クラフター公爵家令嬢の婚約破棄騒動

青空鰹

クラフター公爵家令嬢の婚約破棄騒動

私こと、 リペア・ワークス・クラフター 公爵令嬢は現在窮地に陥っております。何故なら・・・・・・。


「リペア・ワーク・クラフター! お前とはこの場を持って婚約破棄を言い渡す!」


そう、婚約者であるこの国の王子。 アバレス・ノウ・バレスタ 第一王子に卒業パーティーの場で婚約破棄を言い渡されたのだ。


「ちゃんとした理由はあるのですか?」


周囲がざわついている中、王子にそう問い掛けると フンッ! と鼻先で笑ってから答え始めた。


「理由? そんなのキサマが1番わかっているだろう!」


アバレス王子はそう言いますが全く心当たりがないです。


「心当たりがありません」


「彼女の顔を見てもそう言えるのか?」


そう言って王子の元へやって来たのは黒髪の女性だった。て言うか本当に誰?


「えっとぉ、どちら様ですか?」


私がそう言うと彼女は顔を手で覆いアバレスの身体に身を寄せると、アバレスは彼女の身体を抱きしめ、頭を撫でる。


「酷い! 私に対して散々酷い事をしたくせにぃっ!! うぇ〜〜〜んっ!!?」


あ、いや。本当にアナタの事を知らないし。それに泣きマネ下手ですねっ!! アバレス王子は気付かないの?


「何て酷いお方なのかしらぁ!」


「マリネさんのノートを破ったり、お茶を掛けたりしていたのを見ていたのよ!」


「わたくしだってアナタが、マリネ様を階段から突き落としてのを見ましたよ!」


いや、本当にそんな事してない。っていうかマリネさん、指の隙間からこっちを見つめている丸わかりですよ。しかも目元が笑っている。


「あの、すみませんがノート破ったり、階段から突き落としたりしたのを見たのはいつ頃の話ですか?」


「い、言う訳がないでしょ! 絶対に誤魔化されるに決まってますから」


「「そうよ、そうよっ!!」」


ああやっぱり、仕組まれた婚約破棄騒動だったんだね。


「それにキサマの領地は不正な金が横行しているのだろう?」


「不正なお金ですか? 全て正統なお金ですよ」


鉱山から出た鉱石を売って収入を得たり、薬を作って売ったり、後は服とか色んな物を作って領地を豊かにしていたから、やましいところは何もない。現に私自身も横領とか不正なお金の流れはないか毎回確認していたから間違いない。


「嘘を吐け! 現に鉱石の産出量が低くなっただろう!」


「それは私が炭鉱業に携わっていなかったからであって・・・・・・」


「お前が? お前1人が加わっただけで何も変わる事はないだろう? それに稀少石の量も減っているのだが?」


「それも私も同じ理由です」


私がそう言うと、アバレス王子は勝ち誇った笑みを浮かべた。


「わかりやすいデタラメを言うクソ女だな。もういい薄汚い犯罪者はこの国には不要だ国から出て行け!」


いや、出て行けって言われましても。


「アナタの一存では私を追い出す事は出来ませんよ」


私達が小さい頃に王妃は亡くなられて今は国王が政治を取り仕切っているのだが、病に伏せてしまっていて現在意識不明だ。でも私が渡した薬を飲んでいれば起き上がってくれる筈。


「これを見ても言えるのか?」


アバレス王子はそう言って懐から1枚の紙を取り出して、私に見せ付けて来た。


「それはっ!? 王印の入った令状っ!!」


「そうだ! 全財産の差し押さえと、領地没収が書かれた令状だ!」


そんな! 現に国王は病に伏せていて、とても字を書ける状態では・・・・・・まさかぁ!?


「アバレス王子、まさかアナタがそれを書いて王印を押しましたね?」


「さぁ? 何の事やら」


シラを切るアバレス王子に対して、初めて怒りを覚えました。ですが、私は気持ちを落ち着かせます。


「この王印がある限り、決定事項だ! 」


「待って下さい。議員達にもそれが正式な物なのか確認を取らせて頂きます」


「くどいぞ、出で行け、この薄汚い犯罪者めっ!! このブサイク女!!」


その言葉に私はカチンッ!? と頭に来ました。


「わかりました。アナタのご希望通り、この国から出て行きましょう!」


その言葉に一部の人間がざわついたが、私は気にせずバカ王子に話し続ける。


「去る前に忠告しておきます」


「何だ? キサマと会うのはこれで最後になるからな、聞いてやろうではないか」


「私がこの国を出たら、アナタとこの国が困る事になります。後々後悔しないで下さいね」


「ブゥア〜〜〜ッハッハッハッハッ!!? 後悔? 負け惜しみならもっとマシな事言うんだなぁっ!! イヒッ!? アヒヒッ!! お、おもしろ過ぎて腹がよじれそうだぁ〜〜〜っ!! アヒヒッ!!?」


アバレス王子の気色悪い笑い声を背に学園を出て行った。どちらも青い顔をしている学生がいる事に気付かずに。


こうして悪令嬢リペアは一家と共に国外へ追放され、アバレスとマリネは結婚をして末長く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし・・・・・・とアバレスの中ではそう行く予定だった。


「・・・・・・どういう事だ?」


愛するマリネと共に盛大な結婚式を挙げてから半月。アバレスは玉座に座りながら頭を抱えていた。


アイツらからでっち上げの罪で奪った金で、周囲の反対を押し切った盛大な結婚式を上げてから半月、この有り様は何だ?


