上は……えーと……、銅貨5枚分ぽっちです」

「最低売上高を更新してるじゃないかっっ!! 何て駄目な売店係なんだ!」


 ステラの報告に、係長は大袈裟に頭をかかえたのだった。

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