第18話


目の前を通らないと家には帰れない。


だから、そこを通ることにした。

アキは、知らないふりをするかな。


少しだけ下を向いて歩く。

アキに気づいてほしい気もするし、気づかれたくない気もする。


自販機の前に立つアキは、こっちを見た。



ちゃんと目があったのに、なにも言わなかった。

私もなにも言わなかった。


そこから結構歩いた。

なんとなく歩くペースは遅い。


煙草のにおいがした。




「おい。」


アキだ。


歩くのはやめなかった。

歩き続ける私の腕をアキは掴んだ。


「おい。」

「・・・。」

「アズ。」

「なに。」

「なにしてんの、遅いよ。」

「・・・。」


「送ろっか?」

「だいじょうぶ。」

「嫌だね。送る。」

「いいって。」


そう言ったのに、アキはずっと隣についてきた。


「本当にいいんだけど。」

少しきつく言ってしまった。


アキは、立ち止まった。


「ごめん。」


そう言ったけど、アキは私を抱きしめた。


目があって、アキの目をみてわかった。


キスされる・・・。


その瞬間に、唇をぎゅっとつむんで下を向いた。

唇に力を込めて、キスを拒んだ。


「口、開けてよ。」


アキの顔が近くて、さっきの煙草の匂いがした。


「アズ、口あけて。」

首を振る。

口を強くつむったまま。


「じゃあ・・」

そう言って、首筋に唇を優しく当てた。




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