「お、王子!」


「馬鹿野郎! 俺は王子じゃない、陛下だ!」


「し、失礼しました! 元クラフター家の所有していた鉱山を掘り進めようとしたのですが、地層がとても硬くて、とても作業が出来ないと炭鉱の者達が言っております!」


そう、クラフター家の者達を追い出してからすぐに兵士達を使って掘り進めるように言ったのだ。炭鉱にいた人間達はどうした? もちろん邪魔だから追い出したに決まっている。


「お前、嘘を吐いてないよな?」


俺が着手するように言ってから始めた炭鉱は、掘れば掘るほど希少な鉱石が出て来て毎日がお祭り騒ぎだったが、それが7日目でピタリと止んでしまった。


「滅相もございません! 事実です!」


「・・・・・・そうか。それで、服の方は?」


「仕立て屋に何度問い詰めても、あの素晴らしい生地はもう手に入らないから、前のような服を作れないと言われてました」


そう、クラフター家の抱えていた仕立て屋が作った服は、王都でも指折り数えるほどの人気で予約でいっぱいになるほど有名なのだ。いや、今では有名だったと言った方が正しい。


「しかも仕立て屋は、 クラフト家を追い出さなければこんな事にならなかったのに。 と言ってました」


ちょっと前まではその名を聞いてよく笑っていたのだが、今はそんな気が起きない。


「・・・・・・鍛冶屋は?」


「仕立て屋と同じ事を言ってました」


そう、鍛冶屋も一流と称されて軍の幹部から有名な冒険者まで彼の作った武器を愛用していたが、最近では希少な鉱石が取れなくなっているせいか製品の質が落ちつつある。


「・・・・・・魔法薬は?」


「これが我々の普通だっ!? と言われてしまい、追い出されました」


そう、薬剤屋も質のいい薬を普段より安く売っているのが売りだったが、最近では生産量が落ちている上に効き目が落ちている。

それだけならまだしも、元クラフト領で俺の事を一番と言っていいほど目の敵にしているのだ。


「殿下、大変ですっ!!」


「今度はどうしたっ!?」


「国を覆っていた結界が消えてしまいましたっ!!」


「何だとぉっ!!」


そしてこの国にはとても強力で巨大な結界を張っていて、その結界のおかげで敵国や強力な魔物の脅威から退けて来たのだが、結界が消えたという事は我が国の危機に直面したという事だ。


「今すぐに結界石を直すんだぁっ!!」


「前にも話ましたが我々の力では無理です!」


そう結界の力が弱まって来た時点で、修理するように優秀な魔道士と魔具使いを集めたのだが全く歯が立たないまま時間だけが過ぎて行って今の状態になってしまった。


「陛下、大変です! 隣国が攻めて来ましたぁ!」


「何だとぉ!?」


まさか、ヤツらも結界が弱まって来ているのを知っていて・・・・・・こうしちゃおれん!


「今すぐに兵士を集めて対応しろぉっ!!」


「ア、アバレス! 大変よ!」


「ど、どうしたんだ、マリネ?」


血相を変えて俺の元へやって来るマリネの身体を支えたら、彼女は慌てたようすで話す。


「部屋に、部屋にお父様が何処にもいないのっ!!」


「何だってぇっ!?」


未だに意識がない筈の親父が消えただって!?


「で、殿下! 大変ですっ!!」


「何だ?」


「市民と共に反乱軍が城を攻めて来ましたぁっ!!」


「「ええっ!?」」


このタイミングで反乱軍が来るなんて、つーかこの国に反乱軍が存在していたのかよ! 知らなかったぁっ!!


「もう無理です! 城内のほとんどが制圧されていて、陥落寸前です!」


「なんだとぉ!?」


もう打つ手なしの状態なのか・・・・・・。


「・・・・・・それに」


「まだ何かあるのか?」


「はい! 我々も反乱軍の一員ですので、アナタ方にはお縄に着いて貰います」


「「・・・・・・え?」」


ホールにいた兵士全員が剣を引き抜き、俺達の元へやって来たのだ。そう、ここには誰1人2人の味方がいなかったのだ。


「お前ら、国を裏切るつもりかぁっ!?」


「黙れこの罪人! 国王しか使えない王印を勝手に使い、あろうことかクラスター家の者を罪人に仕立て上げた! その罪は重いぞっ!!」


「それにリペア様しか結界石を制御が出来ないのに追い出しやがって!!」


「えっ!?」


あの結界石の制御がリペアしか出来ない?


「ど、どういうことだ? 俺はそんな話を聞いてないぞ!」


「どうせアンタは不真面目だからな、聞き流していたんだろうよ!」


そう言えば、父上がそんなことを言っていたようなぁ・・・・・・じゃなくって! 俺ピンチじゃねぇかっ!!


「それに、鉱山の件も彼女が掘り進めて鉱石が出る個所にたどり着いたところで、岩盤を掘りやすいようにしていたんだよ!」


「何だって!?」


「服も国王と王子が着るものだけ、リペア様が布から作っていたんだよ! しかもその布を領地の仕立て屋達に渡していたんだよ! 後クスリもなぁっ!!」


「そんな事もしていやがったのか、アイツは!!」


炭鉱どころか服にもクスリにも手を出しているってことは、まさかぁっ!?


「父上が持っていたオリハルコン製の剣は?」


「「「リペア様自身がお造りし、国王に献上した物だよバァァァ〜〜〜〜〜〜カッッッ!!?」」」


「何だってぇっ!?」


「何ですってぇっ!?」


そうこの2人はこの時初めて、この国を支えていたのがリペアだったと気付いたのだ。


「さて、話すことは話ましたし。そろそろお縄に着いて貰いましょうか?」


「「ヒッ、ヒエエエエエエエエエエエエエ・・・・・・」」


近づいて来る兵士達にアバレスとマリネの2人は、お互いの身体を抱きながら身を震わせていた。


・・・・・・その翌日。


今日もお仕事楽しかったなぁ〜。


そう思いながらゴーレムに引かせている荷台の上で、座って風景をぼんやりと見つめていると畑で作業をしているおじいちゃんを見つけた。


「あ、おじいちゃぁ〜ん!」


「おお〜、リペア。もう帰って来たかぁ!」


荷台を降りておじいちゃんの元へと駆け寄ると、頭を撫でてくれた。


「私もう15歳だから、それはちょっと恥ずかしいよ」


「いやぁ〜、いいんじゃないかぁ。何処かの誰かと違って、お前さんは可愛いからなぁ〜!」


そう、この人は病に伏せていた元国王様で、今はもうすっかり元気になって私達と家族として一緒に暮している。


「ところで、仕事の方はどうじゃった?」


「バッチリ! 大きな穴のトンネルを掘ったよ! 領主様が大喜びしていたよ!」


「お主も貴族なのじゃから、様はいらないじゃろ」


「おじいちゃんもね」


そう、元国王様の国は隣国に掌握されて無くなってしまったが、その隣国で暮らしていた私達が引き取るという形で丸く収まった。て言うか、多分元国王様自体がこの国と暗躍していたのかもしれない。

それに私を含めて監視が着いているのだけれども、その人達は私達を信用しているのかノホホ〜ンとしているのだ。


「リペア様、荷台に積んでいるのはもしかして?」


「ん? うん。トンネル掘っている途中で出て来た鉱石の一部を貰って来たんだぁ!」


「中身はやはり?」


「ミスリルとオリハルコン。後は宝石が入っているよ」


私がそう言った瞬間、監視役の人達が呆れた顔をさせて頭を抱えていた。


「一粒で一生遊んで暮らせると言われる希少な鉱石オリハルコンを・・・・・・」


「荷台にたくさん乗っけて来てる」


「我々の常識がどんどん崩れていく・・・・・・アハハハハハ」


「まぁまぁ、今に始まったことじゃないからのぉ。そんなに悩まんでもええんじゃないか?」


おじいちゃんが困った顔をさせ、監視役の人達にそう言う。


「家に着いたらこの鉱石達を使って、国王様から頼まれていた王冠とティアラを作ろうと思うの」


「「「何ですとっ!!?」」」


「まぁワシも、リペアにオリハルコンで作って貰ったっからのぉ。そんなに驚かなくてもええんじゃないか?」


「「「オリハルコン製の王冠を被っていたのぉっ!?」」」


おじいちゃんは監視役達の反応が面白いのか、ガァーッハッハッハッハッ!!? と笑っていた。


「そうだよ。おじいちゃんは私が作った物で身を包んでいたんだよ。もちろん王冠もね」


「そうじゃなぁ。そろそろお昼になるから、ご飯を食べに戻るかのぉ」


「そうだね!」


私はおじいちゃんと共に家に向かうのであった・・・・・・え? あの立派な家も作ったの? うん、そうだよ。私とお父さん達で作ったんだよ!

あっ! 後さ、風のうわさで聞いた話なのだけれども、アバレスとマリネは指名手配されていて逃亡中なんだって。彼らが今頃どうなっているのか、私にはもう関係ないんだけどね。

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